第126話「ポール・サイモンの ONE-TRICK PONY ⑮「Jonah」中篇
前回はコチラ
2019年9月19日
スナックふかよみ
だけどさ…
この歌『Jonah』って、旧約聖書『ヨナ書』のヨナのことでしょ?
怪物魚に飲み込まれて、三日のちに吐き出されたヨナ。
そうだよ。だから続くサビではヨナのことが歌われる。
それじゃあ、なんで1番でさ…
ここまでマグダラのマリアの存在がフィーチャーされてるの?
いいところに気付いたね…
それがこの歌に隠されたメッセージを読み解く鍵なんだ…
え?
それでは、改めて曲を聴いてもらおうか。
Paul Simon『Jonah』
歌詞はコチラ。
映画『ワン・トリック・ポニー』でポール・サイモンが演じる主人公ジョナと同じ名前の「預言者ヨナ」がサビに出てくるこの歌は、「どうせ僕は死んでも治らない音楽バカだよ!」という開き直りの歌になっている。
もちろん、表向きの意味だけど…
サビはこんな歌詞です。
They say Jonah, he was swallowed by a whale
But I say there’s no truth to that tale
I know Jonah
He was swallowed by a song
人は言う。ヨナは鯨に飲み込まれたと
だけど僕に言わせてみれば
その話は全くもってデタラメだ
僕はヨナを知っている
彼は「歌」に飲み込まれたんだよ
こんな感じ?
「鯨に飲み込まれた」って、ピノキオみたい。
クジラというか「とてつもなく大きな魚」だけどね。
聖書にも「魚」と書いてあるし、絵画でも「魚」として描かれる。
『大魚に吐き出されるヨナ』
ピーテル・ラストマン
確かにどう見てもクジラではありません。
ひーっくしん!
ヒロノブさん大丈夫?
もしかして寒いの? また赤いタオル貸そうか?
さっきみたいに首から掛ければ少しは暖かいんじゃない?
ちょっと寒気がするヨナ、しないヨナ…
でも大丈夫です。
14世紀に編纂されたモンゴル帝国の歴史書『集史』でも…
ヨナを飲み込んだのは「魚」として描かれている。
『大魚に吐き出されるヨナ』
Jami' al-tawarikh(集史)より
ひーっくしん!
本当に大丈夫ですか?
よかったら僕のジャケット貸しますけど…
心配ご無用…
きっと誰かが私の噂話をしてるんだヨナ…
こんなのもありましたよ。12世紀のものです。
『大魚に飲み込まれるヨナ』
ヴェルダンのニコラス
こわっ。押し込んでるように見えるわ…
「飲み込まれる」というより「生贄にされる」じゃん。
ひーっくしん!
ホントに大丈夫?
絶対に体が冷えちゃったんだわ。
うちの電子レンジがもっと大きければ、中でチンしてあげられるんだけど…
殺す気ですか。せめて乾燥機にしろヨナ…
鼻かんだ方がいいわね。
はい、ティッシュ…
これはどうも。ちーん…
それにしてもなぜポール・サイモンは「クジラ」と歌ったのでしょう?
「whale」と「tale」で韻を踏むためでしょ。
「fish」じゃ詩としてイマイチ。
それじゃあ「その話は全くもってデタラメだ」は?
なんでポール・サイモンはヨナの話を否定したの?
自分が演じる主人公は、ヨナと同じ名前のくせに。
「whale」には「大資本」っていう意味があるの知ってる?
ポール・サイモン演じるジョナは、大手レコード会社、つまり「大資本」には飲み込まれなかったでしょ?
最後は自分の音楽スタイルを貫き通した。誰にも理解されないけど、自分が信じるやり方で。
つまり「大資本」じゃなくて「歌」に飲み込まれたってこと。
あ、なるほど。
「Jonah」と聞けば、誰もが「大魚に飲み込まれる」という逸話を思い浮かべる。
そして、それがキリスト教徒にとって最大の福音「主の復活」の予型であることも…
福音書の中でイエスは、ヨナの話を何度もしますよね。
しかも同じ話を…
『マタイによる福音書』
12:38 そのとき、律法学者、パリサイ人のうちのある人々がイエスにむかって言った、「先生、わたしたちはあなたから、しるしを見せていただきとうございます」
12:39 すると、彼らに答えて言われた、「邪悪で不義な時代は、しるしを求める。しかし、預言者ヨナのしるしのほかには、なんのしるしも与えられないであろう。
12:40 すなわち、ヨナが三日三晩、大魚の腹の中にいたように、人の子も三日三晩、地の中にいるであろう。
16:1 パリサイ人とサドカイ人とが近寄ってきて、イエスを試み、天からのしるしを見せてもらいたいと言った。
16:2 イエスは彼らに言われた、「あなたがたは夕方になると、『空がまっかだから、晴だ』と言い、
16:3 また明け方には『空が曇ってまっかだから、きょうは荒れだ』と言う。あなたがたは空の模様を見分けることを知りながら、時のしるしを見分けることができないのか。
16:4 邪悪で不義な時代は、しるしを求める。しかし、ヨナのしるしのほかには、なんのしるしも与えられないであろう」。そして、イエスは彼らをあとに残して立ち去られた。
同じ話は何度してもいい…
同じ話は何度書いてもいい…
へーっくしょん!
んもう、ヒロノブさんったら。カトちゃんじゃないんだから。
はい、ティッシュ。
かたじけない。ちーん…
ヨナとイエスの密接な関係…
それをこの歌『Jonah』の中で描くために、あの1番があったわけですね…
墓の中に埋葬されたイエスが三日目に再び姿を現し…
マグダラのマリアに対して「復活の福音を謳う」という名場面を描いた1番が…
ちなみに、ヨナとイエスの関係がとても重要であることを示す「超有名な絵」があるよね?
ヨナとイエスをフィーチャーした、誰でも知ってる絵だ…
わかるかな?
ヨナとイエスの絵?
そんな絵、ありましたっけ…
これだよ。
バチカンのシスティーナ礼拝堂にある、ミケランジェロの『最後の審判』…
『最後の審判』ミケランジェロ
え?
この絵にヨナは描かれていないと思いますが…
イエスの上に大きな足が見えるだろう?
あのニョキっと2本出てる足ですか?
あれはヨナの足なんだ。
『最後の審判』のイエスの真上には、ヨナが描かれている。
救世主イエス・キリストの出現を預言した12人の預言者の中で、最も重要な「死と復活」を預言した人物としてね…
ホントだ。二人は一直線上に描かれてる…
イエスが絵の中心線からズレてるのが前から疑問だったんだけど、上にいるヨナに合わせたものだったのね…
しかもミケランジェロは、明らかにポーズも寄せてる…
ヨナを飲み込んで吐き出した「魚」も、ちゃんと隣に描かれてます。
イエスの隣にいる女は誰?
あれはマリアだ。イエスを産んだ聖母マリア…
あの配置の仕方、なんか気になるわよね。
気になるって?
「ヨナとイエス」が関連付けられてるように…
「大魚とマリア」も関連付けされてるんじゃない?
どういうことですか?
ヨナは大魚の腹の中に入り、そこから出て来たでしょ?
そしてイエスもマリアの腹の中に入り、そこから出て来た。
どちらも、隣に描かれたものに「飲み込まれてる」のよ…
確かに、そう言えますね…
ミケランジェロは、それを意識して「大魚とマリア」を「ヨナとイエス」の隣に配置した…
十分ありえます。
だけど、あのマリア、ちょっと若くない?
50歳くらいのはずなのに、どう見ても20代よ…
肉感的で、かなり色っぽい…
「母」というより「女」だわ。
聖母マリアじゃなくてマグダラのマリアってこと?
『ダ・ヴィンチ・コード』じゃないんだから!
この絵をミケランジェロが描いた時、問題視する人も多かったらしいよ…
当初は、人物が局部も隠さず全裸で描かれていたし…
イエスの隣のマリアも性的に描かれていて、「聖母マリア」なのか「イエスに愛されたマグダラのマリア」なのか判別できなかったから…
もしかしてミケランジェロは、どっちにも見えるようにしたとか?
レオナルド・ダ・ヴィンチをはじめ、多くの画家が『最後の晩餐』で女性的に描いた「イエスに最も愛された弟子」みたいに…
あり得るわよね…
天才アーティストは、作品に様々なメッセージを落とし込むから…
ポール・サイモンのように…
そしてポール・サイモンも…
ミケランジェロの『最後の審判』からインスピレーションを得て、この歌『Jonah』を書いている…
なぜなら『最後の審判』には…
とんでもない秘密が隠されているから…
とんでもない秘密? 何よそれ?
それはまた後で話そう。一旦この話は置いておく。
もったいぶるわね!
ポール・サイモンは、1番で「イエスとマグダラのマリア」を、そしてサビで「ヨナと大魚」について歌った…
ミケランジェロの『最後の審判』のように両者を関連付けて…
そこを覚えておいて欲しい。
それでは2番の歌詞を見てみようか…
こんなふうに始まるわね。
No one gives their dreams away too lightly
They hold them tightly
Warm against cold
えーと…
夢をあっさり手放す人などいない
人は夢をしっかりと抱き続ける
寒さから守り、温めるように
という感じでしょうか。
そしてこう続く。
One more year of traveling ‘round this circuit
Then you can work it into gold
だからもう1年この旅を続けよう
繰り返される長い旅を
いつか栄光に辿り着く日を夢見て
って感じ?
1年じゃ終わらないって自分でもわかってるのよね。
でもそれを認めると気が滅入るから、「あと1年」って自分に言い聞かせてる。
ポール・サイモンの夢とは?
誰かの言いなりにならず、自分の信じた音楽をやり続けるってことでしょ?
『ワン・トリック・ポニー』の主人公ジョナみたいに。
それは表向きの解釈だね…
この歌の歌詞には、すべて別の意味が隠されている。
あ、そうだったわね。じゃあ今度は何なの?
1番では「イエスの復活」が歌われた…
そしてサビでは「預言者ヨナの復活」が歌われた…
2番の歌詞には「warm against cold」という言葉が出てくるけど、これは上記の2つを差している…
イエスの「復活」は「寒い冬から暖かい春に移り変わった時期」だった…
そしてヨナの「復活」は、生贄として冷たい海に突き落とされたけど、大魚に飲み込まれ、温かい腹の中で命を取り止め、三日のちに地上へ吐き出された…
イエスは「ヨナの復活劇」と全く同じことが自分に起きると語った…
それが、ユダヤ人にとって最も聖なる日「ペサハ(Passover・過越し)」の前後に起こったわけだ…
何が言いたいわけ?
2番は、その「過越し」を歌っているんだよ。
は?
夢をあっさり手放す人などいない
人は夢をしっかりと抱き続ける
寒さから守り、温めるように
だからもう1年この旅を続けよう
繰り返される長い旅を
いつか栄光に辿り着く日を夢見て
まさに「過越し」のことに他ならないでしょ。
ローマ帝国との戦争でエルサレムを破壊され、故郷を失い、世界に散らばったユダヤ人は、その後二千年近く「旅」を続けている…
そんな彼らは、「過越し」の日に大きなテーブルをみんなで囲み、ヘブライ聖書を詠唱し、祈りを捧げ、さまざまな歌を歌い、「旅の苦難」を噛みしめながら食事をする…
そして最後に、こう言って乾杯するの…
Next year in Jerusalem!
来年こそはエルサレムで!
ホントだ…
そのまんまの歌詞じゃん。
ちなみに…
皆で囲み、祈りを捧げ、聖なる食事をするテーブルのことを「TISCH(ティッシュ)」と呼ぶ…
ティッシュ? なんで?
元々はドイツ語でテーブルを意味する「TISCH」から取られたもの。
それが東部ヨーロッパで暮らしていたユダヤ人の言語イディッシュ語にそのまま取り入れられたんだ。
この「TISCH」も、この歌に関係あるのですか?
その点についても、もう少し後で話す。
それよりも2番の最初のフレーズに秘められた「もう1つの意味」を指摘しておかなければならない…
2番の最初のフレーズ?
「No one gives their dreams away too lightly」のこと?
この中の「give away」が鍵だ…
「give away」には「手放す」以外に、もうひとつ意味がある…
何それ?
「秘密をバラす・暴露する」という意味よ…
は?
つまり…
「No one gives their dreams away too lightly」
という一文は…
「自分の夢や願いを軽率に暴露するものなどいない」
という意味にもなっている…
これって、もしや…
この歌の歌詞の中に、何か重要な秘密が隠されているってことじゃ…
ポール・サイモンの「挑戦状」ってこと?
「僕は巧みに隠したよ。はたして秘密のメッセージを読み取れるかな?」
って感じの…
た、たけしの挑戦状みたいに?
こっちでしょ…
つまりポール・サイモンは…
この歌の中で「ある人物」に向けてメッセージを送っているんだよ…
歌詞の中に巧みに隠して、他の人たちには気付かれないように…
ある人物? 誰のことなの?
あんた馬鹿なの!?
今までの流れからしたら、どう考えてもキャリー・フィッシャーでしょ!
だから「ヨナと大魚」なのよ!「Fisher」だから!
あっ、そっか…
そしてポール・サイモンは…
次のCメロで「ギリギリ」のヒントを出した…
元々Cメロというのは、こっそりヒントを出す場所、チラッと「タネあかし」をしてみせる場所でもあるからね…
Here’s to all the boys who came along
Carrying soft guitars in cardboard cases all night long
Carrying!
ギリギリとかチラリどころか、モロに「キャリー」と言ってるじゃないですか!
Carrie Fisher(1956-2016)
しかもポール・サイモンは、2番で歌われているのが「過越し」だということも、さりげなく仄めかしている…
出だしが「旅路を行き交う全ての男たちに乾杯!」だからね…
しかも「all night long(夜通し)」…
つまり「passover(過越し)」じゃん…
旅をしながら運んだ「cardboard cases」って何ですか?
厚手のボード紙(cardboard)で出来た、アコースティックギター用の、ごっついケースのことだよ。
表面は革や合成素材でコーティングされているけど、中身はボード紙で作られていることが多かった。
あっ、あれのことか…
昔ながらのストリートミュージシャンが、演奏する時に「投げ銭」用に置く、大きなケースのことですね…
そして…
「soft guitars in cardboard case」は、別の意味にもなっている…
長い旅路にある男たちが運んだもの…
わかるかしら?
別の意味? 男たちが運んだもの?
ヒントは「guitars」ですね…
1番の歌詞「Plays guitar」は…
「福音」つまり「神の言葉を述べる」という意味でした…
ああっ!わかりました!
「cardboard」とは、神から与えられた十戒が書かれた石板のことです!
じゃあ、その「ケース」は…
契約の箱「アーク」…
そういうこと。
そしてCメロは、こんなフレーズで締め括られる…
Do you wonder where those boys have gone?
あの旅人はどこに消えてしまったのかと思うでしょ?
(どこにも消えていない。ここにいるよ)
つまり…
自分は今も、大切なものを「carrying」してる…
「キャリー」への情熱を持ち続けている、ということ…
やられたわ…
またしてもポール・サイモンに…
ポール・サイモンって、ホントおもしろい…
こんなふうにして、愛する人に想いを伝えるなんてね…
しかも誰にも気付かれずに…
本当に鮮やかな手口です…
40年もの間、誰も見破れませんでしたから…
そういえば、ミケランジェロの『最後の審判』に隠された「とんでもない秘密」と、イディッシュ語の「TISCH」の話は?
あれはいつ話してくれるの?
今から話すよ。
もう全ての準備は整った。
なんだかドキドキするわね…
では始めよう…
つづく
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