はじめに 『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
はぁ・・・
・・・・・
はぁ・・・
今夜の深代ママは…
はぁ・・・
ナマケモノですか?
へ?
私が20分前にオーダーした肉じゃが...
すっかり煮立って、焦げ臭くなってます…
深代ママがそこから一歩も動かずタメ息ばかりついてる間に…
あ… いけない…
あたし… 忘れてた…
私、小腹が空いてるんです。
何かすぐ出せるものありますか?
すぐ出せるもの?
えーと…
YESですか?NOですか?
え? あ、イエス…
冷奴ならすぐに…
「ないです」と言われたら椅子から転げ落ちてダイノジになって駄々こねてるところでしたよ。
では冷奴ください。
ごめんね、ヒロノブさん…
はい、どうぞ…
(ひとくち食べて)
ふぅむ… もしや…
もしや?
いや…
私の思い過ごしという可能性も否定できない…
何のこと?
気になるから言ってちょうだい、ヒロノブさん…
ではお尋ねします、深代ママ…
醤油、替えました?
しょうゆ?
はい、醤油です。
替えてないわよ。うちはいつもキッコーマン。
(カウンターに醤油の一升瓶を出す)
おかしいですね…
豆腐はいつもの豆腐で、醤油はいつもの醤油…
そうよ。
おろし生姜もいつもの生姜で、刻みネギもいつものネギ…
全部いつもと同じ。
だけど、いつもとは明らかに何かが違う…
そうなると答えは、ひとつ…
それは…
それは?
この冷奴を作った深代ママの…
心の状態です。
え・・・
試しに自分で食べてごらんなさい。
私が箸を付けてない、こっちの方を…
うん…
(冷奴を一口食べる)
あれ?
なんだかモヤっとした味がする…
深代ママの心のモヤモヤが、冷奴に表れているのです…
料理というものは、作り手の想いが伝わるもの…
良くも、悪くも…
・・・・・
岡江君のことですね。
はぁ…
やっぱりヒロノブさんには隠し事できないわ…
さすが嗅覚バツグン…
真っ赤なお鼻の戸中ヒロノブですから。
トナカイって嗅覚すごいの?
知りません。
もうヒロノブさんったら…
でも何だか少しだけ気が紛れたかも…
全部吐き出してしまえば、もっとスッキリしますよ。
私で良ければ、どうぞ話してください。
うん… じゃあ…
今日…
9月19日って何の日か知ってる?
9月19日ですか?
もしや岡江君の… 誕生日とか?
そう。今日は岡江クンの誕生日…
今年もここでお祝いしよって約束してたの…
・・・・・
夕方一緒に映画を観に行って、そのまま店に同伴出勤して…
あたしが作った愛情たっぷりのバースデイケーキを一緒に食べて…
朝まで楽しく過ごして、夜明けのモーニングコーヒー飲もうねって約束したのに…
それなのに…
それなのに?
今朝、突然メールが来たの…
「いま港にいる。これから船で旅に出る。探さないでください」って一言だけ…
船…ですか?
どこへ?
わからない…
でも、もしかしたら…
心当たりが?
もしかしたら…
ギリシャのどこかの島かも…
ギリシャ?
岡江クンの助手をしてた子が…
ギリシャの島で音信不通になったままなの…
岡江クン…
きっと彼女を捜しに…
ああ…
熱海の事件で容疑者として拘留された、元教え子の彼女ですね…
岡江クン…やっぱり彼女のことが…
ずっと「そんなんじゃない」って言ってたくせに…
しかしギリシャまで船で行くでしょうか?
船旅なら、せいぜい沖縄か小笠原くらいでは…
それでも心配よ!
だってグアム島沖で超大型台風が発生して北上するって…
夕方のニュース見てないの!?
そうでしたか…
それは心配ですね…
ねえヒロノブさん…
あたし、どうしたらいいの?
大好きな人に捨てられた上に…
その人を永遠に失ってしまうなんて…
何を馬鹿なことを…
まだ決まったわけでは…
そうなんだけど…
なぜか… そんな気がするの…
あたしの人生って、ずっとそんなんだったから…
・・・・・
ごめんね…
ヒロノブさんまで暗い気持ちにさせちゃって…
いいんです、私のことは…
それよりも…
歌ってみてはどうですか?
歌う?
自分の想いを歌に託すんですよ…
え?
「歌を歌う」というのは、単に気の持ちようが変わるとか、現実逃避するとか、そういうことではないんです…
歌うことで実際に「現実が変わる」のです…
歌うことで… 現実が変わる?
そうそう。
なんだかよくわからないけど…
あたし、歌ってみる…
岡江クンへの想いをこめて…
聴いててくれる?ヒロノブさん…
いいですとも。想いを思いっきり込めちゃってください。
うん…
深代、歌います…
つづく
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