第144話 ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ⑬「SONG ABOUT THE MOON」前篇~『深読み ライフ・オブ・パイ&読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
それでは次は5曲目、A面最後の歌です…
『SONG ABOUT THE MOON』…
月に関する歌…
月といえば、このあたしね~
恋の命は 短いけれど…
花の命は 結構長い…
あっ!ズルい!
あたしがやろうと思ってたのに!
回れ愛の 万華鏡…
美少女戦士セーラームーン…
月に代わって、お仕置きよっ!
キィーーーー!
誰があんたの万華鏡なんか覗き込むのよ!そんなモノズキいないっつーの!
放っておきましょう…
うん…
たぶんもう少ししたら、元に戻ると思う…
さあ、まずは曲を聴きましょ。
今度のも、すっごくおもしろそう…
Paul Simon『SONG ABOUT THE MOON』
歌詞はこちらです…
ではまず、曲を聴いた第一印象は?
第一印象ですか?
結構というか、かなり明るい曲調で驚きました…
タイトルを直訳すれば「月に関する歌」ですし、邦題も「月に捧げる想い」だから、ポール・サイモンは哀しみや淋しさを切々と歌うのかと思いきや…
すごくノリノリで、しあわせいっぱいな感じです…
そう。
「人生が幸せでいっぱい」
これがこの曲のすべてだ。
人生が… 幸せで… いっぱい…
それがすべて…
ライフ・オブ・おっぱい~!
ダッダーン!ボヨヨン ボヨヨン!
久しぶりに聞いたわ。
『SONG ABOUT THE MOON』は、アルバム『HEARTS AND BONES』の収録曲10曲の中で、最も早い時期に作られたもの…
アルバム発売の二年前、1981年には作られているの…
この年がどんな年だったか、覚えてる?
えーと…
ポール・サイモンにとって大切な二人、アート・ガーファンクルとキャリー・フィッシャーが戻ってきた年です…
10年ぶりに完全復活したS&Gは、9月にNYのセントラルパークで53万人を集めてコンサートを行い…
ダン・エイクロイドと結婚寸前だったキャリーは、ポールのもとへ帰ってきて、二人は完全に復縁しました…
その通り。
前年1980年の秋に公開されたポール・サイモン初脚本&初主演映画『ONE TRICK PONY』と同名のアルバムには、ポールの熱いメッセージが込められていた…
聴く人が聴けば、それとわかるようにね…
そのメッセージとは、2つ…
まず1つは、自分のもとを去ったキャリー・フィッシャーへのメッセージ、
「今でも愛してる。戻って来てほしい」
そしてもう1つは、音楽のパートナーというより、もはや家族みたいな存在アート・ガーファンクルへのメッセージ、
「時代遅れだと言われてもいい。大切な仲間と旅を続けたい」
そしてそのメッセージは、二人へ届いたんですよね。
だから1981年に両者との関係が復活した…
そういうこと。
だからCメロで、こんなふうに歌われる。
Laughing boy laughed so hard
He fell down from his place
Laughing girl she laughed so hard
Tears rolled down her face
笑っているBOYは笑い過ぎて
そこから転げ落ちちゃった
笑っているGIRLは笑い過ぎて
涙が彼女の頬を伝わり落ちた
つまりBOYはアート・ガーファンクル…
そしてGIRLはキャリー・フィッシャー…
ポール・サイモンの溢れる喜びが、こちらまで伝わってきます…
しかし、この曲が2年後に、あんな形で世に出ることになるとは、この時のポール・サイモンは知る由もない…
そうだね。だけど未来のことなど誰もわからない。
だからその時感じた喜びは、何よりも貴く、かけがえのないものなんだ。
だけど、なんで「月に関する歌」なの?
月、関係なくない?
うふふ。
なぜなら「MOON」は知っているから…
「MOON」は、何もかも…
せ、先輩!?
わーい!深代、歌いまーす!
「・・・ぱい」
き、聞いた?
いま確かに「せんぱい」って聞こえたわよね!?
いいえ。空耳じゃないっすか?
「・・・ぱい」
ホ、ホラまた!「せんぱい」って!
「せんぱいでは、ありません…」
これはヒロノブさんの声…
起きてたんですね。
はい。起きてました。
ケツヤさん、もう支えていただかなくて結構ですよ…
どうもありがとうございました…
んもう!びっくりさせないでよ!
あのタイミングで「せんぱい」とかマジ怖すぎでしょ!
わたしは「いっぱい」と言ったんです…
「チチを一杯お願いします」と…
は~い、よろこんで~
チチがいっぱい、はいりました~!
どうも…
ゴクゴク… ゴクゴク…
やっぱり深代ママのチチは、最高ですね…
そういえば「MOON」の件…
なぜこの歌は「MOONに関する歌」なのでしょうか?
「MOONはすべてを知っている」とは、どういう意味なので…
「MOON」は、おしり。
尻?
前にも話したよね?
「moon」という単語には「露出した尻」という意味がある。
あ、そうでした…
しかしなぜ「moon」にそんな意味が…
イギリス人は月を眺めながら何を想像してたのでしょう?
わたしの尻を見れば、一目瞭然…
ほら…
あっ…
夜空に浮かんだ満月みたいだ…
だから「月」は「ゲツ」とも読むんです…
「おケツ」だから…
知らなかった…
ちなみに、スウェーデン語では…
「月」を「モネ」と言います…
モネ?
しかし綴りは「måne」と書く…
マネ!?
スウェーデンでは、「マネ」と書いて「モネ」と読む…
それって、紛らわしくないんでしょうか?
日本語のマナ・カナみたいなものです…
最初は混乱しますが、慣れれば間違えません…
すごい…
ヒロノブさんって、博学なんですね…
わたくしヒロノブが博学なのではなく…
博学がヒロノブなのです…
勉強になります。深読み探偵手帳にメモっとかなきゃ…
あっ!わかった!
もしかしてまたヘブライ語とか?
ヘブライ語で「月」は「ヤレアハ」…
この歌には全く関係ない。
さすがにA面で同じトリックを2度も使わないよ。
ではなぜ「月」なのでしょう?
ポール・サイモンの全てを見ていて、何もかもを知っている「月」とは、いったい…
チチさー
は?
チチぇーすーやいびーん
チチが何か?
そのチチじゃない。
あれは琉球語。沖縄の言葉では「月」を「ちち」というんだ…
ちち!?
♫「ちち」あなたは~知って~る~の♫
♫「ちち」あなたは何~も~か~も~♫
♫初めてキッスした~日のこ~とも~♫
あー、チチめっちゃ美味しかったー。
早速ですが、ちょっとトイレに行ってきます。
わたしがYESというまで、決してドアを開けないでください。
言われなくても開けないわよ!
うふふ。
それでは皆さん、ごきげんよう、さようなら…
バタンッ
(トイレのドアが閉まる音)
・・・・・
それでは、『SONG ABOUT THE MOON』の深読みを始めましょうか。
と、その前に…
・・・・・
あー岡江クン、ジョン・レノンみたーい!
この曲はシンプルな構成になっています。
1番、2番、さっきのCメロ、そして最後に3番、という流れ。
1番では、月の歌を書きたいなら「クレーターの周りを散歩しろ」と歌われ…
2番では、心の歌を書きたいなら「まず月を思い浮かべろ」と歌われ…
3番では、顔の歌を書きたいなら「手を洗って髪を切れ」と歌われます…
マジわけわかめ。
これまでの曲以上に難解な歌詞かもしれませんね…
あんなに軽やかな雰囲気なのに、ポール・サイモンの言ってることは意味不明…
まずは1番から見ていこう。
こんなふうに始まる。
If you want to write a song about the moon
Walk along the craters in the afternoon
もし君が月についての歌を書きたいのなら
午後にクレーターを散策するといい
やっぱり出だしから変な歌詞ですね。
どうやって月のクレーターまで行くというんですか?
地球上にも「クレーター」はあるんじゃない?
サラッと言うけど、近所にクレーターがある人なんている?
御池山クレーターのある飯田市民以外無理じゃん!
ですよねえ…
もしかして「クレーター」には別の意味があるのでしょうか?
続きの歌詞を見てみよう。
「クレーター」に行くと、こんな景色が見えるらしい…
When the shadows are deep and the light is alien
And gravity leaps like a knife off the pavement
暗がりは深く広がり、光は地球上のものとは思えない
そして重力は道に落ちたナイフのよう
うーん…
やっぱり月面のことを歌ってるのでしょうか?
どうやって散歩しろっていうのよ。行けるわけないでしょ月に。
1番はこう〆られる。
And you want to write a song about the moon
You want to write a spiritual tune
Na na na na na na
Yeah yeah yeah
Presto, a song about the moon
君が月についての歌を書きたいのなら
霊的なしらべを書きたいのなら
ナナナナナ、イエイエイエ
プレスト!月についての歌
最後の「プレスト!」という掛け声は何でしょうか?
確かクラシック音楽の用語だったはず。
「めっちゃ速く」だったかな。
なぜクラシック音楽用語がここで?
知らないわよ!
ポール・サイモンか岡江ッチに聞いて頂戴!
「プレスト」とは「急速に」という意味のイタリア語で、クラシック音楽だけでなく、マジシャンや奇術師が手品をする際に発する「掛け声」としても使われる。
Mr.マリックの「きてます!」みたいな感じかな。
つまり「出来ました!月の歌が!」ってことだね…
ちなみにMr.マリックの娘は「LUNA」…
つまり「月」という名前…
おお… つながった…
♫たまたま、たまたま、たーまたま♫
ちょ、ちょっと待ちなさいよ!
1番はクレーターを散歩しただけでしょ?
それだけで「月の歌」が書けちゃうっていうの?
いや。まさか。
ナナナナナ、イエイエイエ、プレスト!
この「おまじない」が重要だ。
は?
まだ「月」の意味が分からないかな?
「月」は完全なる円弧、つまり、欠けるところのない完全な存在…
しかも同時に、地上から見ると、満ち欠けを繰り返す「死と再生」の象徴でもある…
え? もしかしてイエス?
そう。「月」とは「ナザレのイエス、キリスト」のこと…
だから「おまじない」が、
「ナナナナナ、イエイエイエ、プレスト!」
だったんだね(笑)
ダ、ダジャレ!?
そんな… ありえない…
深読み十則その4…
「ありえない。その《ありえない》は、ありえない」
ハッ!
自分で世界に制限をかけてはいけない…
「ありえない」という一言で片付けてしまうにはもったいないくらい、世界は複雑で、単純で、おもしろいことで満ち溢れている…
うふふ(笑)
それならもう「クレーター」がどこなのか、わかっているようね…
「クレーター」とは、大地が大きくえぐられて窪んだ地形…
ポール・サイモンは「地上で最も大地が窪んでる場所」のことを「クレーター」と言っているんです…
そしてその場所とは…
海抜マイナス400m近くまで大地がえぐられている、死海とヨルダン渓谷周辺のこと…
つまり「クレーターを散策する」とは…
クレーターの淵にあるエルサレムを散歩するということ…
しかもポール・サイモンは「午後に」と指定した…
しかも、まだ日没前なのに「暗がり」に包まれ、「光」は地上のものとは思えないとも…
そして「重大なもの」が、落ちたナイフのように「舗装道路」に突き刺さった…
どんな景色が見えるかな?
とても見覚えのある景色だと思うんだけど…
こ、これです…
『磔刑図』アンドレア・マンテーニャ
またまたこの絵!?どんだけ!?
たまたまでしょー、たまたまー(笑)
これが「たまたま」かどうかは、2番と3番を読み解けばわかる。
それでは2番にいこうか…
つづく
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