「THANK YOU」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
あらあら、しんみりしてる場合かしら?(笑)
まだ『ダニエル書』第12章は終わりじゃないのよ。
大事な大事な、最終章の最終節が残ってる…
《亜麻布をまといし男》による〆の言葉…
よろしくね、ジョー。
はい…
ダニエルのビジョンに現れた《亜麻布をまといし男》が、最後に言い残した言葉…
それは、こんなものでした…
As for you, go your way till the end. You will rest, and then at the end of the days you will rise to receive your allotted inheritance.
あなたは、あなたの道を行けばいいのです。そうすれば、あなたは安らかになるでしょう。そして全ての終わりの時には、しかるべき財産を与えられ、あなたは受け継がれてゆくことでしょう。
ハッピーエンドってこと?
そうです…
「どんなに悲惨な境遇でも神を疑わない」「穢れた肉を食べない」「日々の祈りを欠かさない」などの決まりを守り続け、数々の試練を乗り越えたダニエルは、神の言葉を書き記して後世に伝えるという役目を与えられました…
もしそれを全うすれば、神からの褒賞として《長生き、財産、繁栄》が与えられるだろうというのです…
どこかで聞いたことある話だなあ…
『ヨブ記』ですね…
義人ヨブが、サタンによる過酷な試練に苦しみながら、人生の意味や神の意思について考え抜き、最後は神に認められ、長寿・財産・子孫繁栄を手にするという物語…
そうそう、コレです。
ヨブは、自分の命以外の全てを失ったにもかかわらず神を信じ続けた…
ヨブの3人の友人も神を信じてるけど、ヨブほどは理解していなかった…
そしてヨブは最後に神の姿を目にした…
『ダニエル書』とよく似てると思います。
『ライフ・オブ・パイ』にも似てるじゃない。
パイはダニエルでありヨブよ。
その通りです…
そもそも『ダニエル書』と『ヨブ記』は、よく似た内容になっています…
試練を乗り越えた主人公の前に神が現われ、真理についての重要なメッセージが語られ、最後は主人公に《長寿・財産・子孫繁栄》が約束される…
だから映画版『ライフ・オブ・パイ』のオチに、『ヨブ記』の最終章が使われたのですね…
え? オチが『ヨブ記』?
『ライフ・オブ・パイ』は、旧約聖書のダイジェスト版ともいえる『ヨハネによる福音書』を模したものになっていました…
だから聞き手である作家は、パイの《例え話》を勘違いしたまま終わるのです…
イエスの語る《ヨハネの例え話》を、聞き手のペトロが勘違いしたまま終わる『ヨハネによる福音書』と同じように…
また、『ヨハネによる福音書』の最終章には、ギャグやダジャレにもとれるような表現がいくつも出て来ます…
だから小説『LIFE OF PI』を書いたヤン・マーテルは、第三部でジョークを多用し、日本語の駄洒落をオチに使ったのです…
しかし、その手法は文字だから可能だったわけで、映像では再現できませんし、意味も通じなくなってしまいます…
だからアン・リー監督の映画版は、『ヨブ記』を使った異なる結末になったのです…
マジで?
詳しく教えてよ、ジョー。
では、映画のエンディング・シーンを紐解いていきましょう…
原作と異なり、舞台はパイの自宅…
聞き手も二人の日本人外交員ではなく、のちに《パイの物語》を書くことになる作家のヤンです…
パイにとって伯父のような存在であるママジの紹介でやって来た作家に対し、パイは《人間以外のものに喩えられたカニバリズム》と《人間同士によるカニバリズム》という2つのストーリーを語りました…
そして作家に訊ねます…
パイ「本当か嘘か、誰も証明することはできない。どちらの物語においても、船は沈み、家族は死に、私は受難した…」
作家「その通り」
パイ「では、君ならどちらの物語を選ぶ?」
作家「トラとの方だ。そっちのほうがいい」
パイ「サンク・ユー。神と共にあるとは、そういうことだ」
作家「ママジの言うことは正しかった。なんという物語なんだ。本当にこれを僕に書かせてくれるのかい?」
パイ「もちろん。そのためにママジが君をここへ連れて来た。元々そういう話じゃなかったか?」
サンク・ユー? サンキューでしょ?
「Thank you」は「Sank you」のダジャレなんです…
「sank」は「sink」の過去形だから「君を水に沈めた」…
つまり…
「あなたに洗礼(バプテスマ)の秘跡(サクラメント)を授けた」
という意味…
マ、マジで!?
パイにとってママジは伯父のような存在…
そして洗礼者ヨハネも、イエスの母マリアの叔母エリサベツの息子なので、いわばイエスの伯父のような存在…
だからママジは、パイに対し《疑似洗礼》を行った…
その時、空に浮かぶ白い雲が、イエスに降りて来た《白い鳩》みたいでしたよね…
そして、福音記者ヨハネが投影されている作家ヤンは…
イエスが投影されているパイが語った2つの物語《人間以外のものに喩えられたカニバリズム》と《人間同士によるカニバリズム》のうち前者、つまり《神の存在する物語》を選ばされ…
水に沈められて《洗礼》を受けた…
その通り…
《人間以外のものに喩えられたカニバリズム》というのは…
イエスが言った言葉…
「この葡萄酒はわたしの血、このパンはわたしの肉」
のことですから…
『ヨハネによる福音書』のこの部分を、文字通り「人間の血を飲み、人間の肉を食べる」と捉える人はいないもんね…
『ヨハネによる福音書』6:53-58
イエスは彼らに言われた、「よくよく言っておく。人の子の肉を食べず、また、その血を飲まなければ、あなたがたの内に命はない。わたしの肉を食べ、わたしの血を飲む者には、永遠の命があり、わたしはその人を終りの日によみがえらせるであろう。わたしの肉はまことの食物、わたしの血はまことの飲み物である。わたしの肉を食べ、わたしの血を飲む者はわたしにおり、わたしもまたその人におる。生ける父がわたしをつかわされ、また、わたしが父によって生きているように、わたしを食べる者もわたしによって生きるであろう。天から下ってきたパンは、先祖たちが食べたが死んでしまったようなものではない。このパンを食べる者は、いつまでも生きるであろう」
いたらホラーよ…
では、パイと作家の会話に戻りましょう…
家の外で車が止まる音がして、パイはこんなことを作家に提案します…
パイ「うちの山の神が戻ってきた。このまま一緒に晩飯でもどうかな? She's an incredible cook.」
作家「あなたに奥さんがいたなんて知らなかった…」
パイ「ネコと2人の子供もいる」
「She's an incredible cook.」は「彼女は驚くべき料理人だ」ですよね?
はたして、そうでしょうか?
え?
あっ!
どうしたんですか、教官?
そうだったのか…
なんてこった…
僕は大変なことを見逃していた…
見落としていたって、何を?
救命ボートに乗っていた《ハイエナ》とは…
パイのお母さんのことだ…
ええーーー!?
その通り…
パイが言った「She's an incredible cook.」とは…
「妻は《信頼できないコック》だ」
という意味なのです…
マ、マジで!?
パイは、「ハイエナ=コック」と決めつけた作家に対し、こっそり正解を教えていたのか…
やはり、あの時感じた違和感を…
スルーするべきではなかった…
違和感? 何のこと?
姿を現すまで虎とハイエナは…
救命ボートの白い幌の中で、一緒に寝ていたんだ…
ケンカもせず、仲良く…
あ・・・
もしハイエナがフランス人コックだとしたら、すごく違和感あるよね…
おっさん二人が、何時間も、あの中で一緒に寝ていたことになる…
確かにそれはキモい…
アンタ!おっさんに失礼よ!
おっさんが一緒に寝たって、いいじゃない!
だけどパイのお父さんとコックが一緒に寝てたなんて、ありえないわ…
だってあの二人、めっちゃケンカしてたもん…
やっぱりハイエナは… パイのママなのかも…
間違いない…
救命ボートの白い帆の中で眠っていた《虎とハイエナ》とは…
貨物船の船室で、同じ布団の中に寝ていた《パイの両親》の投影だったんだよ…
その通り…
悪夢のような殺戮が始まる前の《救命ボート》の描写は、あの船室の風景が投影されています…
パイの兄ラビは、パイが起こそうとしても、絶対に起きませんでした…
兄を起こすことを諦めたパイは、父・母・兄の3人を部屋に残し、ひとりで船室の外へ行ってしまいます…
つまり、絶対に起き上がらなかったシマウマは、兄ラビ…
そして、後からボートへやって来たオランウータンは、パイ…
あの時ラビが着ていたシャツは、シマシマ模様…
そして腕を伸ばすパイの姿は、オランウータンそっくり…
それでハイエナは、鎮静剤の影響で嘔吐したり足元がフラついていたのね…
きっとパイのママは、トラブル続きの船旅で精神的にまいってしまい、鎮静剤を飲んでいたんだわ…
だから寝てる間に気持ち悪くなって、起き上がって船室の床に吐いてしまった…
つまりパイは、妄想してるというか現実逃避してるってことね…
奇妙な音を聞いて外に様子を見に行ったけど、特に何の異常もなかったから家族のいる船室へ戻った…
そうであって欲しかったんだわ…
だからハイエナは、最初に幌から出て来た時、シマウマに襲いかからなかった。
オランウータンがボートに入って来る時も、襲うことなく黙って幌の中へ戻っていった。
これらハイエナの不可思議な行動は、パイのお母さんなら説明がつく…
うふふ。
そしてハイエナは、突然、態度を一変させる…
ある時から様子が変わり、急にシマウマへ襲いかかるのよね…
ある時から?
あの時だ…
最初の夜が訪れた時…
あの不自然な描写は、それを意味していたのか…
不自然な描写? どういうこと?
パイはハイエナと見つめ合っていた…
すると突然、場面は深夜未明に変わる。
パイは一睡もせずにハイエナを見ていたらしく、疲れ切って虚ろな表情になっていた…
そして夜明け頃、突然、ハイエナがシマウマに襲いかかる…
確かに妙だ…
この夜から《何か》が変わったわけですね…
そう。《船室の延長》という投影は、ここで終わった。
意識が朦朧としたパイの表情は、そのサインだったんだ…
《パイの物語》は…
大きく分けて、船の《沈没前》と《沈没後》に分けることが出来ます…
そして、《沈没前》に語られた様々な出来事が、《沈没後》に形を変えて再現されているのです…
これは《旧約聖書》と《新約聖書》の関係を模したもの…
《沈没前》の様々な《預言》が、《沈没後》に次々と《成就》される…
まさしく「聴く者が神を信じるようになる物語」だ…
ところでさ、『ヨブ記』はどうなったわけ?
もう映画版のラストシーン、終わっちゃったじゃん。
全てを失ったパイが、最後は財産を手にして、子宝に恵まれて幸せな家庭を築いたってこと?
パイの家、普通でしたよ。全然、豪邸じゃありませんでした。
それに飼っていたのは猫一匹。
『ヨブ記』では、ヨブは最後に「羊一万四千頭、らくだ六千頭、牛一千くびき、雌ろば一千頭をもった」と書かれています。
どんだけ~
なんだ、全然『ヨブ記』じゃないじゃん。
まだ続きがあるんですよ…
映画版には…
え?
思い出してください…
パイの物語で再現されていた『ダニエル書』の最終章には…
たった12節の文章の中に「すべては秘されている。終わりの時まで roll up せよ。スクロールせよ」という文言が、二度も出て来ましたよね…
うん、そうだったけど。それが何か?
終わりの時、つまりエンドロールを最後までスクロールせよ…
そういうことです…
は?
映画『ライフ・オブ・パイ』には…
エンドロールの後に、シークレット・シーンがあるんですよ…
そこが本当のエンディングなのです…
ええーーーー!?
@スナック KEMPY!
スースー… スースー...
しかしよく寝てるわね、良ちゃん…
いつになったら起きるのかしら?
ムニャムニャ… ムニャムニャ…
あら、また寝言?
今度はどんな夢見てるのかしら…
キス… キス…
ヒロクン…
キス...
...
もう私を困らせないでください…
どうして?
いいじゃん、キスくらい。
しかし…
キスは、ちょっと…
せめてチクビに…
ちくび?
言いまつがいました。チクワです。
んもう!キス天もチクワも大して変わらないでしょ!
ヒロくんが「今日は好きな物ごちそうしますよ」って言ったんじゃない。
キス天入れても、たかだか390円。
ほら、ヒロくんもキス天入れてもらえば?
ふたりでキス天しよ!
少し… 疲れてしまいました...
じゃあ歌おっか!
ここ富士そばですよ。
知らないの、ヒロくん?
富士そばの社長さんって、歌がすっごく好きなのよ。
ほら、あそこに歌手のポスターも貼ってあるじゃん。
それとこれとは…
はい、ヒロくんギターよろしく。
いや... まいったな…
♫~♫~
チューニング合ってますか?
なんだかんだで結局は付き合ってくれるのよね。
ヒロくんの、そんなところがスキ。
なんか言いました?
ううん。なんでもない…
いつもありがと...
では、行きましょうか。
うん。
あ、1、2、1234…
サンキュウ…
あら、堀内孝雄の夢?
渋いわね(笑)
スースー… スースー…
つづく
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