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いま、キャリアカウンセリングの学びのテーマとして「自己概念の揺らぎ」を取り上げています。

「自己概念」とは「よしとするものの見方・考え方」のことで、できごとをどう感じてどう捉えるかの基準となるものです。その人らしい見方・考え方ともいえます。

二人で同じ映画を見てもその感想が異なるように、人によって受け取り方は様々です。だからこそ、その方にはどう見えて・どう考えて・どう感じたのかを理解することは、キャリアカウンセリングにおいて重要な要素となります。




その「自己概念」が「揺らぐ」わけですが、まずは「揺らぐ」という言葉の意味を捉え直してみます。

動く/揺れる/揺らぐ/ぐらつく の使い分け

1「動く」は、一度だけの移動に対しても用いるが、「揺れる」「揺らぐ」は、ゆらゆらと連続的に運動することをいう。

2「揺らぐ」は、安定し、固定していたものが何かのきっかけで不安定になるなど、連続的な動きでない場合も使う。

3「ぐらつく」は、本来安定しているはずのものが、不安定になってぐらぐらする意。

4四語とも、考えや状況、基盤などが不安定な状態になるという意でも用いる。「心が動く」「気持ちが揺れる」「決意が揺らぐ」「信頼がぐらつく」

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どうやら、「揺らぐ」とは「固定していたもの」「何かのきっかけ」「不安定になること」のようです。

固定していたものが「自己概念」とすれば、それが揺らぐような何かのきっかけが「経験」であり、不安定になるから「揺らぐ」というわけですね。




では「自己概念」が「揺らぐ」とはどういうことでしょう?

「よしとするものの見方・考え方」が「不安定になる」―――

これまでは問題がない(むしろよい)と感じていたことが、何かをきっかけに「本当にこれでよいのだろうか?」と不安になり、判断基準がぐらぐらと揺れていること、と言えます。

一言でいえば「悩む」ということですね。


昨日までは悩まなかったことに、今日は悩んでしまった……
「なんでだろう?」
「どうしてだろう?」
「これでいいのかな?」
「どうすればいいのかな?」
そんな気持ちでいっぱいになってしまう状態です。




なぜ「自己概念」が「揺らぐ」のでしょうか?

それは、それまで「よし」としていた軸が、「実は間違っていたのかも」と思わせるようなできごとに遭遇(=経験)したからです。

例えば、Aさんの事例を挙げてみます。(※すべて創作です)

Aさんは入社以来10年間、営業部員として働いてきました。部長の指示のもと、営業成績をわかりやすく反映するために概数で入力してその日のうちに結果が一目でわかる仕組みを作り、部署内で共有してきました。
部長はコンピュータに疎く、結果がすぐにわかる仕組みを喜んでくれ、部署でも活用するように推してくれました。正確な数値は後で確認を兼ねてAさんが再入力し、完成させていました。そのがんばりのおかげでAさんは営業部の中では周囲から一目置かれる存在として活躍してきました。

ところがこの春に人事異動があり、営業部に新しい部長が配属されました。他社でシステム開発に携わった経験もある方で、これまでは社内の開発部門で働いていたのですが、この春から営業部長として配属されたのです。
新部長がやってきて早速、Aさんが作った仕組みについて質問されました。「概数で入力したのでは正確な数値が把握できないし、後で入力し直すのも手間になると思うのだが、これまではこの方法でOKだったのか?」と。

Aさんは「いち早く結果がわかるよう工夫したためで、改めて確認の意味も込めて後から入力するようにしています」と説明したのですが、新部長は「数字は正確に」「効率を上げるために入力は1回で済ませよう」と指示するばかりで、これまでのやり方をよしとは言ってくれませんでした。結局、部員が各自の成績を正確な数値で入力する方法に変わることになりました。

この一件でAさんは自分のやり方が否定されたと感じ、この部長に苦手意識を抱くようになりました。

Aさんの語ったできごと

Aさんにとってのよしとする見方・考え方は「いち早く状況を把握すべき」というものです。そして「部署内で共有すること」を優先しています。
つまり「チームで情報を共有し、今の状況をみんなが知っていること」を大切にしてきたわけです。
また、Aさんが入力を一手に背負うことで部員全員から期待に応えていたという自負や、指示を出した前部長から自分の存在を認められていたという思いもあったでしょう。

それが新部長になり、「数値は正確に」「2度手間は避けて効率を上げる」といった方針に変わったことで、これまでの基準が変わってしまいました。そのやりとりの中でこれまでのやり方をよしと言ってくれなかったために、自分自身が否定されているように感じてしまい、思い悩むことになりました。

この思い悩む状態こそが「自己概念」が「揺らぐ」ということです。




一方、新部長はどのように考えていたのでしょうか?

これまでの営業部はチームで取り組むことを重視するあまり、一人ひとりがどこまで結果を出せるかという個の強みがわかりにくくなっていました。
そこで「個々の力を伸ばすこと」を期待され、新部長を任されました。

まずはきちんとした状況把握のためにも、正確な数字は必須です。
また、チームのためにと確認のための数字入力をAさんが一人で背負っている状況も問題があると感じていました。
Aさんだけに苦労をさせるわけにはいかないため、部員一人ひとりが自分の成績を正確に把握して入力させることで、少しでも仕事を減らし、その分営業の仕事に専念できるにしてあげたかったのです。

これまでの仕組みは部全体のものとして定着していましたが、作り手であるAさん以外が上手に使いこなせないこともAさんの負担となっているようでしたので、まずは仕組みそのものから変えることに着手しました。

実際に以前よりも仕事の負担は減ったし、Aさんも営業に専念できるようになったはずです。他の部員たちも自分の成績を正確に把握しようと、これまでよりもしっかりと責任をもって取り組むようになったと感じています。

新部長の語ったできごと


新部長はAさんのことを思って、これまでの大きな負担を減らすために、新たなやり方を提案したようです。

でも残念ながらAさんにはその真意が伝わっていません。ですから、Aさんと分かり合える機会がなければ、いつまでも避けられてしまいます。

また、Aさんはわかってくれているはずと思っており、きちんと話をしたつもりになっています。ここには新部長の「自己概念」が表れており、「自分が指示をすれば真意が伝わっているはず」と考えている傾向が見受けられます。




Aさんのよしとするものの見方・考え方にはどんな特徴があるでしょう?
Aさんらしさはどこに現れていて、どういう捉え方をしたから揺らいでいるのでしょうか?

もし、Aさんから相談を受けたら、みなさんだったらどう関わりますか?
どんな声をかけて、どんなことを問いかけて、どんな風に悩みを受け止め、そして解決に導きますか?


わたしだったら「新部長から数字は正確にと言われたとき、どんなことを思ったのか?」「その時のやりとりを新部長はどう受け取ってくれたのか」というやり取りについて、もう少し詳しく状況を聞きたいですね。

Aさん自身がどんな思いを込めて仕事をしてきて、その思いが新部長とのやりとりでどう揺らいだのか、そこからいま自分はどんなことを考えるようになったのかを、じっくりと聞いてみたいところです。

その中で、大切にしているもの=自分の軸に気づいてもらうと、Aさんはなぜ悩んでいるのかが紐解けていくはずです。
そして、これからどうしていくのがよいか、きっと自分で答えを導き出せると思うんですよね。




今回は「揺らぐ」ということを取り上げてみました。

わたしもまだ理解しきれていないところもあり、もしかするとこの記事に対して疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれません。

よろしければぜひコメントをいただけるとうれしいです。




明日も佳き日でありますように

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