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超短編小説もどき

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7月8日

7月7日。七夕。 織姫と彦星は会えただろうか。 憎いくらい綺麗な星空へ思いを託す。 逆さま向いたてるてる坊主と共に。 「1年に一度くらいがちょうどいい」 そう言って出て行った人を待つ私はおかしいのか。 「晴れてないと会えないらしいから、てるてる坊主作った。私のは効力ないみたいなんだけど」 あれから一年が経つのか。 本当に効かないてるてる坊主は、逆さに吊るしても綺麗な星空。 晴れようが雨がふろうが会えてるはずの私たち。 織姫と彦星だって、雲の上にいるからほんとは天

上っ面に針

パァン、と破裂した水風船みたい、その下にはそれぞれ、隠した顔があるってさ。 非常事態が長く続けば続くほど、破裂してゆく水風船。生温い水がポタポタ落ちて、水滴辿ればあんたへたどり着く。 「自分だけは大丈夫だって思ってた?」 「ちっとも変わってない。強いて言うなら、騙すのが少し上手くなっただけ。」 「いつまでも、自分だけが主人公のつもり?」 だからあなた、嫌いなの。底が浅いからって、クスクス笑う、私だってあんたは嫌いだ。 何もかもわかったフリして、全部を打ち消していく

ふたりぼっちの末路

1×1は1。 だから、二人でいても、一人だった。 ふたりぼっちの世界では、一つの空を共有していた。 でも1+1は2。 それぞれの空を持った瞬間、画面共有が解かれた。 好きにマウスポインタを動かすことができる。 広い空へはばたくことができる。 窮屈だった場所から飛び出して、駆け出す。 それぞれがそれぞれのまま。 一方は帰ってくる。一方は帰らない。 帰ってきたほうは待ちぼうけ。 「誰を待ってるの?もう、自由なのに。」 共有されていたものはすべて真っ黒に塗り

愛してない

手を触ると、思いがあふれてしまうから、いつの日にかその手を振り払った。 私は一人なの、ひとりでいいんだよ、だれとも、だれとも。 走って走って逃げまどって、転んだ時に差し伸べられた手が前のものとは違うことに気づきながら、そっとその手を取った。 自分とその人が一緒になるような感覚のない人なら、一緒にいれる。 私は私のままで、彼を好きになれるから。 彼は優しい、一緒にいると弱さもすべて見せてもいいような気がする。 君とは違う。君はまるで私だから。一緒になりたくない。 君

冷たい優しさ

「僕は何も変わらないよ。どうしたの?」 大好きだった優しい目が、とてつもなく冷徹で、まるでアンドロイドみたいだな、計算している、と思った日から、離れようと決めた。 わたしは、利用されたくない。あなたの優しさを誰かに見せつける格好の相手なだけになりたくなかった。こっちは傷ついて、あなただけが得をする。そんなバカなことを許せなかった。 好きだった。大好きだった。あなたの優しさに確かに救われた。 でもわたしじゃなくてもいいなら、他でいいじゃない。きっとまた同じように騙されて

嫌いじゃない

「嫌いじゃないよ。」いつもの読めない笑顔でいうのはやめてよ。 (その笑顔が大嫌いだよ) 「そう?私は気に入ってるんだけどな。」 振り回されてばっかり。もう疲れて、そばにいることをあきらめた日もあった。 そんな日に限って寄ってくるのはなんでなの? 「一緒にいたほうが楽しいでしょ?」残念ながら楽しいんだなこれが。 でも知ってるよ、「あの人」がいないからこっち来るんでしょ。なんだろうね、わかってるのに楽しくなってしまうことも離したくなくなってしまう自分もすっごい馬鹿だと

青春に願う

たくさんのつらいことも、思い出す度に苦くなることも、全てが今につながるのならば、これは、報われたって言えるのかな。 心機一転を図ったのに、動いてゆく毎日についていけなくて、体と心が乖離しそうな浮遊感。なんだかやばい気がして、思わず目を瞑る。 とっても楽しいのに、どこか虚しくて、 とっても嬉しいのに、どこか苦しい。 もう、あの頃の僕はいない。強くなったんだと胸を張りたいのに、泣き笑いしてる昔の自分が顔を出す。 ああ、なんだかキャパオーバー?どうして。なんで?満たされて

爆弾と時限爆弾

「えー、あいつ確かにかっこいいけど、やめときなよ。爆弾かかえてるよ。」 と、笑いながら目の前の友達が言う。 ええ、知ってますとも。あんだけかっこいいんだもの、色々と素行がよろしくないことも、それをしっかりと自覚されており、下々の民には手を出すが一切の見返りをくれないことも。 優しい子がタイプ?って、本当は違うだろ、今はそうか、あのモデルさんみたいな綺麗で可愛い子がお気に入りなんだっけ? そばにおいときたい✖️なんかの時に役に立つ、ほんと、すごい欲の塊っぽい。そーゆーと

自分じゃない香り

ふわり、ふわり。 動くたびに香る、自分じゃない匂い。 良い匂いなのに、どこか落ち着かない。 良い匂いなのに、自分との不釣り合いさに、吐き気が込み上げる。 死ぬほど汗をかいた日に、わたしからこんな匂いがするはずなんかない。 「これは万人が好きな香りと言われてまして、お客様の雰囲気ともお似合いだと思います。」 マスク越しにでもわかる、美しくて、綺麗で、声色の優しい販売員さんにそう言われて、万人に愛されるのなら、なんて、浮かれて買った香水は、わたしの汚さを引き立たせるだ

聖母の微笑み

いつも静かに微笑みを絶やさず、 賢く、聡明で、囁くような声が優しく響く、 そんな彼女はまさに聖母だった。 遠巻きにしか彼女を見ることはできない。 儚すぎて消えそうで、近づくことができない。 いつものように彼女は前の方に座り、授業を受けていた。さすがは成績優秀、周りの子たちにいつもの聖母の笑みを浮かべていた。 そんな様子を視界に入れながら、教授の話をぼんやり聞く。今日は神様の話か? 小テストだ!?不意打ちは勘弁してくれよ…。 記述問題だったので、うんうん唸りなが