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フォークリフト資格を取って実際に働いている大学生に、話を聞きました

2018年に自分の好奇心からパワーショベルの免許を取得した。その話は一度noteにまとめた後、今はkindle unlimitedの電子書籍として公開している。

この話を面白がってくれたノンフィクション作家の神山典士さんから「大学生でフォークリフトの資格を取った子がいるんだけど、話を聞いてみる?」と紹介があった。FBでそのエピソードを素晴らしいエッセイとしてまとめているらしい。それも日本語と英語で。おおお。

ちょっとちょっと❗️みなさん、この文章見てください❗️小学校高学年の頃であって、ずーっと内気で、山登ってもいるのかいないのかわからなくて、大学入っても彼女にすぐ振られて、なーんかいまひとつ弾けなかった政也が、あの政也が、いきなりこんな文章を...

Posted by 神山 典士 on Wednesday, December 2, 2020

正直、パワーショベルの資格は実際に現場に出ている人でなければ継続して使いこなせない。でもフォークリフトの資格を新たに取り、それを使って「働いている」という事実にとても興味を持って「ぜひ!」とご縁をつないでいただくことになった。

大学生とオペレーター、二足の草鞋

Zoom取材でお話を聞いた小川政也さんは、埼玉県内の大学で英語を専攻している学生さん。2020年12月からフォークリフト資格取得者として相応の責務を果たすアルバイターでもある。1年前はまだフォークリフトには何の興味もなかったらしい。でもそこからの行動力がすごい。

「短期アルバイトに入っていたとき見たフォークリフトがすごく気になったんです。社員さんの腕が素晴らしくて、狭いところでも大きな機械で迷いなくサッと入るし、フォークを操る動きに全然無駄がない。それに見惚れて『すごいな、面白そうだな』と興味を持ちました」

2年後の就職活動に向けて「手に職をつけておいたほうがいいかも」という思いと、小さな頃から好きだった「働くくるま」のイメージがぴったり合った。すぐに学校を探し、4日間の講習を経て2020年6月末には資格を取得した。受講中に資格を使える求人情報にあたっていて、取得したその日に今の職場へ応募したという。

「フォークリフト資格者を募集していて未経験者歓迎、学業があるのでシフトの融通が利きそうなところを選びました」

なるほど、ふむふむ。このとき私はまだ「フォークリフトの資格のほうが実地で使いやすそうだし、この話は後々の参考にしよう」と聞いていた。でも続くお話でその考えが激甘だったことが分かってきた。

資格があるから働けるわけではない

7月上旬に今の職場の面接へ行き「フォークリフトに興味があって資格を取ったので、ここで働きたい」と話したとき、面接にあたった所長さんがずいぶん渋い顔をしたので小川さんは「ああ、落ちた」と思ったらしい。

でも何とか働きたい気持ちを伝えようと粘った。ここでは詳しく書かないけれど、小川さん自身が体験を文章にまとめるとしたら、おそらく最初の大きな山場になるはずだ。

小川さんの話を聞きながら私も勘違いしていたのは「資格を取ったら即働ける」ということ。いやいや、それほど簡単ではない。小川さん曰く「全然話にならない」。

まずフォークリフトを扱えるスピードが違う。熟練者が2分でできる仕事なのに、自分は4分や5分かかる。大きなモノを持ち上げたり高いところへ積み上げたり、少しでも揺らぎがあれば安全性に影響が出てしまう現場なのに、最低限の注意が全然できない。

あああ、確かに。その状態で「資格があるのでやらせてください」とは口が裂けても言えない。絶対無理。でもここの所長さんはそれを見越して小川さんを雇い、結果、今の小川さんは先輩たちと一緒にオペレーターとして働けている。

ただ、そこに至るまでの話はアスリートの苦労話に近い。

毎回のトレーニングとフィードバック

所長さんの提案で「まずピッキング業務のアルバイトとして働いてもらう。業務後に自主練習の時間をあげるから、上達したらフォークリフトオペレーターとして働いてもいい」ということになった。

FBで紹介されたエッセイにもある通り、ピッキング業務はやりたかった仕事から非常にかけ離れていて辛かったという。それでも仕事が終わってからの時間、毎回フォークリフトの練習に勤しんだ。

「まず、カラーコーンを置いて8の字に走行する練習を3週間くらいやりました」

思わず「8の字だけですか?! 3週間?!」と聞き返してしまった。本当に最初の3週間は8の字走行の練習のみ。所長さんは「一定の速度を出しながら8の字走行ができるように」という。リーチリフトと呼ばれる「立って乗るフォークリフト」で実際に見本を見せられて、キレイに決まるのでやるしかない。

練習を重ね、コツを掴んで安定した8の字走行が可能になった頃、次の課題が来た。というか、私は「やってできたんだ!」と驚く。

「モノを載せるパレットが積み上げられていて、そのパレットに正確にフォークを抜き差しする練習をしました」

フォークリフトがモノを運ぶとき、簀の子のようなパレットと呼ばれる台を使う。パレットには横穴(隙間)があるので、フォークリフトはそこへ爪を差してパレットごと荷物を持ち上げて運ぶ。

練習では空パレットが20枚30枚積まれているところへフォークリフトを寄せて、自分が狙っているパレットに真っ直ぐ爪を差し込む。パレットの高さと爪の高さを合わせなければいけないし、斜め上の離れた運転者視点から正確に行う必要がある。

無事に差し込んで持ち上げたとしても、そのままでは荷物の重みで爪が前方向へしなってしまうので、オペレーターは爪先を少し上向きに操作して落ちないように荷物の水平を保たなければいけない。もちろん、そのときの荷物の重さや大きさによって加減も変わってくる。

「練習のたびに自分がどういう動きをしているのか細かな操作や挙動に注意して、帰ってもずっと『このタイミングのほうがいいかも』『次はこの角度にしよう』と考えていました」

機械の動きとしては、爪がウィィーンという音とともにパレットに近づき、爪が刺さり、また抜けて後ろへ下がる。言ってしまえばそれだけなのだけど、この数秒間だけでもいろんなポイントが見えてくるという。いやもうこれはアスリートのトレーニングでしょう。

この動作がスムーズになってきた8月初旬、また次の課題が来る。

「10段ぐらい積んだ空パレットをパレットラックの3段目に上げて、また取りに行って下ろしてくるという練習で、これは相当やりました。2カ月くらい」

パレットラック自体にかなり高さがあり、3段となると3m近くなる。そこへ正確に荷物を引き上げて置くだけでも難しい。安全に下げてくるとなるとさらに気を遣う。熟練者なら30秒以内で可能という動きだが最初は2分かかった。業務ならば致命的な遅さだ。

そして、ただ速ければよいものでもない。実際の業務では「商品」が何mも積み上がったところで作業しなければならず、一つ一つを確実に真っ直ぐ置かなければ荷崩れを起こしてしまう。「商品」だけなら弁償すれば済むけれど(それも大変だけれど)、人を巻き込んだら大惨事だ。

小川さんはまずゆっくりでも正確にできることをめざして練習し、徐々に速さを意識して9月半ばには30秒でできるようになった。そうすると、様子を見守っていたらしい所長さんから今度はテストの提案が来た。

もしテストに合格したら、オペレーター候補者として適性検査を受けさせてくれるという。

「9段のパレットを積み替えるテストで、条件は2分半で完了すること。自分がやってみると4分半もかかったんですが、所長がやると1分42秒とかなんですよ。いきなり言われてできなかったんで、悔しくて『1週間で2分半を切ってきます』と言って」

この練習エピソードと適性検査を巡る後日譚も、できれば小川さんから確かめてほしい。FBのエッセイにはそのヒントが隠されている。

甘く考えていてすみませんでした

話を聞く前は「フォークリフトも楽しそうだし、それで働けるようになったら面白いだろうな」という軽い気持ちだった。でも小川さんの話を聞き終わって「すみませんでした」と謝りたい。

紹介してくれた神山さんはエッセイを読んで「あの政也が!」と盛んに驚いていたので、ご本人にも変わった実感があるのか聞いてみた。

「あー、ありますね。仕事に対する考え方が変わったし、父親からは義理堅くなったと言われました」

これまでは自分の好き嫌いで物事を選んでいたけれど、練習につき合ってくれた先輩や見守ってくれた所長さんに出会ってから「価値観が自分の好き嫌いだけではなくなった」という。

年下の人と会うたびに毎回浮かぶのは「自分が同年齢のとき、ここまで深く物事考えられたかな…」という恥ずかしさに似た思いだ。小川さんはすでに自分の軸を持っていて、ちゃんと人の話を聞きながら軌道修正もできる人だった。

この職場では当初から週4回フォークリフトのシフトに入っている。物流系の仕事は今とても忙しいらしい。学業もあって大変なところ2時間近くお話を伺った。

初めての話をたくさんお聞きできました、小川さん、神山さん、どうもありがとうございました。

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