ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ㊹「Cars are Cars」後篇（第182話）
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2019年9月19日
スナックふかよみ
そういうこと。
で、では…
ポールが突然切り出す「世界情勢」や「自分語り」も…
とても重要な部分だね。
それでは歌詞を詳しく見てみようか。曲の５５秒からだ。
Paul Simon『Cars are Cars』
こんな出だしですね…
But people are strangers
They change with the curve
From time zone to time zone
ポール・サイモンは歌う。
ところ変われば人も変わる、所詮はストレンジャー同士だと…
それぞれタイムゾーンが異なるように、生き方も考え方も異なると…
問題はここからですね。
As we can observe
They shut down their borders
And think they're immune
They stand on their differences
And shoot at the moon
こんな景色が見えるはずだ
彼らは国境線をシャットアウトして
それで万事ＯＫだと考え
自分たちの特別性を主張し
月に向かって銃を撃つ
ポール・サイモンは、明らかにパレスチナ問題のことを言っている。
イスラエルによって築かれたヨルダン川西岸の壁のことだ。
では「月に向かって撃つ」とは…
このアルバムにおける「月」は何を意味していた？
「神・主」です…
そう。
神の名のもとに、同じ神を信じる者を撃つ…
呼び方が違うだけで、同じ神のはずなのに…
なるほど…
そういうことだったのね…
ユダヤ教、イスラム教、そしてキリスト教も、同じ神を戴くアブラハムの民の宗教…
これで１分２５秒からの歌詞の意味もわかるだろう。
Cars are cars
All over the world
(Drive 'em on the left)
Drive 'em on the right
Susceptible to theft
In the middle of the night
車（聖書）は車（聖書）
世界中どこでも
左側通行だ！
右側通行だ…
ん？ なんで左右の通行の話？
しかも「左側通行だ！」の時、ポールが声色を変えていたのはどうして？
ポール・サイモンが「左側通行」じゃないからだよ。
は？ アメリカに住んでるから？
あっ！これのことですよ！
英語など欧米の言語は「右方向」に読み書きし…
ヘブライ語やアラビア語は「左方向」に読み書きします！
あ、そっか…
ポール・サイモンの母語は英語だから「Drive 'em on the right」で…
声色を変えて「Drive 'em on the left」と言ったのは、アラビア語やヘブライ語を使う人たちのことを表していたんだわ…
そういうこと。
それでは「真夜中は自動車泥棒の影響を受けやすい」は？
夜遅くに聖書を読んでいると影響を受けやすくなって、パクりたくなるということだろう。
実際ポール・サイモンは、そうやって歌詞を書いてきたんだと思う。
ほとんどの作品に聖書の影響が見られるからね。
すべてのアートは、模倣、マネから始まる。
なるほど。
そして残るは「自分語り」の部分…
I once had a car
That was more like a home
I lived in it, loved in It
Polished its chrome
僕も昔は車（聖書）を持っていた
それは故郷みたいなものだったね
どっぷりハマって、心底惚れていたんだよ
クロム加工されたメッキ部分をピカピカに磨いていた
こんな感じかしら？
ここは最後のフレーズが命だ。
「Polished its chrome」のこと？
そう。ポール・サイモンはトリックを仕掛けている。
このフレーズの中に「２人の人物名」が隠されているんだ。
また人物名？ しかも２人も？
気付かない？
ぜんぜん。
「its chrome」はアナグラムになっている。
わかるかな？
アナグラム？
岡江クンが大好きな、文字を並べ替えるやつね。
えーと…
簡単なアナグラムだよ。「its」をちょっと並べ替えるだけでいい。
あっ！「christ rome」です！
その通り。
でも「キリスト」も「ローマ」も人物名じゃないでしょ？
キリストは「油を注がれし者・聖別されたもの」という意味だし…
ローマは「ロムルスの町」という意味…
そうだね。「christ」も「rome」も特定の人物を指す名前ではない。
ぜんぜん隠されて無いじゃん。
まだ言葉が残ってるでしょ？
「Polished」のこと？
「Polish」には「磨く」の他に「ポーランド人の」という意味がある。
だから何？ それも人物名じゃないじゃん。
つまり「Polished its chrome」とは…
「ポーランド人になった、キリスト、ローマ」という意味になっている。
は？
もしかして…
ヨハネ・パウロ２世のことですか？
その通り。
ヨハネ・パウロ２世はカトリック史上初となるポーランド出身のローマ教皇として大きな話題になった。
ちなみに英語では「John Paul Ⅱ」という…
あっ！
ジョンとポール…
ジョン・レノンとポール・サイモン…
ちなみにジョンとポールは親交があったの？
もちろん。
１９６０年代後半に世界で最もレコードを売った１位と２位の天才ソングライターは、７０年代に二人ともニューヨークで暮らしていたし、互いにレコーディング中のスタジオを訪ねたりもしていた。
二人でグラミー賞のプレゼンターを務めたこともあったくらいだ。
すごいコンビ…
しかも受賞者がアート・ガーファンクルだし…
ポール・サイモンは「Polished its chrome」というフレーズに「ジョン」と「ポール」という名前を隠した…
それは、この次の曲、アルバム最後を飾る曲『The Late Great Johnny Ace』への布石…
ポールがジョンの想い出を切々と語る歌だから…
全然ふざけた歌詞じゃなかったのね…
そして「ジョンとポール」を想起させた後、こんなふうに歌は締めくくられる。
If some of my homes
Had been more like my car
I probably wouldn't have
Traveled this far
もしも、いくつかある僕の故郷のどれかが
車（聖書）に近い世界だったなら
僕は旅をする必要はなかったのにね
こんなに遠くまで遥々と
だから「some of homes」なんて言い回しだったんですね…
ポール・サイモンには、いくつか「故郷」があります…
生まれ育った故郷アメリカ、ニューヨーク…
不遇時代を過ごしたロンドン…
そして、魂の故郷エルサレム…
その通り。
ちなみに、このアルバム『ハーツ・アンド・ボーンズ』は、再結成したサイモン＆ガーファンクルが世界ツアーを行う中で作られた。
ニューヨークのセントラルパーク野外コンサートが発端となり、最終ゴールのイスラエルまで、足かけ３年に及ぶ長い長い旅だったよね。
ジョン・レノンと違って政治や宗教に関する発言をあまりしないポール・サイモンだけど、いろいろ思うところがあったんだろう。
以上『Cars are Cars』の深読みでした。
だけど…
なぜこんな、ふざけた感じの曲調にしたのかしら？
もっとまじめに作ればいいのに。
ですよね。
アルバムの大トリ前の曲なんですし…
しかも、その大トリは「ジョンの死」も歌われる切ないバラードよ…
名曲『Rene And Georgette Margritte With Their Dog After The War』と大トリの切ないバラードの間に、こんなバカっぽい曲を入れる？
わざとだよ。
え？
名曲に入る前にワン・クッション入れるため、ポール・サイモンは『Cars are Cars』をこんなふうな曲調にしたんだ。
名曲を引き立てさせる効果を狙ったもので、よく使われる手法なんだよ。
ちょっと大仰に感じる曲の前に「照れ隠し」でこういう曲が置かれることもある。
そうなの？
例えば、ビートルズのアルバム『LET IT BE』でも…
名曲中の名曲『The Long And Winding Road（ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード）』の前には、どんな曲が置かれていた？
それは…
ジョンが高校生の頃に作った曲『One after 909』です…
その通り。
ちなみに『LET IT BE』というアルバムは、『GET BACK』というタイトルになるはずだった。
ポール・サイモンの『HEARTS AND BONES』が、本当は『THINK TOO MUCH』になるはずだったのと同じね。
「ゲット・バック」とは、バラバラになってしまったビートルズ、特にジョン・レノンとポール・マッカートニーの関係を「元に戻す」という意味…
久しぶりに４人が集まってセッションやライブを行い、ロックンロールに夢中だったバンド結成時の頃に帰ることを目的としたアルバムだったんだね。
だからジョンとポールが出会った頃の想い出の曲『One after 909』が、あの有名な「屋上ライブ」で演奏されたというわけ…
だけど、そんな願いもむなしく、ジョンとポールは空中分解してしまった...
なるほど。
だからあんな子供じみた歌詞の歌が名曲『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』の前に置かれたのですね。
ホント変な歌よね。
彼女は「909便の次の列車に乗る」と言ったのに、追いかける彼はなぜか違う列車に乗ろうとしてしまう…
そして彼は、車掌さんに「違うよ」と言われ、家に帰って確認するまで、その勘違いに気がつかなかった…
どんだけ間抜けな男なの？
男は間違っていない。
むしろ間違っていたのは女の方だ。
は？
ちなみに「９０９の１つ後」とは、ジョンの誕生日のことでもある。
ジョンは「１０月９日」生まれだからね。
イギリスでは日付を「日・月」の順で書くから「９１０」だ。
自分の誕生日？ それをなんで間違うの？
「９０９の１つ後」って言ったら「９１０」に決まってるじゃん。
子供でもわかることよ。
そうじゃないんだよね。
この数字が歌詞の中では「鉄道の便ナンバー」として使われることがポイントだ。
便ナンバー？ それが何か問題でも？
「９０９の１つ後の列車」は、１つではない…
２つあるんだ。
え？ ２つ？
別のホームに到着する反対方向行きの列車「９１０便」と…
９０９便と同じホームに到着し、同じ方向へ行く「９１１便」だ…
つまり「上り」と「下り」のプラットフォームを間違えたってこと？
鉄道システムをよく知らない彼女は、彼にこう言った…
「９０９の１つ後に乗る」と…
そして彼は「９０９の１つ後」を常識的に「９１１便」だと考えた…
だけど彼が行ってみると、彼女は「９１１便」には乗っていなかった…
なぜなら彼女は、すでに別のホームから「９１０便」に乗っていたから…
西村京太郎の鉄道ミステリーみたい…
数字だけで考えると「９０９の１つ後」は「９１０」になる…
だけど便ナンバーで「９０９の１つ後」だと、それは数字としては「２つ後」の「９１１」になる…
このトリックをジョンは歌にしたわけだ。
そういうことでしたか…
だから何度も「move over once, move over twice」と歌われるんですね…
１つ数字を移動するか、２つ数字を移動するか…
そういうこと。
なにげによく出来てる歌詞だと思わない？
この頃からすでに非凡なセンスと知性を感じさせる…
恐れ入りました、ジョン…
ちなみにアルバム『LET IT BE』には、もう１曲、誰もが知ってる超名曲があるよね？
Ａ面に入ってる『レット・イット・ビー』のこと？
あっ…
そういえば『レット・イット・ビー』の前にも、かなり場違いな曲が置かれていました…
ポール・サイモンの『Cars are Cars』以上にふざけているように聞こえる曲『Dig it』が…
意味不明の単語の羅列のあとにジョンのふざけた裏声のセリフがあって、間髪入れずポールのピアノが聴こえてきて『レット・イット・ビー』が始まる…
よくこの２つを繋げようと思ったわよね…
最初は違和感しかありませんでしたけど、聴いてるうちに馴染んでくるのが不思議です…
『Dig it』無しの『レット・イット・ビー』って、物足りなく感じませんか？
それはあるかも（笑）
・・・・・
だけど唯一不満なのは…
『Dig it』も『レット・イット・ビー』も、単品作としては、どちらも同じ値段で売られていること…
『レット・イット・ビー』が２５０円なら、『Dig it 』は１０円くらいが妥当な値段だと思います。
確かに。あれで同じ値段はないわよね（笑）
・・・・・
ふぉーっふぉっふぉ。
何ですか急に？
お主の師を見よ。
何か言いたそうな顔をしておるぞ。
教官が？
・・・・・
岡江クン、どうしたの？
『BACK TO THE FUTURE』だ…
ＢＴＴＦ？
もう終わったでしょ、その話は…
終わってなんか、いなかったんだよ…
それはどういうことなので？
僕は…
大変なことを見落としていた…
大変なこと？ なにそれ？
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と…
ビートルズのアルバム『レット・イット・ビー』の関係だ…
は？
ＢＴＴＦとビートルズ？
この両者に、いったいどんな関連性が？
しかし今はポール・サイモンのアルバム『HEARTS AND BONES』の深読みタイム…
ようやく最後の曲『The Late Great Johnny Ace』に辿り着いたところだ…
やっぱり寄り道はよくない…
き、気になるじゃないですか！
そうよ。いいじゃない、寄り道したって。
ここまでだって散々寄り道して来たんだから…
でも…
よりみち主義だ。
そうそう。たまにはいいこと言うじゃん、しげしげさんも。
ぽえーん。
だけど…
だけど？
少し長くなっちゃうかもしれないんだよね、この深読みは…
せっかくゴールが見えてきたところなのに…
そんなこと気にするなんて岡江クンらしくないわね。
あたしたちは全然構わないわよ。
柴門文代さんだって、そうでしょ？
そうね…
「するな」と言っても、もう止まらないんだろうし…
すみません。職業柄どうしても…
ふふふ。
やっぱり変えられないものは変えられない…
どうやっても無理だったってことね…
え？
何でもない。こっちの話…
だけど、大きく「変わったこと」もあった…
大きく変わったこと？
うふふ。
さあ、気が済むまでＢＴＴＦを深読みして頂戴。
深読む馬鹿が、あたしは好きよ（笑）
あ… どうも…
ふぉーっふぉっふぉ。
結局こうなるんだから、余計な心配なんかしなくていいの！
さあ聴かせて頂戴、岡江クン！
ＢＴＴＦと『レット・イット・ビー』の関係を！
うん、わかった…
では話そう…
つづく
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