「LIFE ON MARS?③~愚か者さえ愛を学ぶ~」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日深夜
キッチン 南海のクイーン
ごちそうさまでしたー。
お母さん、お勘定お願いしまーす。
あいよ。二千万両。
はい、じゃあこれで…
あっ… 自分の分は払います…
いいのよ。アンタの二丁目デビュー祝い。
ありがとうございます。ごちそうさまでした…
ジョーは苗字なんていうの?
この街にはジョーって名前の男がいっぱいいて、ややこしいのよね。
「Carr」です。
カー? じゃあフルネームは「ジョー・カー」っていうの?
「JOKER」みたいでカッコいいじゃん。
ジョーは愛称です。本当は「John(ジョン)」といいます。
そうなの。どっちにしても、ありふれた名前ね。
まあとにかく頑張って。なんかあったら、いつでもここへいらっしゃい。
腹が減っては戦が出来ぬ、よ。
はい…
さて、深代ちゃんのとこ戻る…
チリンチリン♫
(ドアの開く音)
あら、いらっしゃい。
おはよ。
良ちゃんも、おはよ。
お、おはよ、倫世ママ…
どうしたの?こんなに早く…
良ちゃんが見かけない顔の男とデートしてるって小耳にはさんだから、覗きに来たの…
うふふ。
・・・・・
デ、デートじゃないわよ!彼は深代ちゃんとこの新人さん!
アタシは挨拶回りの引率をしてるだけなんだから…
ほらっ!ボーっとしてないで挨拶しなさいよ!
はじめまして…
『スナックふかよみ』で働くことになったジョーです…
どうぞ、よろしく…
はじめまして。
あたしは倫世。『KEMPY!』のママやってます。
ケンピー?
この街で一番の老舗おかまバーよ。
新しくできる渋谷のパルコにも出店するんだから。すごいでしょ。
てかアンタ、パルコ知ってる?
ぱるこ? いいえ…
やだ。アンタってばホント何にも知らないのね。
ごめんね倫世ママ。この子ったら、笑っちゃうでしょ?
でも、かわいいじゃない?
これから何色にも染まりそうで… ねえ?
・・・・・
スナックふかよみ
では次に、デヴィッド・ボウイが『Comme d'habitude』を、どのように英訳したのかを見ていこう。
ていうかさ、なんでデヴィッド・ボウイはシャンソンを翻訳しようと思ったわけ?
そもそもフランク・シナトラの『マイ・ウェイ』が世界的に大ヒットするまでは、『Comme d'habitude』ってフランス以外で有名じゃなかったんでしょ?
その通り。
当時海外で『Comme d'habitude』はそこまで有名じゃなかった。
実際『MY WAY』を作詞したポール・アンカは、クロード・フランソワから独占翻訳権をタダ同然で手に入れている…
じゃあなぜ?
そこに至った経緯を簡単に話しておこう。
デヴィッド・ボウイこと David Robert Jones は、1947年1月8日にロンドンで生まれた…
「そこに至った経緯」って、生まれたところから始まるの?
どんだけ?
というか「David Bowie」は本名じゃなかったんですね。
母は「ペギー」こと Margaret Mary...
そして父は「ジョン」こと Haywood Stenton Jones...
「ペギー」はマーガレットの愛称だからわかるんだけど、父の「ジョン」って?
たぶん「Haywood Stenton」なんてカタイ名前だったから、呼びやすい「John」にしたんじゃないかしら?
「John Jones」だったら「JOJO」みたいで覚えやすいし(笑)
この時代の多くの子供たち同様、デヴィッド少年はロックンロールの洗礼を受け、将来はポップスターになることを夢見るようになる。
いくつかのバンドで活動するうちに頭角を現したデヴィッドは、レコード会社の目に留まり「Davy Jones and the King Bees」というバンド名でレコードデビュー…
だけど世間で注目されることはなかった。
最初は売れなかったのね。
レコード会社はテコ入れ策として「改名」を提案。
当時売れっ子だったバンド「ザ・モンキーズ」に「Davy Jones」という同姓同名のメンバーがいたから、宣伝の際に紛らわしかったんだ。
そして「David Bowie」が誕生する。
「Bowie」って、どこから来たの?
テキサス革命やアラモの戦いで名を挙げた「James Bowie(ジェームズ・ボウイ)」から取られたとされている…
ナイフ投げで使われる「ボウイナイフ」の発案者…
なぜイギリス人なのに、西部劇のヒーローの名前を?
たぶん、嘘。
本当の理由は違うと思うわ…
え?
「Bowie」という名は、スコットランドやアイルランド系の名前…
そこには2つの意味がある…
1つは「鮮やかな黄色・美しいブロンドヘア―」という意味…
そうなの?
じゃあ美輪さんも「Bowie」ね。
そしてもう1つは「勝利者の子孫」という意味…
勝利者の子孫?
だから「David Bowie」は、こんな意味になる…
「勝利者ダビデの子孫」…
それってメシア…
つまり「キリスト」のことじゃないですか…
レコード会社は、改名したデヴィッド・ボウイを、風刺の効いたシンガーソングライター路線で売ることにした。
当時イギリスで大人気だったボブ・ディランのようにね。
そして1967年6月、ファーストアルバム『David Bowie』が発売される。
今度は売れたの?
いや。やっぱり全く売れなかった。
シングルもアルバムもことごとくコケたデヴィッド・ボウイは、レコード会社との契約を解除されてしまう。
マジで?
こうしてボウイの浪人時代が始まった。
だけど、この浪人時代が「デヴィッド・ボウイ」を作り上げるための重要な期間となったんだ。
ボウイは舞踏家 Lindsay Kemp(リンゼイ・ケンプ)と出会い、弟子入りする。
そしてアバンギャルドなダンスを修得し、「デヴィッド・ボウイ」という「ペルソナ」を確立してゆく…
Lindsay KempとDavid Bowie
リンゼイ・ケンプは白塗りの道化師パフォーマンスで一世を風靡した人物。
偉大なアーティストよね。
あたしの知り合いに似てるかも。
この浪人時代、ボウイは自分の歌作りだけでなく、レコード会社に依頼された作詞の仕事もしていた。
シンガーやパフォーマーとしては落第したけど、ソングライティングの才能は買われていたの。
そして1968年、シャンソンのスマッシュヒット曲『Comme d'habitude』を英訳する仕事が舞い込んだ…
やれやれ。やっと辿り着いたわね。
そうして出来たのが『Even a fool learns to love』だ。
『Comme d'habitude』が『Even a fool learns to love』?
「いつものように」が「愚か者さえ愛を学ぶ」?
全然違うわね。
パッと聞いたところ、内容も結構かけ離れている感じでした。
冒頭ではパーティー三昧の主人公が、みんなからいろいろ言われたり…
原曲はカップルだけの話だったのに…
デヴィッド・ボウイは、まったく別の歌にしちゃったってわけ?
そうじゃない。
原曲の元ネタをもっとわかりやすくしたんだ。
だから『Even a fool learns to love』というタイトルなんだよね。
は?
まあとにかく『Even a fool learns to love』の歌詞を見ていこう。
デヴィッド・ボウイの天才的ソングライティングの片鱗が窺える内容だから。
まずはこんな一節で始まる。
There was a time, the laughing time
「かつてあんな時代があった。今となっては笑える時代」
どこかで聞いたような出だしです。
これじゃない?
よくできた歌よね、中島みゆきの『時代』って。
デヴィッド・ボウイの歌同様に、歌詞にいろんな遊びが隠されてて(笑)
ちなみにデヴィッド・ボウイは、冒頭の「There was a time, the laughing time」から、いきなりダジャレを使っている。
わかるかな?
え? ダジャレですか?
実はこの歌における「laugh(ラフ)」は「rough(ラフ)」なんだよ。
「笑う」じゃなくて「つらい・苦しい」なんだ。
「笑える過去」じゃなくて「つらかった過去」ってことですか?
その通り。
でも次の歌詞がこれよ。
I took my heart to every party
「あらゆるパーティーを、めっちゃ楽しんだ」
全然つらそうじゃないじゃん。
「every party」は「あらゆるパーティー」じゃないんだ。
「宴席の参加者すべて」という意味なんだよね。
特定の目的のために集まった人たちのことを「パーティー」というでしょ?
確かに。RPGや本気登山でも使いますね。
じゃあ…
「わたし」が「参加者すべて」に「took my heart」した「宴席」が「つらくて苦しかった」ってこと?
その通り。
まさか、それって…
そう。これのこと。
『最後の晩餐』
レオナルド・ダ・ヴィンチ
ああ…
まさに「全ての参加者」に「took my heart」です ...
『私の肉を食べ、私の血を飲む者は…』
何よコレ!?
いつものように(笑)
ホント何回同じ話してるのって感じなんだけど…
仕方ないわよね。
世界がそうなってるだけ(笑)
そして歌詞は、こう続く…
つづく
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