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神奈川県立近代美術館 鎌倉別館へ行く

神奈川県立近代美術館 鎌倉別館へ行った。今大河ドラマで話題の鎌倉、鶴岡八幡宮の隣に位置している。開催中の展覧会は「これってさわれるのかな?―彫刻に触れる展覧会―」。当館コレクションの中から彫刻作品24点+αを選んで「触ってOK」という太っ腹な展示をしている。

単純にまず「普段はちょっと崇高な雰囲気すらある美術品、本当に触ってもいいの?」というタイトルそのままの好奇心が湧く。美術館に入ると2階展示室前でラテックス手袋を渡される。なるほど、ちょっと心配だったけれど両手に手袋をして触れる趣向なのか。

展示作品には番号が振ってあり、入口右側スペースから見る順路になっている。左側にも部屋が広がっていてワンフロアの真ん中から入室する感じ。腰の高さの白い台がチェスの駒のようにポツリポツリと配置され、主にブロンズ像がその上に載っている。部屋の左側で大きめの声で話している2人組がいるものの右側は貸切状態。

「人のかたちにさわってみよう」

プロの作家作品、それも美術館が所蔵するような作品に直に触る。おおお。1作品目のオーギュスト・ロダン《花子のマスク》はブロンズ製で小ぶりの女性の顔。両手で包み込むと本当に人の顔を包んでいるような気になる。

目鼻や髪の毛など、最初は「ご利益ご利益」と思って触っていたけれど、いや、ちょっと待てよ。お寺のアレのつもりで触っていたら作品が摩耗してしまう。ダメダメ、擦らないように大切に触らないと。

中原悌二郎《老人の頭像》は迫力がある。本当におじいちゃんサイズの原寸大頭部で痩けた頬が生々しい。自分のおじいちゃんに似ているのでしみじみ触ってしまった。

「あっ」と思ったのは鎖骨の部分。がっつり指を入れて抉ったのが分かる。ああ、触るとこういうことが見えるようになるのか。私だったら視覚だけでは絶対気づかない。

舟越保武《萩原朔太郎像》もある。えっ、これって朔太郎ファン垂涎の像なのでは。だって自分の両手の中に朔太郎の顔ですよ。絶対ドキドキするでしょうこんなの。つられて自分も勝手にドキドキする。

高田博厚《水浴》や佐藤忠良《果実》もある。やっぱり女性の裸体像を触るとなると申し訳ない気持ちになる。胸は触ることができなかった。《果実》は女の子がモチーフなので「ごめんなさいね」と呟きながら形を確かめる。大切な果実には、そおっと。

「浮彫にさわってみよう」

土方久功《ゆうべのアンニューイ》は木の浮彫作品。寝かせて置いてあるので表面に触れられる。刃の入れ方一つ一つが分かるのと同時に、何となく自分の中で平面だと思っていた背景が全然平らではないことに気づく。なんで平らだと思い込んでいたんだろう。

「何をあらわしているのかな?」
「図形のようなかたちにさわってみよう」

ケネス・アーミテージ《訪問者たち》は、一番「指」を感じさせる作品だった。普段はあまり意識しない背の部分に「これは指で入れた模様だろうな」と思う筋がある。ちょっと指を合わせて「おぉぉぉ」と感激する(声に出していたかもしれない)。作った人と同じところに指を当てると角度や力の具合が想像できる。

テラコッタや木像、大理石、石灰石、真鍮など、展示されている材料はブロンズに限らない。材質の差は素手で感じ取りたかったけれど今は仕方ない。手袋越しでもザラザラ・ツルツルの質感は伝わってくる。

その代わりといっては何だけれど、直線や曲線など、作者が目指した「ライン」を辿れるのは感触ならでは。ノミのようなツールで削り取ったのか、手で均したのか、鋭利なツールで切断したのか、作品の細部まで目が行く。というか、触っていると意識せざるを得ない。

浜田知明はこないだ茅ヶ崎市美術館で見ていたので《首を!》と《家族》に触れることができたのは嬉しかった。《首を!》は本当に首チョンパ状態だった。《家族》はお父さんらしき人の手のひらと腕の造形が繊細で、触ると壊れてしまいそうだった。でも造形でひねった場所、接続した場所などが分かって面白い。

ものによっては作品の後ろだけでなく下も触って確かめられる。ちゃんと平らに整えられていたり、細かく形が作られていたり。ここまで気を遣って作られているんだなあ。

「音をきいてみよう」

どんな仕掛けで何が聴けるのかは展示会場でのお楽しみ。3種類ある。聴いたことは絶対ある、でもここまで耳を澄ましたことはない音。私は一番激しく鳴る個体が好みでした。

左側スペースへ移るとき、先行していた2人組とすれ違い、ずっと話ながら鑑賞していたのが「白杖をつく人+サポーターさん」だったことに気づいた。そうか、触って鑑賞できるのだから視覚障害を持った人でも十分楽しめる。確かになんで美術は「見る」だけに特化してるんだろう。

室外の作品は素手で触ってOK

ロビーにある台では北川太郎の《時空ピラミッド》ほか、いろんな材質の石でできた作品を素手で触ることができる(手の事前消毒はしっかりする)。ザラザラな表面、丸みを帯びたフォルム、トゲトゲした石の積み重ねなど、皮膚に直接素材感が伝わってくる。

へええ、触るって面白いな。触ったから分かることもあるんだな。

作品が24点と聞いたときは正直1つの展覧会としては少ない気もした。でも実際に行ってみると1つ1つの情報量が視覚とは比べものにならないくらい多く、24点+αでも十分楽しめる。

あと、今後の鑑賞の仕方が絶対に変わる。今までスルーしていたポイントにどんな情報があるのか分かり、次に出合った作品でも確認したくなる。

会期は2022年9月4日(日)まで。貴重な機会をぜひ体験してほしい。面白かったー!



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