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アメリカ人は「貯金大好き」になったのか? ー 「日本化」への "怖れ" 。

 度々@1.60%を割り込む米10年国債。どんどん買い進まれはしないが、売られたところは Sticky な(しつこい)買いが入る。気になって仕方がないので ”鍵” となる米国の「貯蓄率」について少し調べてみた。

 標題添付グラフは家計が所有する「現金・預金」の額だが、確かに2020年以降大幅に増えている。貯蓄率も2020年4月に@33.0%を付けた( ↓ グラフ)後、一旦は下がったものの2021年1月には前月@13.9%から@27.6%に再度上昇「現預金」の積み上がりが鮮明となっている。一人当り15万円もばらまかれた給付金などの影響も大きかったが、家計の余剰貯蓄は少なくとも2兆ドル(約220兆円)を超えるようだ。

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 これは少なくとも筆者が見てきた30年余のアメリカ経済では起きなかった現象。特に可処分所得に占める貯蓄の割合が上昇しているのは特筆に値する。 e.g.  ↑ 2020年3月@12.7%→4月@33%

 アメリカは「日本化」するのか?

 一種の "怖れ" を持って度々なされてきたこの議論。平たく言えば「日本のようなデフレに陥りたくない」ということなのだが、「預金」の増加は「日本化」の兆候なのか?

 「日本」といえば言わずと知れた「預金大国」。もともとその傾向が強かったが、リーマンショックと東北大震災を経てより ”強固” になり、+400兆円を超える企業の「余剰金」と1,000兆円を超える「預金」につながった

 米国の銀行も2兆ドルを超える家計の余剰貯蓄を押しつけられては米国債を買わざるを得ない。資産の安全性と換金性を確保するために「預金」見合いで国債を買うのはいわば銀行ALM(Asset Liability Management)の基本中の基本。この点は日本で起きた事と同じ現象であり、米国債の Sticky な買いになっているのは間違いない道理で金利が上がらないはずだ。

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 ではアメリカが「日本化」するかといえば、そう単純な事でもなさそう。反対側の「借金」の方も見てみよう。「住宅ローン」の推移だ。

米住宅ローン

米住宅ローン金利

 2020年10~12月期の住宅ローン組成額は1兆1,700億ドル(約120兆円)と、遡れる1999年以来の四半期ベースで過去最高となった模様。起爆剤となったのはFRBによる「大規模信用緩和」。社債やモーゲージも買いまくったため金利が急低下、2021年1月には30年物固定金利が@2.65%の底を付けている。これが住宅購入の起爆剤になったのは間違いなく、 ”ウッドショック” (木材価格の高騰)を引き起こした。

 つまりアメリカでは「貯蓄率」が上がる一方「借金」も増えていたことになる。この鍵を握るのは最近流行りの「K字型」回復だろう。

 「コロナショック」は多くの人々をどん底に突き落とし、個人も企業も「万が一」に備えた「貯蓄」の必要性を痛感することになった。この点はまさに「日本化」と言える部分で、* ”アニマル・スピリット” (果敢にリスクを取る)の国、アメリカも例外ではなかったということだろう。

 以前ガソリン価格が@$150.-(@バーレル)を超えて高騰した時にNYの同僚と交わした話。価格がやっと@$100.-を割り込んできた時に「車はどうするの?」と聞いた事がある。日本人の感覚としては次にまたガソリンが値上がりした時に備えて燃費の良いハイブリッド車等を検討する、という答えを期待していたのだが、全く逆だった。「リッター2,3㎞ぐらいでガンガン走るSUVやピックアップトラック」せっかくガソリンが安くなったんだから使わなきゃ損、ということらしい。彼我の差を思い知らされた。

 アメリカでは「国富」のほとんどは人口の5%にも満たない「富裕層」に集中しているが「住宅ローン」激増の主役は彼らだろう。「インフレ感度」が高い彼らはヘッジとして敢えて「借金」したりするので低金利は安い「保険」を買っている感覚。高額優良物件を買い込んだことが推定される。

 つまりコツコツ「貯蓄」を始めた層と「住宅ローン」をガンガン借りた層は「K字型」に分断した可能性が高い。「K」の上のラインが「株」「不動産」や「暗号資産」に、下のラインが「預金」「国債」に向かった構図だ。これが「インフレ下の低金利」という、経済学的には矛盾する状況を創出している。「アメリカ型市場経済」下では過去数十年「富裕層」が最終的に勝利してきたが、今回はどの時代のパターンにも当てはまらない

 「お金」>「もの」の構図が変わらない限り「インフレ」=「富裕層」の勝利は動かない。だが ”ウッドショック” で住宅の買いの手が止んだところなどはいかにも「日本的」バイデン大統領イエレン財務長官が標榜するように左派の民主党が本気で「富裕層課税」で「貧富の差」是正に乗り出せば、出回っている「お金」は回収され「日本化」の芽も出てくる。実際このところ株価や暗号資産の上値は重くなっている。

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 2兆ドルもの家計の余剰貯蓄が次の「消費爆発」の種と捉えるか、上がらない米国債金利が「貧民」層による無言の抵抗と見るか、今後の相場の行方は180度変わる。まさに「K字型」。この ”奇妙な静寂” はどこまで続くのか、あるいは上下どちらかに一気に動くのか。どちらにせよ、歴史に残る「画期的」結末を迎えそう。最後は「米国債金利」に帰結するだろう。

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