「フランスでは人々が蛙を食べます」『バベットの晩餐会』徹底解説:第五章前篇
さて、第五章『STILL LIFE』の解説をしよう。
例によって僕はイサク・ディーネセンの小説版『バベットの晩餐会』をもとに解説しています。
STILL LIFE?「平穏な生活」っちゅうことか?
普通に訳せばそうなんだけど、そんな単純なハナシじゃないんだ…
表向きは「平穏な生活」に見えるけど、実際は違うんだよね…
第5章で描かれることを要約するとこうなる…
「バベットにルター派プロテスタントへの改宗を迫る姉妹と、それを表面上は受け入れるものの、かえってユダヤ人としてのアイデンティティに目覚めてしまうバベット」
わお!
毎回ムダ話ばっかりで結論までなかなか辿り着かないから、先に要約があると読むほうは楽だよね!
では無駄話なしで、さっそく第5章を見ていこう。
まずはバベットの「変化」が描かれる。
田舎町Berlevaagに辿り着いた時のバベットは、やつれ果て、追われた獣のような表情をしていた。
それもそのはず。バベットは殺人・放火・反逆罪など様々な罪で死刑になるはずだった。
だけどパリから脱出し、甥が働く客船の貨物室に隠れて密航し、ノルウェーの首都クリスチャニア(現オスロ)からBerlevaagまで、人目を避けながら逃走して来たんだ。
クリスチャニアからBerlevaagまでの距離は、日本でいうと北海道から九州までの距離に等しい。
その間を、ノルウェー語も全く話せない密入国者バベットが逃亡したんだから、そうとう危険な旅だったことが想像できる。
そしてバベットは、Berlevaagで暮らし始めてすぐに変わっていった。
当時は「Beggar(乞食)」同然だったバベットが、今では「conqueror(征服者)」のようだというんだね…
えらい変わりようやな。
だってBerlevaagは「中世」で時間が止まったような場所だ。
こんな僻地を訪れる外国人なんてほとんどいないだろう。姉妹やその父にとってオペラ歌手パパンが「生まれて初めて見たフランス人&カトリック教徒」だったくらいだからね。
「世界」というものを全く知らない人たちの中に、ヨーロッパ文化の中心であるパリからやって来たわけだから、周りの人から見れば「征服者」のように堂々と見えるのも当然だ。しかもバベットはパリNo.1のシェフで、彼女は王侯貴族やセレブに一目置かれていたんだからね。
僕がド田舎で小学生をやっていた時に東京から転校して来た根上君も、まさにそんな感じだった…
「東京から転校生が来ます」と先生から告げられた時にクラスに走った「どよめき」は今でも覚えている。期待と不安が入り混じった興奮に包まれたんだ。
最初に根上君を見た時、僕には彼がキラキラ輝いて見えたよね。
脱線脱線。
失敬。
さて、このバベットの威風堂々とした様子について、作者のイサク・ディーネセンは興味深い言い回しをしている。
Her quiet countenance and her steady, deep glance had magnetic quolities; under her eyes things moved, noiselessly into their proper places.
彼女の落ち着き払った表情と、深く強い眼差しは、磁力のような不思議な力を持っていた。彼女の周囲では、ものごとが音もなく「あるべき姿」へと収まるのだ。
なんか意味深やな。
この作品のテーマを説明する重要な一文だね。
つまりこういうことなんだ。
「姉妹たちの教団の間違ったストイシズムが、バベットの正しいストイシズムに収斂されてゆく」
スバっといったな…
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