第141話 ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ⑩「When Numbers Get Serious 後篇」～『深読み ライフ・オブ・パイ＆読みたいことを、書けばいい。』
2019年9月19日
スナックふかよみ
だから最初に言ったよね？
「ナンバーズ」が「２２７」なんだって。
ナンバーズという言葉自体が、２２７ってこと？
その通り。
教官…
これはいったい、どういうことなのでしょう？
では、そろそろタネ明かしの時間としようか…
「ナンバーズ」という言葉自体が「２２７」である、というトリックのタネ明かしを…
ちょっと、アンタ…
え？
何か忘れてない？
「前回はコチラ」はしなくていいの？
あ、忘れてた。
前回までの「あらすじ」はコチラです…
うちらのどのへんが製作総指揮リドリー・スコットなのよ？
このスットコドッコイが。
ごめん。ナンバーズちがいだった。
こちらが前回。
いちおう曲も聴いておきますか…
ポール・サイモンの『ナンバーズ・ゲット・シリアス』…
Paul Simon『When Numbers Get Serious』
この曲ってさ、歌詞は意味不明だけど、ラストはきれいな終わり方よね…
あの最後のメロディ、あたし好き。
だけど、あそこも不思議な歌詞です。
And after all is said and done
And the numbers all come home
The Four rolls into Three
The Three turns into Two
And the Two becomes a
One
すべてが said され done された後
ナンバーズたちは皆、家に帰る
４は３に転がり込んで
３は２に向かう
そして２は１になる
なんのことでしょう？
あのエンディングも「２２７」と深く関連している…
ポール・サイモンが「君」と一緒に「Ｊｏｒｄａｎ」に思いを馳せ…
「ある有名な歌」を引用して、祈りをこめて歌ったものだ…
え？ 何それ？ 有名な歌？
詳しくは、また後で。
まずは、そこに至るまでの歌詞を見ていこう。
３番はこんなふうに始まる…
So wrap me, wrap me, wrap me do
In the shelter of your arms
だからラップ・ミー、ラップ・ミー
ラップ・ミー・ドゥ
僕を抱きしめて 君の腕の中に
ん？ ビートルズのパクリかしら？
『ラブ・ミー・ドゥ』の？ まさかあ（笑）
その「まさか」だ。
は？
ポール・サイモンは、ビートルズを想起させるために、あんな歌詞を書いた。
The Beatles『LOVE ME DO』
教官、これはどういうことでしょうか？
主な理由は２つある。
まず１つが、この曲のラストへ向けた伏線…
数字の４からカウントダウンしていって、最後に１で終わるから。
そしてもう１つが、このアルバムのラストへ向けた布石…
最後の曲では、ジョンのことが歌われているから。
なるほど。わかりやすい理由でした。
そしてこう続く。
I am ever your volunteer
I won't do you any harm
I will love you innumerably
僕はずっと君の志願兵
決して君を傷つけたりはしないよ
数えきれないくらい君を愛する
またどこかで聞いたような歌詞よ。
今度は『オー！ダーリン』ね。
The Beatles『Oh! Darling』
そしてこう続く。
You can count on my word
When times are mysterious
Serious numbers will always be heard
僕の言葉を期待してていいよ
times がミステリアスになる時
シリアスなナンバーズはいつも聞こえてくるだろう
うーん。ここは何だろう？
ポール・サイモンは、ずっと「times」が「ミステリアス」だと歌っていた。
それがポイントだね。
「times」は「掛ける・倍」の他にも「時代の経過・歳月」という意味がある。
時代の経過がミステリアスになる時？
そんな時に「ナンバーズ」が聴こえてくるとポール・サイモンは言っている。
形が見えるんじゃなかったの？
「２２７」という形が。
本来は聴くものだ。そして歌うものだね。
え？
そして「ナンバーズ」が文字で書かれていた場合、それが「２２７」に見えるというわけだ。
わけわかめ。
じゃあ、ちょっと例を…
これは何て読む？
「７１７２ １２」でしょ？
これは数字の列じゃないんだよ。ある「言葉」になってるんだ。
言葉？
「無い？何？位置に？」
そうじゃない。
「神に祝福された息子」という意味なんだよね。
「７１７２ １２」が「神に祝福された息子」なの？
どんな暗号？
正しくは左右反対に読むから「２１ ２７１７」が「神に祝福された息子」だけど。
意味わ甘寧！全然わ甘寧わ！
なにそれ？
あっ！
これはもしや、ヘブライ語では…
その通り。
これでもう『When Numbers Get Serious』でポール・サイモンが何を歌っているのか見当がついたと思う…
「ナンバーズ」といえば、ヘブライ聖書の『Numbers』…
つまりモーセ五書の第四巻『民数記』のこと…
そして「Numbers」をヘブライ文字で書くと、こうなる…
見える！見えるわ！
「７２２」という数字が形になって見える！
そしてヘブライ語は左右反対に読むから…
２２７…
ポール・サイモンが「数字の形になって見える」と言った「ナンバーズ」の謎…
これにてＱ.Ｅ.Ｄ. 、深読み終了。
なんてこった…
『民数記』は、出エジプトをしたイスラエルの民、つまりユダヤ人の「人口調査」の書…
ヨルダン川を越えて、約束の地カナン、つまり現在エルサレムがある地域に辿り着くまで、何度も事細かく人数を数えて、それを逐一記録しています…
まるでパイのように…
だからポール・サイモンは「僕は志願兵」と歌った…
「イスラエル」とは「神の戦士」という意味だから。
つまりポール・サイモンが「僕をその腕の中に抱きしめて欲しい」と歌ったのは「エルサレム」のことだね…
エルサレムは美しい乙女に喩えられるから。
乳と蜜の流れるところ…
まさに島全体が「飲み物・食べ物」だったあの島ね。
乳と蜜の流れる地、エルサレムの乙女であり…
血を飲ませ、肉を食べさせたキリストでもある…
この歌を作った後の１９８３年９月に、ポール・サイモンはキャリー・フィッシャーを連れてエルサレムに行くのよね？
つまり、その時まで待ちきれない想いを歌にしたってこと？
そうだろうね。
おそらく春頃に作ったと思われる。
どうしてわかるの？
ポール・サイモンの自宅の玄関ドアに「印がつけられている」と歌われているからね。
たぶんそれは「赤い印」だったと思う…
あっ！過越しだ！
出エジプトの前、イスラエルの民は玄関に印をつけて、「すべての長子を殺す」という神の災いを過ぎ越した…
そして翌朝エジプト中がパニックに陥ってる隙に旅立ち、モーセの海割りで紅海を渡り、そこから４０年に及ぶ苦難の道のりを歩むことになる…
この苦しみを忘れないように行われるのが「過越しの祭り」だ。
マタイ、マルコ、ルカの福音書では「最後の晩餐」がこれにあたり、ヨハネでは十字架刑の後の夜にあたる。
「過越し」の夜には、家族など大事な人たちが集まり、伝統的な食事をとりながら『出エジプト記』を朗誦し、『民数記』など他のモーセ五書の大事な部分も皆で読みながら、民族の苦難の歴史に思いを馳せる…
その時に使われるテーブルが「ＴＩＳＣＨ（ティッシュ）」、つまりキャリー・フィッシャーの本来の苗字でしたね。
「過越し」は、いろんな映画に登場する。
たとえばコーエン兄弟の『ＲＡＩＳＩＮＧ ＡＲＩＺＯＮＡ（赤ちゃん泥棒）』でも、アリゾナ家の玄関ドアの周りには「赤い印」がつけられていた。
赤ちゃんの誘拐が起きたのは、アリゾナ家が過越しの準備をしていた日の夜…
過越しでは前日までにイースト、つまりパン酵母を家から完全に除去するんだけど、朝から駆けつけて来た警察官たちが居間でドーナツを食べ始め、イースト菌が散らばってアリゾナ氏はブチ切れる…
５人の男の子の父親であるネイサン・アリゾナ氏のモデルは、ネイサン・ロスチャイルドでしたね。
アリゾナ氏もまた、ドイツからアメリカへ移民した際に苗字を英語風に変えており、そこをＦＢＩに突っ込まれていました。
あの映画も、あたし大好き。
ベートーヴェンの第九の歌詞通りのストーリーになってるのよね…
ええ。笑って泣けるコメディの名作です。
ハリウッドから「イースター向けの映画を作れ」と指示を受けたコーエン兄弟は、お偉方にバレないよう、見事にそれを「過越し」の映画にしてしまいました。
岡江クン、本当に好きなんだから、コーエン兄弟が。
彼らもポール・サイモンの歌に大きな影響を受けているからね。
特にこのアルバム『HEARTS AND BONES』に…
そうなの？
その件については、また後程…
「過越し」の話に戻ろう。
過越しでは、様々な歌が歌われる。
最も有名なものは、みんなで歌う「数え歌」だ…
数え歌？
金田一的な？
そうじゃない。もっと楽しい数え歌だよ。
『Who knows One？』という。
いろんな歌詞やメロディのバージョンがあるんだけど、この家族のものが一番カッコいい。
すっごく楽しそう。
だけど早口すぎて何歌ってるのかわからないわ。
１から始まって、数が１つ増えていくたびに毎回逆から言い直すのね…
そして１３まで行ったら、最後に１３から１まで戻っておしまい…
７までで逆再生もない『アブラハムの子』の高難易度版ってとこかしら。
あの家族、「１３」を「主に帰する数字」と歌ってました。
つまり「１３は神の数字」ということ？
そうなんだよね。
ユダヤ教では「１３」は「神の数字」だ。
ちなみあのバージョンの１～１３は、こうなっている…
１：ハシェム（唯一神、God）
２：モーセの２枚の石板
３：父たち（アブラハム、イサク、ヤコブ）
４：母たち（サラ、レベカ、レア、ラケル）
５：モーセ五書
６：ミシュナー六書
７：一週間の日数
８：八日目（割礼の日）
９：臨月
10：十戒
11：十一の星（ヨセフの見た夢）
12：イスラエルの十二支族
13：主に帰する数字
どんどん数を増やしていって、最後に、主に帰する数字１３から、唯一神１まで一気に遡る。
大きく膨張した宇宙が一気に収縮して、始原である神の一点に収まって行く感じだよね。
３が男で４が女？
どこかで聞いた覚えが…
これのことかな？
カササギの数え歌『マグパイ』…
３が女で４が男だったけど…
そうそう！
映画『スリー・ビルボード』で起きたアンジェラ殺人事件の真相を読み解く鍵になっていた数え歌！
カササギは馬小屋の屋根にとまり、生まれたばかりだったイエスの死を予告した鳥…
だから『スリー・ビルボード』や『カササギ殺人事件』などの作品が生まれたの。
では、そろそろ『When Numbers Get Serious』のラストのパートについて解説しようか。
「過越し」で歌われる数え歌『Who knows One？』さえわかれば、意味も腑に落ちてくる。
And after all is said and done
And the numbers all come home
The Four rolls into Three
The Three turns into Two
And the Two becomes a
One
すべてが said され done された後…
これは「数え歌が１３まで数えられたら」ということですね。
数字はすべて家に帰る…
これは「始まりの１に戻る」ということ…
４は３に転がり込み…
ん？
４は母たち、３は父たちでしたよね…
オカンがオトンの布団にもぐりこむってことでしょ。
「おとーちゃん、しよ」って。
しかしなぜ「母は４人」で「父は３人」なんですか？
数が合わなくないですか？
あらやだ。誰かの布団の中には女が２人じゃん。どんだけ？
大丈夫。すべての布団の中は、きちんとペアになってるから。
実はヤコブは二度結婚している。美人姉妹のそれぞれと結婚したんだよね。
最初に姉レアと、そして次に妹ラケルと。
３：父たち（アブラハム、イサク、ヤコブ）
４：母たち（サラ、レベカ、レア、ラケル）
だから計算は合う。
子供向けの数え歌だけど、なかなか侮れないわね。
では「４が３に」はＯＫですね。次は、
３は２に向かう…
これは「父たちが２枚の石板に向かう」だから…
アブラハム、イサク、ヤコブが、十戒に向き合うということ。
最後が、
そして２は１になる…
これは「２枚の石板は神になる」ということ…
つまり「神の意思である十戒は、神そのもの」ということ…
だね。
「最後に２つが１になる」というのは、『ライフ・オブ・パイ』にも通じるところがある。
「パイの物語」とは、「動物たちの出てくる物語」と「人間しか出てこない物語」の２つからなり、その２つが１つになることで「神を信じるようになる物語」になるという仕掛けだった…
ポール・サイモンからアイデアもらいまくりね。
そして、ジョン・レノンの歌にも通じるものがある…
『When Numbers Get Serious』ではビートルズが想起されるようになっていて、それがこのアルバムの最後の曲、ジョンを追悼する歌への布石になっていることは話したよね。
『When Numbers Get Serious』と同じように、ゆったりとした美しいメロディで、最後の言葉が「one」で終わるジョンの曲といえば？
『イマジン』です。
John Lennon『Imagine』
ポール・サイモンにとって、ジョン・レノンは特別な存在だ。
バックボーンも価値観も音楽性も違うけど、パフォーマーとして、そしてひとりの人間として、強く惹かれるものがあったんだろう。
ジョンは「想像してごらん。天国も宗教も無い世界を」と歌いましたが、ポール・サイモンは「神の目から逃れられない。意識せずにはいられない」ですからね…
まるで真逆です。だけど気になる存在だった…
そういうこと。
では次の曲へ行こうか。４曲目は…
じゃない？
あー、この曲かー
なんかめんどくさそーだから、サラッと流しておこうかなー
ちょ、ちょっと岡江クン！
『THINK TOO MUCH』は大事な曲じゃなかったの？
元々はアルバムの表題曲だったんでしょ？
つまり実質メインの曲ってことじゃん！
んー？
絶対に歌詞の中に何かが隠されてそうな気がします…
今まで以上に… とんでもないトリックが…
なにせ『考え過ぎ』というタイトルですから…
『考え過ぎ』という曲のことを考えてる時点で考え過ぎなんじゃないかな。
君をこれから「考江杉夫」と呼ぼう。
か、考江杉夫ですか？
ぽえーん。
ダメだこりゃ。
完全にイカれちまったわ。
これって何なのかしら？
あたしもさっきあったんだけど…
急にすべてが「どうでもいいや」って感じになっちゃうのよね…
あ、それ、私も感じました…
いろいろ深読みしても、意味なんかあるのかなって…
でしょ？ 今夜はそういう星の並びの日なのかしら…
それとも磁場が乱れてるとか？
ハイまた考え過ぎかなぁ？
今日からあなたを深代ママ改め「考え過ぎ田かおる」と呼ぼう！
岡江クン…
もう岡江ッチ抜きで進めるしかないわね。
あんたも深読み探偵なんでしょ？
４曲目、YOUがやっちゃいなよ。
え？私がですか？
私はまだインターン、見習いで…
やるっきゃないでしょ！
あなた以外誰がいるの？ いちおう深読み探偵学校卒業予定なんでしょ？
・・・・・
うふふ。頑張ってね、子猫ちゃん（笑）
は、はい…
つづく
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