「ぜんぶ嘘(ライラライ)」 『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
『ライフ・オブ・パイ』という作品は…
最初から最後まで「駄洒落」と「ジョーク」で出来ているんです…
それを暗に伝えるための「FOX&キツネ」なんですよ…
マジで?
キツネといえば洋の東西を問わず「狡賢さ」「嘘つき」っていうイメージがあるわよね。
民話や童話なんかでも、他の動物を騙してエサを奪おうとしたりする。
そうだね。
しかもこの「FOXの映画だからFOX出しました」は、ただの駄洒落ではない。
『ライフ・オブ・パイ』という物語の「核心」を暗示している重要な駄洒落なんだよ。
しかも「2つの核心」を同時に…
ちょっと待ってよ…
この画の中に2つの核心が隠されているの?
その通り。
最初のワンショットの中に、作者が最も言いたいことが語られている…
ものを伝える上では基本的なことかもしれません。
僕もそう思います。優れた作品は皆そうですから。
その核心って何よ。
教えて岡江クン!
まず1つめの核心は…
この物語で語られることが、すべて「嘘」だということ…
すべて嘘?
「動物たちとの漂流」が嘘ってことでしょ?
そうじゃない。
「人間バージョンの漂流話」も嘘なんだ。
え?
パイが語った「人間バージョン」を聞いた人は、こう考えた。
トラ=パイ
ハイエナ=コック
シマウマ=水夫
オランウータン=パイの母
だけどこれも嘘なんだ。
パイの巧みな話術によって、みんな誘導されてしまっているんだよ。
そうなの? 別の人ってこと?
そう。この4人の中に別人が混ざっている。
アタシ映画を観てないんだけど、なんかヤバそうな話ね。
この物語では主人公パイが「二通りの話」をします。
どちらも「何が起こって、どうやって生き抜いたか?」というサバイバルの話です。
最初は「パイと4匹の動物」の漂流話、次に「パイも含めた人間4人」の漂流話…
多くの人は、後から語られる「パイも含めた人間4人バージョン」に、最初の「パイと4匹の動物バージョン」を重ね合わせて理解しようとします。
だけど両方の話が「嘘」なので、それは意味をなさない仕組みになっているんです。
そもそもパイの狙いは別の所にあるのですから…
別のところ?
語り手であるパイが言いたかったこと…
そして聞き手の作家が望んだこと…
それは「漂流サバイバル」とかいう話ではなく「別の事」なんです。
詳しいことは映画の進行に沿って解説します。
ううむ。これは大変なことになりそうですね…
『スリー・ビルボード』の時以上の嵐が吹き荒れそうな予感がします…
だけどヒロノブさん…
この物語の「嘘」はそれだけじゃありませんよ。
そもそも主人公パイが「インド人」で「ヒンドゥー教徒」だという設定も「嘘」です。
え?
ちょっと岡江クン、何言ってるの?
映画の前半はインドでの話じゃん。
オープニングシーンの動物園もインドの動物園よ。
あそこは「インド」ではないんだ。
別の場所なんだよ。
は? もしかして撮影場所が違うってこと?
そんなのよくある話じゃない?
そういうレベルの話じゃない。
そもそも、この物語はインドとは全く関係がないんだ。
インドは「喩え」として使われているに過ぎないんだよ。
何言ってるの?
パイとその家族はインドのボンディシェリで動物園を経営してて、政治事情が悪化して経営難になったから子供の将来の子とも考えてカナダへ移民することになって、動物たちと一緒に乗り込んだ船が嵐に巻き込まれてマリアナ海溝に沈没して、救命ボートで太平洋を漂流したんでしょ?
あれも全部「嘘」だ。
パイが遭難して漂流していたのは、太平洋ではなくて他の場所。
ええ~!?
なんと…
もう!何が何だか!どうなってんのよ!
そもそもこの映画は『シックス・センス』や『サイン』を大ヒットさせたM・ナイト・シャマランが監督するはずだった。
英連邦内で最高の文学賞ブッカー賞受賞の世界的ベストセラーと、飛ぶ鳥を落とす勢いの映像作家の組み合わせは、話題性抜群。
しかも奇遇なことにシャマランは、物語の主人公パイと同じインドのボンディシェリ出身だ。
誰しもが「シャマランが撮らなきゃ誰が撮るんだ?」と思っていたそうだ。
FOXも相当な期待を込めてシャマランに依頼した。
M. Night Shyamalan
てゆうか、40代のパイそっくりじゃん。
かなり寄せ過ぎだよね。
さて、引き受けた当初のシャマランは、かなり気合が入っていたそうだ。
出来上がっていた脚本が気に入らず、自分ですべて書き直したことからも、その並々ならぬ意欲がうかがえる。
だけどシャマランは、突然、自ら降板を申し出た。
え?どうして?
わざわざ自分で脚本まで書いたのに?
たぶん推敲を重ねていくうちにシャマランは気付いたんだと思う…
この物語がインドとは全く何の関係もないということにね…
うそ…
もし岡江君の言う通り『ライフ・オブ・パイ』が「インドとは全く何の関係もない物語」だとしたら…
シャマランも堪らんでしょう…
ノブくん、うまい!
もう、何が何だかわからない…
何なの今夜は…
そんな時は、歌うに限ります。
歌?
抱えきれない現実や、整理のつかない感情を歌にすることで…
人は困難な時代を乗り越えてゆくのです…
人類の歴史とは、その積み重ね…
そうね。そうかもしれない…
「歌は世につれ世は歌につれ。時代を超えて語り継ぎたい歌がある」って言うじゃない!
歌おうよ、深代ママ!
アタシが一緒に歌ってあげるから!
ありがとう、良介山ママ…
でもね…
今はちょっと、誰かと一緒に歌う気分じゃないの…
え?
なんだか今夜はいろんなことがありすぎて…
人が信じられなくなっちゃった…
自分以外の人のことを、どうしても信じられない…
アンタ…
・・・・・
ホントは二人でハモったりしたほうが気持ちよく歌えるんだろうけど…
今は、あたし以外の誰とも歌いたくない…
(大林少年、岡江に耳打ちをする)
教官…
え? どうしたんだい大林少年。
万が一を想定し、このアタッシュケースに「一式」入れてきました。
あ…
?
ちょ、ちょっと失礼します…
(席を立ち、トイレに入る)
ねえ、深代ママ…
なんかハモらなくてもいい歌にしたら?
ひとりで歌えばいいじゃない。
うん…
だけど頭に浮かぶのは、某デュオの「あの曲」だけなの…
なぜかその曲だけが頭の中でリフレインして止まないの…
そうなんだ…
自分ひとりで歌いたいのに、それが出来ないなんて…
可哀想、深代ママ…
ハァ…
それにしても岡江ッチ長いわね。アタシもトイレ行きたいのに。
うんこかしら?
10分後
ジャーーーー
(トイレを流す音)
お待たせ。
へ?
これは…
深代ママが二人!?
・・・・・
わずか10分で、ここまで…
さすが…
ちょっと岡江クン、どういうつもりなの?
まだあたしをからかう気?
いや、その…
深代ママが「自分以外とハモりたくない」って言うから…
ハァ…
もうあなたには言い返す気力も無いわ…
どうもありがとう。気を遣ってくれて。
じゃあ、一緒に歌う?
はいはい。歌わせていただきます。
この店にギターは2本ないから、ウクレレでいい?
うん。音の出るものなら何でも…
だけどさ、いきなりでハモれるの?
たぶん…大丈夫だと思うけど…
キーはこれよ。
ライララ~イ♫
ライララ~イ♫
あらやだ。声色までそっくり。
まるでYouTubeの「ひとり多重録音動画」みたい。
OK。じゃあ、行くわよ。
W深代で歌います。
サイモンとガーファンクルで『ボクサー』…
つづく
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