深読み米津玄師_第1楽章_第5節A

米津K師殺人事件 第1楽章『アイネクライネ』第5節:アイネクライネという名に隠された秘密



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2019年4月某日
熱海 某ホテルにて



ガハハハハハ!

フーさん、ほんと元気よね。

東京駅を出発してから、ずっと飲みっぱなし。

ガハハハハハ!

カラオケ行くぞ!カラオケ!

村上幸子の『昭和金色夜叉』歌ってくれよな、深代ちゃん!

胸に~ひとり~の 魔女が~住み~♪


まだお昼過ぎじゃない。

カラオケは温泉と夕食の後でしょ。

あたし、深代ちゃんの胸の中の魔女が見たくて、もう我慢できないの!

もう!フーさんったら!

あたしの中には聖女しか住んでいませんから!

ああマリア様、昇天させて~

もうサイテー…

ガハハハハハ!

・・・・・

岡江クン、さっきからどうしたの?

気分でも悪い?

い、いや…

ちょっと…考えごとを…

相変わらず君って男は暗いね~

暗いね、暗いね、クライネ・デートリッヒ。

ガハハハハハ!

・・・・・

リアクションも薄いというか皆無ときた。

暗い男は女にモテないよ。

隣に座ってる美女も退屈そうじゃないか…

なあ?


みんな「ワハハハハハ!」


もっと言ってやってくださいよ、フーさん。

この人、ほんと、暗いんだから。

まったく何考えてるのかしら、いつも…

・・・・・

ダメだこりゃ。馬耳東風、暖簾に腕押しだな。

こんな箸にも棒にも掛からんような男のどこがいいんだ?

なんでそこまで気にかける?

たぶん…愛ね…

人類愛。

・・・・・

深代ちゃん。

こんな暗い男には見切りつけて、さっさと俺に乗り換えちまえ。

そろそろ女の幸せってもんを真剣に考えたほうがいい年頃だろ ( 笑 )

ガハハハハハ!

ブツブツブツブツ…

もう!何とか言ったらどうなの?

不甲斐無いったらありゃしない…

ブツブツブツブツ…

くらいね…

くらいんだ…

ブツブツブツブツ…

は?

そうか…

わかったぞ…

そういうことだったのか…

どしたの?

すみません皆さん。しばらく席を外します。

部屋に戻ろう、深代ママ。

え?ちょ、ちょっと…

そんなに強く引っ張らないで…

手が痛いってば…


(二人、退室)


やるじゃねえか、あいつも。

ガハハハハハ!



(二人の部屋にて)


・・・・・

ねえ、どうしたの?

突然部屋に戻ろうなんて言い出して…

したくなった…

へ?

急に…したくなったんだ…

岡江クン…ちょっと待って…

え…?なんで…?

そんな…いきなり…

あたしさ…まだ…

お風呂とかも…入ってないし…

お風呂?

なんで?

だってさ…ほら…


あれ?

「したい」って…何を…?

深読みするのに、お風呂入る必要ある?

あ…

深読み…

そうよね。もう、あたしってば!

あはははは ( 笑 )

深代ママ。

「おちつけ」


ハッ!

よかった…

持って来ておいて…

ふぅ…

もう大丈夫。落ち着いた。

でもほんと不思議よね、この掛け軸って…


そうそう!

ところでいったい何を深読みしたくなったの?

米津玄師の『アイネクライネ』に決まってるでしょ。


ああ…

さっきブツブツと「暗いね」とか「暗いんだ」を繰り返してたのは、そういうことだったのね…

駄洒落か。

違うよ。

ドイツ語の「Kleine(クライネ)」と「klein(クライン)」について考えていたんだ。

女性名詞「musik」にかかって女性形になった「小さな」という意味の形容詞「kleine(クライネ)」の元の形って「klein(クライン)」だから。

またややこしい話になりそうね…

よだれが出るほど大好物なんだけど ~♡ルンルン

落ち着いて。

はい。

いちおう聞いておくけどさ。

『アイネクライネ』って何か知ってる?

馬鹿にしないでちょうだい。それくらい知ってるわよ。

モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』の略でしょ?

「アイネ」が「ある」で…

「クライネ」が「小さな」で…

「ナハト」が「夜」で…

「ムジーク」が「曲」…

つまり「ある小さな夜の曲」だ。

英語で言うと「a little night music」かな。

でもさ…

なんで米津玄師は「ナハトムジーク」を省略したんだろ?

いいところに目をつけたね。

深代ママなら、どう読む?

うーん…

わかった!

少女「あたし」が主人公の歌だからだ!

本当は『アイネ・クライネ・アタシ』で「ある・ちっぽけな・あたし」なの!

なんだかミーちゃんの喋り方みたいだな、それだと…

『なぜ五円玉だけ漢数字で五円表記なの?』より

でも、いい線いってるんじゃない?

はっきり言わせてもらうけど…

それは「ノン」だ。

え?

普通すぎるというか、何のヒネリもない。

誰でも思いつくことだ。

全然「深読み」になってない…


自分が「スナックふかよみ」のママだってこと忘れてないか?


あ…!

ごめん…岡江クン…

あたし…

まだ浮かれ気分が抜け切れてなかった…

心のどこかで恋する乙女ちっくな自分に酔ってたんだ…

ごめんね…

わかってくれたら、それでいいんだ。

ありきたりのことを言う深代ママなんて深代ママじゃないからね。

反省しまーす。

ところでさ…

さっきの「おちつけ」掛け軸、あそこの床の間に飾っておこうよ。

自分を見失いそうになった時、すぐ目に入ってくるようにさ…

「おちつけ、あたしの中のもうひとりの自分!」って言い聞かせるために(笑)

その言葉を待っていた。

え?

『アイネクライネ』という歌のテーマは、まさにそれなんだ。

ちょっと自己分裂がかった「独り言」が?

なんか痛い女の歌みたいじゃん…

なせ「女」と決めつける?

どうして?

え?

だって…

「あたし」だし…

じゃあさ…

地方出身なのに自分のこと無理して東京弁で「あたし」って呼んでる落語家は、みんな「女」なの?

それは…違うけどさ…

今は『アイネクライネ』の話でしょ?

東京弁とか関係ないじゃん。

なぜ「関係ない」って決めつける?

どうして?

もう、やめてよ…

親は "修羅の国" 福岡出身なのに、自分のことを東京弁で「あたし」って呼んでる "にわか東京人" のあたしをからかってるんでしょ。

そんなことないよ。

よく考えてみて。

「アイネクライネ」は「ある小さな」という意味だった。

だから?

だけど歌詞にはなかなか「小さな」という言葉が出て来ない。


そういえば、そうね…

てか、出て来たっけ?

じらして、じらして、2番のBメロでようやく登場するんだ。

まさに満を持してね。

それが「小さな歪(ひず)み」という言葉だった。

これが『アイネクライネ』の歌詞に出て来る、最初で最後の「小さな」という言葉…

そんなところ意識してなかったな…

曲のタイトルが「ある小さな」だから、「小さな」という言葉の使いどころはとても重要になる。

歌詞を作る立場になって考えてみれば、よくわかるはずだ。

確かに、むやみやたらには使えないわよね…

ここぞってとこ以外は…

あえて歌詞の中では「小さな」を使わずに「様々な小さなもの」をイメージさせるというやり方もあったはずだ。

そういう手法で作られた歌はたくさんある。

でも米津玄師は「小さな」を使った。

たった一度だけ。

ゴクリ…

おそらく米津玄師は…

タイトルで提示した「小さな」を使って「ある言葉」をピンポイントでフォーカスさせたかったんだと思う…


「思い出」でも「お別れ」でもなく…

「石ころ」でも「勘違い」でも「戸惑い」でもなく…

「秘密」でも「悲しみ」でも「綻び」でもなく…

「夢」でも「奇跡」でもない…


「歪み」という言葉を…


ひずみ…を?

つまり…

その「小さな歪み」が「いつかあなたを吞んでなくしてしまいそう」ってことを…

米津玄師はこの歌で言いたかった…

そういうこと?

これが『アイネクライネ』という歌を読み解く「鍵」だ。

「歪み」が「鍵」?

ぜんぜん意味わかんない。

ここで、ドイツ語の「kleine(クライネ)」という言葉が、大きな意味をもってくるんだよ…


つづく




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