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戯曲『菜ノ獣 –sainokemono–』④ 研究対象2


研究対象2


 
研対2の歌声が聞こえてくると明転。

地べたに座って歌っている研対2。

その前に白い杭が立っている。



研対2
  〽わたしの全部のそのすべて  どこかの誰かのためのもの
   わたしを食べるそのひとは  わたしを感じてくれるかな? 
   わたしを食べるそのときに  わたしを想ってくれるかな?
   どこかの誰かは誰だろう   わたしは誰かの何だろう
 


ミヤタ、遠方に研対2の姿をみとめ、


 
ミヤタ あ、ムラカミさん、あれ。

ムラカミ ん?

ミヤタ あそこ。ほら。

ムラカミ あれは……。
 


歌の終わり際に研対2の近くまでやってくるミヤタとムラカミ。


 
ミヤタ 歌、好きなんだね。

研対2 あ……あ、違うんです!(立ち上がり)ごめんさい!ごめんなさい!もう勝手に歌いません!許してください!許してください!

ミヤタ ちょ、落ち着いてよ。落ち着いて!

研対2 ごめんなさい!ごめんなさい!あの、ご奉仕します!許してください!許してください!
 


研対2、膝をついてミヤタのズボンを下ろそうとする。
 


ミヤタ ちょっと!何やってんの!?

研対2 ご奉仕します!させてください!

ミヤタ ご奉仕って……ちょっと!いいよ!落ち着いてよ!
 


ミヤタ、研対2から離れる。
 


研対2 ああ、許してください!ご奉仕します!
 


研対2、ムラカミのズボンを下ろそうとする。
 


ミヤタ 一回落ち着こう!ね!

研対2 ご奉仕します!ご奉仕します!
 


研対2、ムラカミのズボンを下ろす。

ムラカミの派手なブリーフが露わになる。
 


ムラカミ ……。

ミヤタ (研対2を止めながら)そんなことしなくていいから!ね!

研対2 ご奉仕します!ごめんなさい!ご奉仕します!


 
ムラカミのパンツを下ろそうとする研対2。

あわてて止めるミヤタ。

されるがままのムラカミ。
 


ミヤタ 大丈夫だから!落ち着いて!ちょ、一回手離そ!ね!一回手離そ!


ミヤタ、必死で研対2の手をブリーフから離そうとする。


ミヤタ 力がすごい……手離して!一回!落ち着いて!落ち着いて!(ムラカミに)何落ち着いてんすか!

ムラカミ え?

ミヤタ 「え?」じゃありませんよ!何で身任せてるんですか!

ムラカミ ああ。(棒立ちのまま)止せ!……止せ!


ブリーフを引っぱられては戻されするたび、ムラカミの体が弓のようにしなる。



研対2 ご奉仕させてください!ごめんなさい!

ミヤタ いいからいいから!離して!一回立とう!ね!
 


ミヤタ、ようやく研対2を引き離して立ち上がらせる。
 


ミヤタ 落ち着いて!落ち着いて、ね!

研対2 ごめんなさい……ごめんなさい……。

ミヤタ 大丈夫だから。大丈夫だから。

研対2 牛のエサとかにしないでください。豚のエサとかにしないでください。

ミヤタ しない。しないよ。落ち着いて。僕たちはただ君と話がしたいだけなんだ。

研対2 ……話?

ミヤタ そう。話。

研対2 それは、人の役に立つことですか?

ミヤタ ……ああ!君と話ができたら僕たちはすごく助かるよ!

研対2 本当ですか!?

ミヤタ ああ。本当!

ムラカミ 俺たちと話したってこと、所長さんたちには内緒にしてもらえるともっと助かるんだけどな。

研対2 秘密――ですね?

ムラカミ できるかな?

研対2 できます!秘密をちゃんと守ることはとても人の役に立ちます!

ムラカミ できた野菜じゃないか。

研対2 (うれしそうに)できた野菜?できた野菜!?

ミヤタ 聞いて、いいかな?

研対2 はい!

ミヤタ その、歌を歌うことはいけないことなの?

研対2 歌は……人に教えてもらった歌以外は、歌ってはいけません。ごめんなさい。

ミヤタ いや、あやまらなくてもいいんだけど。何でダメなのかな?

研対2 歌は、危険だから。

ミヤタ 危険?何が危険なの?

研対2 ……わかりません。

ムラカミ 今の歌はどうやって覚えたんだ?

研対2 ……。

ムラカミ 自分で作ったのか?

研対2 ……(うなづく)

ムラカミ ……。

ミヤタ すごくいい歌だったよ。

研対2 本当ですか?

ミヤタ 本当だよ。ねぇ?

ムラカミ ああ。

研対2 いい歌。いい歌。

ミヤタ また聴かせてほしいな。

研対2 ……。

ミヤタ あの、さっきご奉仕って言ってたけど、その、ご奉仕っていうのは、ここの所長さんとか、クボさんとかによくするのかな?

研対2 いいえ。所長さんもクボさんもご奉仕をさせてくれたことありません。

ムラカミ じゃあファームの連中か?

研対2 はい!ファームの方々にはよくご奉仕させていただきました!

ムラカミ どこにでもクズみたいな奴らはいるもんだな。

ミヤタ ……。


ミヤタ、ムラカミをじっと見る。



ムラカミ 何だよ?

ミヤタ ズボン!

ムラカミ ああ。
 


ムラカミ、あわててズボンを上げる。
 


ミヤタ 何てパンツはいてんですか。

ムラカミ いいじゃねーか!

ミヤタ あの、僕たち、実はカドタさんのことを捜しに来たんだけど。わかるよね?カドタさん。

研対2 はい!カドタさんわかります!

ムラカミ できれば君の仲間とも一緒に話したいんだけど、この辺りにはいないかな?

研対2 仲間?

ムラカミ さっきいた他のベジタブルマンだよ。

研対2 あ、それでしたらあの丘を越えた辺りにいると思います。


研対2、遠方の丘を指す。



ムラカミ あれか。よし!行くか。
 


ムラカミ、丘の方へ歩いて行く。
 


ミヤタ 一緒に来てもらっていいかな?

研対2 あ、あの……。

ミヤタ どうしたの?

研対2 わたし、こっちからまわって行きます。

ミヤタ 何で?

研対2 越えれないんです。

ミヤタ え?

研対2 柵があります。

ムラカミ 柵?
 


ムラカミ、広い敷地にポツリ、ポツリと刺さっている杭を眺め、
 


ムラカミ 柵ってこの杭のことか?

研対2 お二人には平気かもしれませんが、わたしたちには越えることはできません。なのでこっちからまわって行きます。

ミヤタ 君たちベジタブルマンがこの杭を越えたらどうなるの?

研対2 すっごい……不安になります。

ミヤタ え?

研対2 将来とか。あ、将来だけじゃなくて。何か、いろいろ不安になるんです。
 


ミヤタ・ムラカミ顔を見合わせる。
 


ミヤタ (研対2のところへ戻って)じゃあ一緒にまわって行こう!

研対2 はい!
 


ミヤタ・研対2、上手へはけて行く。
 


ムラカミ ……まわるって……杭伝いに行ったら随分遠まわりだぞ!おい!


ミヤタ・研対2、歩いて行ってしまう。


ムラカミ ……はぁ。
 


ムラカミ、二人を追う。
 
 



戯曲『菜ノ獣 –sainokemono–』⑤につづく


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