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高校入試研究② 2017年度 桐朋高校 国語 大問1

はじめに

久しぶりの投稿となってしまいました。春期講習〜新学期の始まりはいろいろとバタバタするもので、忙しい日々を過ごしていました。ようやく落ち着いてきたので、(ゆっくりとですが)投稿を再開していこうと思います。よろしくお願いいたします。

今回はタイトルにもある通り、高校入試研究の第2弾として、桐朋高校の問題を扱います。個人的には桐朋の国語はかなり好きです。

基本情報

桐朋高校の国語は、現代文(評論+随筆)の2問構成です。特徴は記述問題の多さです。字数指定のないものを中心に、難易度の高い問題が例年5問以上出題されます。また、随筆の良問を出題する高校は非常に少なく、重宝します。

解説(大問1)

出展:平川克美『言葉が鍛えられる場所』
言葉について、特に「言葉が無力にならざるをえない場所」における言葉を見つめ、思考していくエッセイ。今回は記述問題に絞って解説をしていきます。

問六

設問分析
理由説明。傍線部は「二年間の介護生活が報われた気がしたのです」。父親の介護に「愛」からではなく「義務感」からあたっていた筆者は「親孝行だね」などのように褒められても、苦労が報われると感じることはなかった。
傍線部分析
傍線部を含む一文は、


しかし、関川さんの「義務は愛よりも信じるに足る」という言葉を聞いて、二年間の介護生活が報われた気がしたのです。

まずは「しかし」に注目。直前は、「『親孝行だね』などのように褒められても、苦労が報われると感じることはなかった」という内容。次に、「関川さんの『義務は愛よりも信じるに足る』という言葉を聞いて」の部分が傍線部に対する直接の原因になっているとわかる。
方針
ここまでの分析をまとめると、①「関川さんの『義務は愛よりも信じるに足る』という言葉を聞いた」→②「二年間の介護生活が報われた気がした」という関係が導かれる。解答の軸は①で決まるのだが、これだけでは説明不足である。なぜ①→②という関係が成立するのか。言い換えると、なぜ「義務は愛よりも信ずるに足る」という言葉によって「報われた」と感じるのか。これを直前の筆者の父親の介護に対する思いを説明した部分をもとに説明する必要がある。
解答要素
A 傍線部の2つ前の段落にこのようにある。

実際のところ、わたしが父親の介護に就いたのは愛というよりは、義務感からでした。

つまり、「自分がやらなければならない」という義務感が父親の介護をする動機だったのである。
B 傍線部の1つ前の段落から、「親孝行だね」「お父さん喜んでいるよ」のように褒められても=「愛」の部分を褒められても、苦労が報われたようには感じなかった、つまり自分の動機が認められたように感じていないとわかる。
C そんな中で関川さんの「義務は愛よりも信ずるに足る」という言葉を聞いた、つまり、「義務感」という自分の動機が認められたように感じたため、「報われた」と感じたのである。

解答例
筆者は愛ではなく義務感から父親の介護をしたことにどこか後ろめたさを感じていたが、関川さんの言葉を聞いて義務感という動機が認められ、肯定されたように感じたから。

問九

設問分析
言い換え。
傍線部分析
傍線部は、

言葉の持つ、この両義的な性格はしばしば誤解の種になりますね。

まず、①言葉の持つ、この両義的な性格②①が誤解の種になると分割できる。それぞれを本文に基づいて説明していく。
方針
①「言葉の持つ、この両義的な性格」とはどういうことか。
②「誤解の種になる」とはどういうことか。
解答要素
A ①について。「言葉の持つ、この両義的な性格」は「この」という指示語がついているので、前から探す。が、その前に探すものがどのようなものなのかを検討する必要がある。「言葉の持つ」とあるので、言葉の性質であることは言うまでもない。ポイントは「両義的」。「両義的」は簡単に言うと「2つの意味を持っている」ということ。「言葉にある、2つの意味を持つという性質」について述べている部分を前から探す。直前の2段落は具体例なので、その前の段落に注目。三十四段落の「言葉には、それが指し示す意味とはいつも少しずれたところに本当に伝えたい事柄が隠れている」と三十五段落の「言葉は全く正反対の意味を持って発せられます」が該当する。
B ②について。傍線部の直後に注目。「それは」とあるので、傍線部と繋がっていると分かる。「言葉の意味は聞き取れても、相手のヴォイスを聴き取れていないから」とある。「ヴォイス」は「言葉の意味」と対立する意味だと分かるので、「伝えたいこと」や「真意」と解釈できる。つまり、「相手の真意を汲み取ることができない」が「誤解の種」だということ。

解答例
言葉が指し示す意味と本当に伝えたい事柄との間にはずれがあり、正反対の意味を持つこともあり、それが原因で声から真意を汲み取ることができないこともあるということ。

問十

設問分析
言い換え。「具体的に」という指示に注意。
傍線部分析
傍線部を含む一文は、

このとき、わたしは、言葉というものの逆説的な効果というこのを学んでいたのだとおもいます。

まず、傍線部は「このとき〜学んでいた」という表現から、「このとき」=ポールとのエピソードの中で筆者が学んだことを表すということがわかる。つまり、ポールとのエピソードを抽象化して解答を作る必要があるのである。そして、「言葉というものの逆説的な効果」の「逆説的」の語に注目する。「逆説的」とは「一見真理に矛盾するように見えて、実は真理である」ということである。
方針
傍線部分析を踏まえて、
① 言葉の逆説的=「一見真理に矛盾するように見えて、実は真理である」効果を説明する。⑴「一見真理に矛盾するように見える」と⑵「⑴が実は真理である」という要素に分けられる。
② ⑴と⑵をポールとのエピソードを踏まえて説明する。
解答要素
A まず傍線部の直前までがエピソード、それ以降がそれを受けての筆者の考えに分けられる。傍線部の直後に次のようにある。

言葉が通じないその分だけ、思いは通じるということもあるのです。言葉が通じない分だけ、相手のヴォイスは聴き取れていたのかもしれません。

ここが「逆説的」だと気付けるかがポイント。一般的に「言葉が通じない」と「思いも通じない」と考えるが、ここでは「言葉が通じないその分だけ、思いは通じるということもある」とある。本来言葉は思いを伝えるという役割を果たしているはずである。その言葉が通じないのに、思いが通じるというのが言葉の持つ逆説的な効果なのである。
B ではなぜAが成り立つのか。ここでエピソードに注目する。エピソードの概要は
1ポールはアメリカ出身のプログラマー
2筆者とポールはよく酒を酌み交わしながら話をした
3筆者は英語が苦手で、ポールは日本語が苦手であるため、会話がうまく成り立たない
4しかしお互いがお互いを深く理解したいという思いを抱いていた
5その結果、言葉がうまく通じなくても、お互いの思いを伝え合うことができた
というもの。
ポイントは6。Aが成り立つ前提として、「相手のことを深く理解したい」という思いを抱いていたということがあるのである。そしてこれが、拙い言葉でも思いを伝える、お互いを理解しあえるということを可能にしたのである。

解答例
本来相手に伝える手段である言葉がうまく伝わらないことでかえって相手の真意を汲み取ろうとし、その結果、より相手の思いを知りたいという気持ちが強くなり、拙い言葉でもお互いの思いが通じるようになるということ。

以上です。好みの問題ですが、桐朋高校の問題、特に随筆は非常に素晴らしい問題だなと感じます。
長くなってしましたが、お読みいただきありがとうございました。

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