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「次世代」という言葉はいつから使われてきたのか? 新聞データベースを見てみた

きっかけは、今朝見かけたこのツイートだった。

そういえば「次世代」という言葉は最近よく見かけるけれど、1973年生まれの自分が子どもの頃はそんなに多くなかった。個人的な感覚としてはネットワークだのコンピューターだのが言われ始めた1990年代くらいから増えてきて、近頃は「とりあえず次世代と付けとけ」くらいの頻度になってしまった感じ。

こうスレッドをつなげてみたけれど、ひょっとしたら、感覚値ではなく実際に数として調べたら傾向が出るんじゃないか。ということでPCから扱える新聞データベースで調べてみることにした。

新聞データベースで「次世代」を調べる

パッと使える新聞データベースは朝日新聞・読売新聞にある。

朝日新聞のほうは、以前「朝日新聞記事データベース聞蔵Ⅱビジュアル」という名称だったのが、最近「朝日新聞クロスサーチ」にリニューアルされた。

ただしトップページの案内にもある通り、大学・公共図書館など法人向けの有料サービスなので図書館に行って端末を叩かないと使えない。その点、読売新聞は太っ腹?で、個人利用も可能なデータベース「ヨミダスパーソナル」を展開している。

明治期から現在の記事まで、見出しや記事の閲覧にお金がかかるものの、自分のPCから検索しまくれるのが魅力。というか、お金がかからなかったらずーっと入り浸りそうなので有料でちょうどよかった。

このデータベースは、日付・期間指定を行って見出しを抽出できる。ざっくりした感覚値が果たして合っているのかどうか、ちょっと調べてみた。見出し件数を確認するまでなら無料で可能。

以後、この記事で扱うデータは「ヨミダスパーソナル」による。

検索ワード「次世代」
昭和戦後:1946/01/01〜1988/12/31(42年間)226件
平成時代:1989/01/01〜2019/12/31(30年間)15417件

出典:ヨミダスパーソナル

いや「次世代」増えすぎでしょ。

全体記事数が増えているとはいえ、昭和に比べたら平成の「次世代」は文字通り桁違い。もう少し細かく「次世代」の登場を見てみた。

読売初の「次世代」は明治期

データベース内の最古の「次世代」は何だろう。調べてみると、読売新聞で最初の「次世代」はこんな見出しの記事にあった。

[社説]総選挙と中学校長 選挙民は出来損の立憲国民、次世代に希望託す
(1902/05/02付)

出典:ヨミダスパーソナル

1902年は明治35年。この年の8月に第7回衆議院議員総選挙が予定されており、公示日が4月22日だった。おそらくこの選挙に関する社説で「次世代」が初めて登場したと思われる。記事は550円払うと読めるのだけど、今回は購入していない。

結構昔から「次世代」があるなと思ったのもつかの間、その後を検索してみると大正・昭和戦前には出てこない。2番目の「次世代」はずいぶん時間が飛んで1955年、この年は2本の見出しがヒットした。

白井のあとを継ぐ者 三迫が最も有望 だが難しい実力プラス幸運
(1955/05/31付)
自由民主党の人脈 “3大閥”中心に競合 遠からず“若返り”で再編成も
(1955/11/18付)

出典:ヨミダスパーソナル

1955年の白井・三迫というと、話題はボクシング。この記事の前日、元世界フライ級王者の白井義男が王座を賭けたリターンマッチでKO負けして、現役を引退した。それを受けての記事なので本当に人的な「次世代」の話だったと思われる。

11月の記事は、3日前の11月15日に保守合同で出来上がった大政党、自由民主党の人事に触れたもの。おそらくここでの「次世代」も人に関する話。

1955年から1年ずつ「次世代」を見る

戦後のこんなポツポツ「次世代」から、どんなふうに1万件超えまでいったのだろう。少し時間はかかるけれど1年ごとに「次世代」を検索してみることにした。

1955年から2022年の今日まで、「次世代」が使用された記事を折れ線グラフにしてみたのはこちら。クリックすると大きめの画像が出ます。

1年ごとの使用回数を折れ線グラフにしてみた
出典:ヨミダスパーソナルから作成
折れ線グラフの基になった数値はこちら
出典:ヨミダスパーソナルから作成

下の表の数値をグラフ化したのが、上記の折れ線グラフ。グラフ上でピークが出来ている年にマーカーを塗った。

1980年代後半から2000年にかけての右肩上がりは、自分の個人的な感覚とも合っている。あーこの辺から増えたよね、と思う。2000年前後のピークは理由も分かりやすい。新世紀という区切りで「次世代」にもスポットが当たったのだろう。

いくつかのピークを検証する

その他のピークはあまり心当たりがなかったので、見出しを確認してみる。

■1972年

[編集手帳]
(1972/01/14付)
ニクソン・周あいさつの全文 相違を明確に 敵対、最大の悪
(1972/02/22付)
第3の水俣病にするな ショック、卸売市場職員の高濃度汚染 水銀マグロ
(1972/08/31付)
[集音マイク]番組製作過程の新しい波
(1972/09/29付)
[気流]若者に理解させるのはムリ 「戦争の悲惨さ語りつごう」に一言
(1972/11/11付)

出典:ヨミダスパーソナル

てっきり、勝手に「田中角栄さんとかあの辺が関係しているのかな」と想像したら全然違った。集音マイクのような技術的な記事の中にも「次世代」が入っているのは新しい。

■1980年

該当する全見出しを抽出するのは大変なので、年初の5件を見る。

[気流]食品添加物、今こそ総点検を 後代考え疑わしきは使用せず
(1980/01/16付)
補助金合理化シリ抜け 55年度、1600億円整理するが増額ほぼ1兆円
(1980/01/27付)
[新コンピューター物語]=3 夢の高速素子 ジョセフソン理論実用へ
(1980/03/16付)
[日本語]徳川宗賢=18完 方言の復権(連載)
(1980/05/09付)
「8月15日」は変わったか “風化”憂う体験世代 語りつぎたい、知らぬ世代
(1980/08/13付)

出典:ヨミダスパーソナル

コンピューター技術に関する「次世代」というのは、今よく使われている用法につながっている。人ではなく技術。1980年の終戦体験に関わる記事で「次世代」と使われていたとしたら、たぶん今は「次々々世代」ぐらいなんだろう。

■2014年

どうしてここだけ突出しているのだろう。年初の5件を見る。

「海洋強国」 米に対抗 中国軍機構再編 西太平洋まで覇権狙う
(2014/01/01付)
[社説]日本浮上へ総力を結集せよ 「経済」と「中国」に万全の備えを
(2014/01/01付)
燃料電池を共同生産 ホンダとGM 検討 電池車の低価格化狙う
(2014/01/04付)
東北にささぐ合奏 東灘・被災ピアノと岩手・流木バイオリン あす神戸
(2014/01/04付)
女性の管理職登用 キャリア形成 企業にも利
(2014/01/06付)

出典:ヨミダスパーソナル

これまでの年とは違って、1月から「次世代」が多用されているのが分かる。用法としても現在の感覚に似てきて、技術や国際関係、本来の人的な意味、キャリア関係などさまざまに応用されている。

あえて「次世代通信」で検索してみた

単なる「次世代」だけではなく「次世代通信」としてみたら、いつ頃どれくらいヒットするのだろう。今よく見る言葉の組み合わせではある。

初出はこれだった。

光通信、2倍遠くへ 半導体レーザー開発 KDDが世界初の技術
(1985/01/31付)

出典:ヨミダスパーソナル

あー、この頃か「次世代通信」が意識されてきたのは。次はしばらく登場せず、1988年に復活して以下続く。

富士通、ISDN用製品を発売へ
(1988/03/23付)
総合デジタル通信のサービス地域を拡大/NTT
(1988/06/28付)
電話回線の2400倍 NTTが次世代の超高速通信網 実験システムを完成
(1990/09/19付)
ATM共同開発企業に9社を選定/NTT
(1991/01/10付)

出典:ヨミダスパーソナル

うわっ、懐かしい言葉がいろいろ出ている。今はこの「次世代通信」をはるかに超えた場所にいる。けれどやっぱり「次世代通信」って言っちゃうんだろうな。

ちなみに「次世代通信」の検索ヒット数は、1985年〜今までで656件

同期間で「次世代」が1万件超えのヒットがあるのを考えると「次世代通信」に絞った語句はそんなに使われていないのかもしれない。

まとめ

朝の興味からここまで調べてみて、「次世代」という言葉は、人関連から始まってずいぶん広く展開しているのだなと思った。抽象度も対象もどんどん広がって、かえって意味が薄まってしまっている気がする。

ただし今回は読売新聞だけに絞ったデータなので、朝日新聞や日経だったらまた傾向は変わるかもしれない。大きく異なるのであればそれは新聞ごとのカラーといえる。同様のグラフ形状になるなら、やっぱり世の中の潮流がそうだったのだと結論づけられる。

「次世代」という言葉に何がプラスされているのか、そこだけ抽出しても楽しいかもしれない。「次世代○○」は今もポコポコ生まれている。

1990年代くらいから増えたという感覚が当たったのは嬉しい。やっぱりそうだったか。の語句でも調べてみたら面白そう。

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