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30話. 私はこうして1つづつ、パズルのピースをはめ込んでゆく。



私の名前はお片付け薫。お部屋も身体も心も片付ける、お片付け研究家薫です。お部屋をスッキリ綺麗に片付けたら、身体の不調も片付き、心のモヤモヤも片付き、思考までもがクリアになってきた。自分にとって余計なモノ、余計な思考が片付いた時、曇っていた視界が晴れ渡り、空から不思議な囁き声が聞こえ始めた。その囁き声に導かれるまま、私は新たな人生を歩きだす。片付けから始まる不思議な物語。



第一話はこちら↓




昨日借りたハンカチを返そうと、広場に来た。あれ?居ない。インド人男性は居なかった。ここに来てから毎日見かけていたのに。どうしたんだろう?
昨日帰ってすぐにハンカチを洗濯して、綺麗に干して持ってきたのに。。また明日だなぁ。

次の日の朝、広場に着くと、いつものように本を読んでいた。邪魔をしてはいけないと、そうっと隣に座り、私も待ってきた本を開く。読み始めると彼は私に気づき、ちょっと驚いた後、ハローと言った。

「一昨日はありがとう。これ。」
とハンカチを渡した。
「ああ。」
彼はハンカチを受け取った。
「昨日返そうと思って来たんだけど、昨日はいませんでしたね。」
「あ、昨日はちょっと具合が悪くて。一昨日の夜食べた食堂のカレーがすごく辛くて、胃の調子が悪くなってしまったよ」
笑いながら話すインド人男性。確かに一昨日のカレーは辛かった。でも私には耐えられる辛さだった。

「え!?インド人なのに辛いの苦手なの?」
「うん。辛いのはあまり得意ではないなぁ。」
面白かった。インド人はみんな、辛いのが好きだと思ってた。
「あなたは平気だった?」
「うん。少し辛かったけど平気でしたよ。私、ここのカレー大好きだし、それに私、インド人なんで!」
そう言う私を、頭から爪先まで見て
、どう見ても日本人だろ!と言わんばかりに彼は笑った。

その日から毎日私は本を持って広場に行くようになった。毎朝の日課だった考え事の時間が、読書の時間に変わった。
私が広場に着くと彼はもうすでに読書をしているので、私はそうっと隣に座り、静かに本を読み始める。彼は私に気づいても、そのまま読書を続ける。そして彼の読書が終わると、私も読むのを止め、それから少し話をする。
「いつここに来たの?」
「この神のことをどうやって知ったの?」
「日本では何をしているの?」

「何の本を読んでるの?」
「本は好き?」
「食べ物は何が好き?」

いろんな話をした。英語は好きだけど話せない、Broken Englishの私の英語を、なぜか彼は全て理解してくれた。何だか安心感があった。だから会話は広場だけでは収まらず、私たちは連絡先を交換し、夜中チャットをした。このアシュラムに来てすぐから彼の存在は知っていたけど、帰国の2日前にきて、いきなり私たちは、急激に仲良くなった。


「あのね、助けて欲しいんだけど、私、明後日の飛行機で日本に帰るんだけど、ここから空港まで、どうやって帰ればいいのか分からないの。」
「え?来るときはどうやって来たの?」
まさか目の前に知らない車がやって来てそれに乗ってきたなんて言えない。
「友達が車で送ってくれたんだけど、その友達と連絡がつかなくなったの。」
そう答えると、
「そっかぁ。じゃあ明日、バスステーションに行って、帰りのバスの予約をしよう。」
彼はそう言ってくれた。

次の日、待ち合わせのバスステーションに行くと、彼は待っていた。
さすがインド人!数秒で私の帰りのバスの予約は終わり、
「え?もう終わったの?」
そう尋ねると、
「うん。終わったよ。今日は何か予定あるの?」
と彼。
「何もないよ。」
そう言うと、
「じゃあ、今日で最後だし、映画を見に行こうよ!インド映画見たことある?」
インドが好きなら絶対にインド映画を見ているだろうと思われがちだけど、私は見たことがない。インド映画はすごく長いと噂には聞く。しかも、間に休憩を挟むそうだから、見るのにちょっと勇気がいるのは私だけかな?

「インド映画は見たことないの。」
「じゃあ行こうよ!」

そう言われ、私たちは映画を観に行くことにした。
日本でも映画なんて見ないから、映画館は久しぶりだ。本編が始まる前のあの長ーい宣伝が、気のせいかな?日本よりももっと長い気がする。
まだかなあ?と思ってると彼が、
「立って!」
「え?」
戸惑いながらも言われた通りに立つ。すると、スクリーンにインドの国旗が映り、インドの国歌が流れ始めた。
え!?映画の前に国歌!?何で?
とスクリーンに映る、風にたなびくインド国旗を見ていると、国旗の真ん中のマークにグググーっとエネルギーを吸い込まれ、私の記憶がフラッシュバックする。


これだ!

私の魂のシンボル。

太陽のようだけど、太陽ではないの。

何なんだろう?って今までずっと疑問に思っていた、私の魂のシンボル。

これだ。これなんだ。


曇っていた視界が晴れ渡り、再びあの、仙人のようなおじいさんが現れた。

あ!あの怪しげな占いのおじいさん!やっぱりあのおじいさんがこのおじいさんだ!

私はこの地上に降りてくる時、仙人のようなおじいさんと雲の上で約束をして来た。ぼんやりとした記憶だけど、確かに仙人のようなおじいさんだった。今までは。今の今までは。それがこの瞬間、今この瞬間、一瞬にして、色白の白髭のおじいさんのシルエットが真っ黒になった。瞬時に理解した。
「あなたもしかして…」
私は隣で立っている彼を見上げた。体中に鳥肌が走った。


(この物語はフィクションヒューマンドラマです)

第1話https://note.com/okatadukekaoru/n/ne7b0fb9ff425

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門


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