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プーチン・ドクトリンとは何か?プーチンの誤算とソフトパワーの重要性

どうもアルキメデス岡本です。

さて、老害プーチンの大暴走はここにきて、いったん落ち着いてきたようですが、そもそもプーチンは何を目的にウクライナ侵攻に動いたのでしょうか?

今回は、その本質を分析します。

プーチン・ドクトリンの目的

アメリカにおける最も影響力のあるロシア専門家の一人であり、トランプ政権で欧州・ロシア担当として国家安全保障会議で勤務したフィオナ・ヒルは、長年プーチン大統領の行動を分析してきた。

そのような実務と学問との双方を知る立場からヒルは、プーチンの行動原理にはつねに意図があり、それはウクライナのNATO非加盟の約束を取り付けて、アメリカの欧州での影響力の後退を要求していることだと述べる。2008年のブカレストNATO首脳会議を受けてプーチン大統領は、アメリカ政府がウクライナとジョージアのNATO加盟への道を開いたとして、怒りの感情を示した。そのうえでプーチン大統領はアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領に対して、「ジョージ、あなたはウクライナがそもそも国家ではないということを理解しないといけない」と述べたという。このときにプーチンは、アメリカがウクライナとジョージアを自らの勢力圏から引き剥がそうとしていることに苛立っていた。そしてヒルによれば、「われわれは、このようになるということを分かっていたのだ」。

アメリカにおいて中東欧や独露関係について詳しい信頼できるジャーナリストの1人であるアンジェラ・ステントもやはり、「現在のロシアとウクライナの間の危機は、30年をかけて醸成された帰結である」と述べる。

プーチンはそもそも、独特な国家主権についての認識を有している。完全な主権を有するのはアメリカ、ロシア、中国、インドのみであって、それ以外の国は部分的にしか主権を有さない。だからこそ、上に述べたようにプーチンは「ウクライナがそもそも国家ではない」と語ったのだ。そして、自らの勢力圏が脅かされたときに、ロシアは第二次世界大戦の中心的な戦勝国であるため、武力を行使する権利がある。これが、「プーチン・ドクトリン」である。整理すると以下の通りだ。

・力こそ正義
・勢力圏の確立と冷戦後レジームの解体
・リスペクト・シンドロームの拡大

ステントによれば、「モスクワにとって、この新しい体制は、19世紀の大国間協調に似たものになるであろう」。そして、「それはヤルタ体制の新たな再来となり、ロシア、アメリカ、さらに現在では中国によって、世界を三つの勢力圏へと分割するようなものへと変貌していく」のである。いうまでもなくこれは、日本を含めた国際社会が一般的に理解している国際秩序の認識とは大きく異なり、プーチンはそのような方向へと世界を再編しようとしている。

プーチンの挑戦に対して、西側の自由民主主義諸国はあまりにも無力である。アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所研究員のクリス・ミラーが論じているように、ロシアに軍事侵攻を思いとどまらせるほどに強力な経済制裁を科すとすれば、それは西側諸国にとっても大きなダメージとなる。だから、西側諸国がそのような強力な制裁の発動を躊躇するであろうことを、プーチンは知っている。さらに、そのような制裁が実効的なものとなるためには、中国の共同歩調が不可欠となる。だが、現在の中国の姿勢を見る限りは、そのような協力へと動くとは考えがたい。だとすれば、ロシアがウクライナへと軍事侵攻を行った際には強力な制裁を行うというバイデン大統領の脅しは、モスクワから見れば虚勢でしかないのだ。

プーチンの誤算

しかし、ウクライナ侵攻後の状況はどうなったかといえば、プーチンの思惑は外れ大誤算を招いている。

ハードパワーへの過信
プーチンドクトリンでは力こそ正義という考え方があり、軍事力というハードパワーへの信奉がある。しかし、ウクライナ侵攻の当初の計画は失敗に終わり、ロシア軍のランドパワーが時代遅れだった事が判明した。陸海空の連携も最悪で、長期戦に持ちこたえる事
だけの軍事力がない事が露呈した。

勢力圏の確立と冷戦後レジームの解体
を目指してはいるが、今回のウクライナ侵攻によって、西側諸国は一致団結をみせ、ウクライナを後方から完全バックアップする事に成功した。それにより、キエフ陥落作戦は事実上の作戦失敗となり、ロシアの軍事作戦はウクライナ東部とマリウポリ陥落に変更された。この戦況を打開すべく、ロシア軍が生物兵器を使用する作戦を予想し、NATOとアメリカは先日、東欧4国に新部隊配備の対抗策を明言した。ロシアは今後、中国との連携を模索するしかないが、先行きは不透明だ。

プーチンへのリスペクトは縮小
ジョージア、ウクライナを侵攻し、かつての勢力圏とロシアへのリスペクト・シンドロームを取り戻したいロシアであるが、作戦失敗によりプーチンへのリスペクトは縮小。その結果、政権内部の離反が目立ち始め、プーチン独裁政治の基盤が緩み始めている。このまま確たる勝利が得られなければ、プーチン暗殺とクーデターの可能性も排除できない状況だ。

グローバル経済への無理解
ルーブル暴落は、西側諸国の厳しい経済制裁がもたらした。国際決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアの大手銀行が排除され、ルーブルと他国通貨との交換が難しくなった。ロシア中央銀行にも制裁措置を打ち、日米欧の中央銀行などが保有するロシアの外貨準備が凍結された。 その結果、ロシア中銀は為替介入という切り札を封じ込められ、下落を力ずくで止めるのもかなわなくなった。  

https://news.yahoo.co.jp/articles/0a749051bacbb614993d8c803f8d5c055d47cad1

軍事大国だが経済小国
ロシアは軍事大国ではあるが、経済では小国である。そもそも、世界でのGDP比率は約1.7%しかない。さらに、輸出の約8割が小麦、石油などの一次産品であり、次世代産業は何も育っていない。いわば、北朝鮮並みの発展途上国なのだ。

つまり、そんな経済小国の発展途上国のロシアが、時代遅れの軍事力というハードパワーだけで、冷戦後のレジームを変更できる訳がないのは明らかである。

孤立するロシア 国際的孤児へ

ソ連崩壊後、ロシアの勢力圏はNATOに押されジリジリと縮小していった。そして、遂には隣国のウクライナまでが、反ロシアの民主化運動が拡大し新欧米化路線が確定的となった。その不満が今回のウクライナ侵攻に繋がった訳だが、武力による現状変更という国際法違反、民間人の大虐殺でロシアとプーチンは国際的に孤立してしまった。ウクライナ人の難民は膨大に膨れ上がり、国際的な人道支援の輪が広がっているが、ロシアは国際的孤児として引き取り先が見つからない。

唯一、手を差し伸べるのは、同じ国家社会主義で自由主義レージムの解体を目論むベラルーシと中国だけである。しかし、歴史の法則上、国際的孤立に陥った国が勝利した例はなく、中露がこのまま国際法違反を繰り返していけば、自ずと経済破綻に追い込まれ自滅する運命にある。


権威主義国家の後退とソフトパワーの重要性

結局、軍事力というハードパワーだけでは世界の覇権は握る事は出来ない。持続的発展をするには、経済、自由、民主、正義というソフトパワーと国際社会との連携が何よりも重要になる。

米国は、イラク戦争アフガニスタン戦争、そしてタリバンに対するその継続的な戦争に関して「ハードパワー」政策を示した。 より具体的に示すと、2003年の米国のイラク攻撃は、イラクによる大量破壊兵器(WMD)の所持に関する懸念に基づいていた。ジョージ・W・ブッシュ政権は、「対テロ戦争」に言及することもあった。そして、イラクの独裁者サダム・フセインを捕らえ、その後のイラクの危機に対処するために、強力な手段を使用した。しかし、多くの批評家は、イラク戦争によって米国が民主主義と正義の象徴としての評判を失ったと述べている。そして2021年、 アフガニスタンから撤退した米軍は、世界で唯一の超大国とされる米国のハードパワーですら1国では紛争を解決できない時代を証明した。現代においては、ソフトパワーと組み合わせた外交政策(=スマートパワー)の重要性が増している。フランスの哲学者パスカルは「力なき正義は無力、正義なき力は圧制」と軍事力への過度な依存を戒めた。

第二次世界大戦では、ナチスドイツや大日本帝国のような偏狭な民族主義とカルト支配では、どれだけ支配領域を拡大しても、政治的抑圧によって他民族の敵対心を買い、パルチザンや内乱という形で支配体制が揺らいだり、広島と長崎への原爆投下という形で他国軍に倒される。戦争が政治的存在による集団戦である以上、民衆を統率する根拠であるイデオロギーが最も重要になる。ベトナム戦争イラク戦争のように、たとえ世界最強の軍事力を持ったアメリカ合衆国でも、国内外に支持される大義名分を構築しないまま戦争に踏み切れば、国内外の非難を浴び、大きなしっぺ返しを受けて終わる。

その点をロシアのプーチンと中国の習近平は、見誤ってしまったのである。

時代遅れの権威主義と、帝国主義という妄想に取り憑かれた哀れなハードパワー型独裁者の末路は、深い暗闇に包まれていくだろう。





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