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夏夜が明けるまで



ある夏の夜だ。コンビニで買った缶チューハイを2人で飲み歩きながら夜道を歩いた。

あー、私はさ笑って死ねたらそれでいいんだ。

だからあんまり難しく考えたことはない。
そう言って彼女は薄ら笑いを浮かべて缶チューハイをあおった。生温い夜風が頬を撫ぜる。遠くで遮断機の音が響いている。
僕は手に持っている缶チューハイを飲む気になれず、缶の中で弾ける炭酸がキャラキャラと涼しげに音を立てるのを黙って聞いた。

人生の半分も生きてないヤツがなにを言ってるんだって?…いやね、このご時世だとこうだ!って決めたものがないとやってけないと思うんだよ。

彼女は勢いよく缶チューハイを煽ると缶を持った手でこちらを指差しながら言った。

そう、私のこれだ!って思うことはさ、簡単に言うと死に方なんだ。
…別に死にたいわけじゃないさ。やりたいことだって沢山ある。まだ死んでなんかやらないよ。まだね。

ニヤリと笑って彼女は続ける。

でもまあ誰しもゴールは『死』だろう?
死に方さえ決めておけば後はどうにかなる気がするンだよ。私の場合はさ。ネガティブだって?そんなことないさ、生き方と死に方はつまるところ一緒なのさ。どう言う人生を送るかと言う点においては全くの同一のことさ。人生のルートのことを言ってるのか、ゴール地点のことを言ってるのかくらいの違いしかないよ。

一息にそうしゃべると彼女はまた缶チューハイを煽った。がもう空だったようで少し残念そうな顔をした後、手に提げたビニール袋から鬼殺しの紙パックを取り出して飲み始めた。そして空き缶をビニール袋の空きスペースに突っ込んだ。

薄ら明るい、夏らしい夜なのに、夜明けが来ないような、僕だけが置いていかれるようなそんな気がしてしまった。

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