見出し画像

SOMPO美術館『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』を見に行く

大正から昭和にかけて活動した版画家・川瀬巴水の回顧展。浮世絵版画が衰退しそうだった時期に《新版画》を掲げ、版元の渡邊庄三郎とともに作品をどんどん世に出していったという。

今回の展覧会では初期から晩年までの木版画作品を辿り、まとめて見る機会の少ないシリーズ(連作)を中心に構成。大きさや色味もじっくり見られる展示だった。


木版画であることを忘れそうになる色彩

ほぼ時系列に並んでいて、まず触れるのが《塩原三部作》と呼ばれる縦長の作品群。構図がおしゃれで、色が濃い。どうも頭の中に残っている木版画のイメージが浮世絵で、それと比べると格段に色が濃い。予想以上のインパクトに引き込まれる。

そこから《旅みやげ》や《東京十二題》などのシリーズが企画されて、明らかに浮世絵とは違う画題で鮮やかな絵が続いていく。途中で木版画ということを忘れそうになる。

暗い青系だけで構成される夜の景色、朝焼けを表す薄いピンクと水色の色分け、たなびく雲陰の面と白い輪郭の筋。初期から「他とは違うスタイル」が出来上がっていて安心して眺めていられる。

好んで使われるモチーフもいくつかある。

風景は写実的なのだけど、濃紺の夜空に輝く黄色い星が丁寧に五角形になっているのを見て「やっぱり☆なのか!」と思ったり。赤い着物を着た人物や子どもが画面を引き締めていたり。

個人的にはねんねこで背負われている子どもの「お尻」がどの絵も可愛らしくて、子守を見ると嬉しくなってしまう。丸くてふかふかしているんだよなあ。

《月嶋の渡舟場》東京十二ヶ月

スランプというのは分かる気がした

ただ昭和に入ってから「絵柄や構図がパターン化している」という声もあったらしく、本人も悩んだという。作品を続けて見ていると素人目にもそれは分かるような気がした。

とても「らしい」題材や描き方は確固としてあるのだけれど、だんだんそのモジュールを組み合わせただけのような印象になってくる。傘を掲げる人の姿勢はいつもこうだなあとか、家から洩れる温かい明かりの描写は確かにいつもこれだなあとか。

そう考えると、やっぱり初期の作品でガツンと受けた衝撃がちょっと懐かしくなる。個人の好みとしてはその頃のものかもしれない。

でも朝鮮半島へ旅行へ出たり、自分なりの東海道風景を連作にしたりする中でまた雰囲気が変わる。見るものや画題が変わると構図も新しくなって「見たことがない」と思う作品になっていく。

摺りの工程が分かるのも楽しい

3階は撮影可能フロア。入口すぐのエリアでは、過去に撮影された下絵から摺りまでの動画を流している。版画教室で見当の付け方や大まかな流れは知っていたけれど、下絵はもう一回筆で書き直しているとか、色版の指示の仕方は知らなかった。指示にも想像力が要る。

川瀬巴水ではないけれど同工程の分かりやすい動画があったので置いておく。この手間はやっぱり根気要るよなあ。

色使いも変わってきて、よりコントラストが強い鮮やかな作品が増える(気がする)。撮影OKの中で気に入ったのは《十和田湖の秋 1953(昭和28)年カレンダー/11月》。

2021-11-10 12.00.39のコピー

*  *  *

そういえば川瀬巴水の代表作と言われる《芝増上寺》東京二十景は、見た瞬間に急に記憶が蘇った。

あっ、これ中学生のとき買ったジグソーパズルじゃん!!

その頃は著名なのか名作なのか全然知らないまま、とりあえず「この絵柄が好き」というだけで買って作ったのだった。まあ代表作だからこそパズルにまでなっているのだけれど。思いのほか昔から馴染んでいたことを知る。

ゴッホもありました

そうそう、SOMPO美術館と言えばゴッホの《ひまわり》。展示後のスペースに撮影OKの状態で掲げられていた。思ったよりかなり大きな作品だった。やっぱり本物を見ないと分からないなー。

2021-11-10 12.07.15のコピー


よろしければサポートお願いします!いただいたお金はnote内での記事購入やクリエイターとしての活動費にあてさせていただきます。