深読み バック・トゥ・ザ・フューチャーvol.8(ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ㊹『深読み ライフ・オブ・パイ&読みたいことを、書けばいい。』第175話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
これじゃ、これじゃ。わしが望んでいたものは。
ふぉーっふぉっふぉ。
・・・・・
じゃあ詳しく話してくれない?
この映画が、どれだけ『BACK TO THE FUTURE(バック・トゥ・ザ・フューチャー)』に影響を与えたのか…
いいだろう。
それでは始めようか…
BTTFの原型ともいえる『IT HAPPENED IN BROOKLYN』の話を…
これを聴けば、僕がここまで行ってきたBTTFの深読みが、すべて正しいことがわかるだろう…
予告編を見ても、よくわからないわ。
いきなり変な嘘から始まるし…
IN THE FASCINATING WONDERLAND of the FAR EAST...
とオリエンタルな雰囲気を醸し出しておいて…
BROOKLYN!
ですからね…
確かにブルックリンは、イースト川の東側、マンハッタン島の「東」にあります…
でもなぜ、あんな寒いジョークを使うんでしょう?
あれは別に嘘でもジョークでもないんだ。
「BROOKLYN」は、本当に「遠い東のワンダーランド」だから。
は? どういうことですか?
マンハッタンからブルックリン橋を渡っただけじゃないですか。
それは後程たっぷりと説明する。
まずは「魅惑の深海パーティー」の元ネタになったシーンについて解説しておこう。
元祖 The Starlighters(ザ・スターライターズ)が登場するシーンを…
それにしても、よく似てるわ…
まず、Frank Sinatra演じる主人公が「ザ・スターライターズ」のメンバーと話を交わし、ステージで演奏することになる…
最初の演奏は、よくありがちなラブソング…
その後に「ザ・スターライターズ」によってアップテンポで演奏され、若者たちはノリノリに…
それを見たシナトラは本気を出して歌い、女子たちがメロメロになる…
後半部分は「魅惑の深海パーティー」と少し異なりますが、とてもよく似てると思います。
最後に若い子たちがレコード売り場へ殺到してたわよね?
あれは?
シナトラがこう言ったからだよ。
「コピーをどうぞ」
コピー?
あの曲の楽譜やレコードのこと。
シナトラ演じる主人公ダニーは、音楽ショップの店頭セールスマンなんだ。
よく知られていない曲を店内で実演して、お客さんに売るのが仕事。
彼が演奏すると、その曲が飛ぶように売れるんだ。あんなふうにね。
それって…
バンドリーダーのマーヴィンが従兄弟のチャックに電話したことの元ネタでしょうか?
その通り。
BTTFの中では、その後にチャック・ベリーが曲をコピーして売りまくったことになっている。
あのシナトラを再現したくて、チャック・ベリーを使ったのね…
笑える(笑)
あの歌詞も笑えたじゃろう?
歌詞が?なんで?
全部は聞き取れなかったけど、よくあるベタなラブソングでしょ?
そうじゃないんだな…
あの場面でザ・スターライターズとシナトラが歌った『It's the same old dream』の歌詞は…
そのまま『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のストーリーになっている…
は?
まさか。そんなわけ…
やれやれ。僕を疑うのかい?
それじゃあ歌詞を見ていこう。
1番はこんなふうに始まる…
I can see a steeple - surrounded by people
Oh how real it all starts to seem
尖塔が見える… 人によって周りを囲まれている…
ああ、まるで現実のように見え始めてきた
なんだろう…
なぜか既視感があります…
これだよ。1番は、このシーンとして描かれた。
え?
BTTFのオープニング・シーンでは「人がぶら下がった時計」が映し出される。
街のシンボル「時計台」のミニチュアになっていて、「尖塔」部分は隣に置かれていたよね。
分針には人がぶら下がっていて、文字盤を取り囲むように一周する仕組みだ…
あっ…
そしてこれが、のちに「現実」となる…
そういうこと。歌詞はこう続く。
Just as the choir is singing - my alarm starts ringing
It's the same old dream
ちょうど聖歌隊が歌うように…
わたしの警報は鳴り始める…
むかし見た夢と同じように
BTTFに聖歌隊は、出てこなかったような…
「choir(クワイア)」は「chorus(コーラス)」とほぼ同じ言葉。
つまり、これのことだね。
あっ!
そして「警報」が鳴った…
面白いでしょ?
面白いというか、そのまんま過ぎて…
まだまだこんなもんじゃないんだけどね。
それでは2番に行ってみよう。
今度はどのシーンかわかるかな?
And then my thoughts inspire - a scene by a fire
In a cottage close by a stream
その後、ある考えが閃いた… 火の近くのシーン
川の近くにあるコテージで
コテージとは、山荘風の建物…
それが川の近くにある…
もしや今度は、このシーンのことでは…
その通り。1955年には存在したドクの邸宅だね。
住所は「リバーサイド・ストリート」だった…
そして、「ある考え」が閃いた…
「火のそば」のシーンで…
これですね…
そのまんまじゃん…
そう。だから言ったでしょ?
歌詞がそのままBTTFのストーリーになっているって…
まさか、ここまでとは思わないでしょ、普通…
そして2番の後半は、こんな歌詞だ。
I know it all by heart now - we're about to part now
It's the same old dream
今や、すべてを知ってしまった
私たちは今まさに離れ離れになろうとしている
むかし見た夢と同じように
これは、このシーン…
だね。
ドクは「過去に録画された映像」で、自分の「未来」を知ってしまった…
そんなドクの姿を見たマーティは動揺する…
そしてCメロです…
If you but knew
How many times I pretend - that I'm with you
もしもあなたが気付いたなら…
どれだけ僕は偽っただろう
あなたと一緒にいることを
この「you」はマーティの両親、母ロレインや父ジョージのことね…
「あなたの息子です」と言えれば簡単なんだけど、それは言えなかった…
その通り。
そして、こう続きます…
I'm sure your heart would unbend - you'd see me through
Until my dream had a happy ending
僕は確信する。あなたの心は曲がらないと
あなたは僕のためにやり遂げてくれるだろう
僕の夢がハッピーエンドを迎えるまで
マーティは、本来そこに居てはいけない自分のせいで、「自分が生まれない未来」を作ってしまいそうになった…
そして、そうなることを阻止するために、あらゆる手を打ったのよね…
未来の父ジョージと母ロレインが、歴史通りに結ばれるように…
マーティの夢が「ハッピーエンド」になるかどうかは、1955年11月12日に行われた「魅惑の深海パーティー」に懸かっていました…
あの夜に、ふたりが恋に落ち、運命のキスをするかどうかに…
そして最後に歌われる3番は、こんなふうに始まる…
And I can picture clearly - the things I love dearly
In the center you reign supreme
そして僕にはハッキリと見える
僕の愛するものたちの姿が
真ん中には勝ち誇った君の姿
ピクチャー… こ、これは…
ジョージとロレインがキスしたことで、ギターのネックに挟んでいた写真の中の3人の姿が、ハッキリと見えるようになった。
1985年の世界では、あまり好きではなかった兄と姉だったけど、この時のマーティには、心から愛しいと思える存在だったんだよね…
なんてこった…
でも3番の最後は?
なんだかハッピーエンドじゃないみたいだけど…
We kiss and I discover - I'm a lonesome lover
It's the same old dream
キスをして僕は発見した
僕は孤独な愛する人
むかし見た夢と同じように
確かに…
これはどういうことでしょうか?
これも「あの写真」で再現されている。
あの夜には「もうひとつのキス・シーン」があったでしょ?
そのキスのせいで、マーティは「ひとりぼっち」になってしまった…
あっ…
母ロレインとのキス…
母とのキスのせいで、写真に写る「愛しの三人」の未来は一気に薄いものとなった…
残っているのはマーティだけになってしまったんだよね…
ああ…
怖すぎる…
この歌、完璧にBTTFじゃん…
最初から、そう言ってたけど。
岡江クンが「そういうふう」に話を持って行ってるんじゃないのよね?
あたかも「そういうふう」に聞こえるように…
僕は誘導などしない。
深読みから導き出された事実を述べているだけだ。
BTTFの制作陣は、この曲をシナトラと一緒に歌った「ザ・スターライターズ」の名を、BTTFのクライマックスともいえる「魅惑の深海パーティー」で演奏するグループの名前に使った。
なぜなら、BTTFの原型が、あの映画だから…
これは疑う余地のない事実…
やはりこれは偶然とは思えません…
この歌に隠された秘密を、いつか誰か気付いて欲しくて、そうしたとしか…
ようよね…
でなきゃ「ザ・スターライターズ」なんて変わった名前、つけるわけがないわ…
「ザ・スターライターズ」は、およそ40年という時間に隔てられた二つの作品を繋ぐ存在…
BTTFとは1986年の『It happened in Brooklyn』であり…
『It happened in Brooklyn』とは、1947年のBTTFなんだよ…
しかしあの映画はSF映画ではないんですよね?
どう見てもタイムスリップとかしなさそうですし…
確かに『It happened in Brooklyn』はSF映画ではないし、タイムスリップもしない。
だけど、まるで「タイムスリップしているかのように」描かれているんだ。
え?
Trailer の冒頭で使われた変なジョークは、それを暗示してたわけだよ。
嘘でも冗談でもなく…
本当のことを言っていたんだね…
IN THE FASCINATING WONDERLAND of the FAR EAST...
BROOKLYN!
が、ですか?
宣伝コピーを侮ってはいけない。
何の変哲もないような言葉に見えて、実はその本質をズバリと言い表しているんだ…
ぽえーん。
どういうことでしょう?
映画のタイトル『It happened in Brooklyn』とは、直訳すれば「それはBrooklynで起きた」という意味になるよね?
はい。
ニューヨークのブルックリンが舞台のようですから。
そうじゃないんだよ。
この映画における「Brooklyn」とは「ニューヨークのブルックリン」のことではないんだ…
は? じゃあ、どこなんですか?
あの宣伝文句の通り、遠い遠い東の地にある「BROOKLYN」だ…
アメリカから遠く離れた東の地に「ブルックリン」なんて場所があるの?
聞いたことないけど…
ちなみに「Brooklyn」とは、オランダの町の名前「Breukelen」が英語化したもの…
ブルーケレン?
ブルックリンは、そこから移住してきた人たちが開拓した土地だから…
じゃあ本当の舞台はオランダのブルーケレンってこと?
うふふ。違うわよ。
もっと東にある「BROOKLYN」が舞台…
もっと東?
まだ他にもブルックリンがあるの?
そう。
そこが『It happened in Brooklyn』の本当の舞台だから、あたかも「タイムスリップしている」ように見えるんだ…
わけわかめ。
いったいそれは、どこなのでしょう?
ここだよ。
は? またここ?
だから言っただろう。
この映画は、そのままBTTFなんだって。
BTTFは「受胎告知」がモチーフになった物語で、最後に「John the Baptist」こと洗礼者ヨハネの歌『Johnny B. Goode』が歌われることで、救世主誕生の預言が成就されるという筋書きだった。
その原型はこの『It happened in Brooklyn』だ。設定もストーリーも、ほぼそのまま踏襲しているんだよ。
『It happened in Brooklyn』の舞台が「BROOKLYN」だったから、BTTFの舞台は「Hill Valley」になったんだ。
両者は同じ意味だからね。
同じ意味?
「Hill Valley」とは文字通り「丘陵地帯にある峡谷」のこと…
そして「BROOKLYN」とは「BROOK」のある「LYN」…
「BROOK」は「川」ですけど「LYN」とは?
「LYN」とは「川が大きな湖に流れ込む深い渓谷」という意味。
そ、それって…
ヨルダン川が死海に流れ込むヨルダン渓谷のことじゃないですか…
そういうこと。
だから両者は同じだと言ったんだ。
なんてこった…
映画を見てみたいわ…
どんな映画なのかすっごく気になる…
DVDは日本では廃盤になっているみたいですね。NetflixやAmazonやYouTubeでも配信されていません…
過去の重要な作品を保存している INTERNET ARCHIVE の中にありますよ…
ここなら今すぐ見れます…
あっ!ホントだ!
じゃあ観ましょうよ!
本当にBTTFの原型なのかどうかを確かめるために…
102分かかるけど、その価値は十分あるだろう。
いきなり冒頭からBTTFの元ネタになったシーンの連続だ…
冒頭から?
そう。笑いを堪えるのが大変なくらいにね。
冒頭シーンだけで、これらのことが描かれている。
「主人公が頭を怪我して、頭のことを心配される」
「遠い世界から来たことを疑われ、質問を出される」
「主人公が遠い世界から持ってきた、大切な存在が映った写真」
「主人公が慣れない環境の中を歩き、周囲の人に邪魔あつかいされる」
などなど…
えーと…
マーティが自動車事故で頭を打ったこと…
未来から来たことをドクに疑われて質問されたこと…
財布に入っていたスリーショットの写真…
1955年のヒル・バレーに驚いたマーティ…
ですね…
そんなに?
すっごく気になるわ。
では、観てみようか。
1947年のBTTFを…
つづく
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