序章:前門の虎 『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
ふぅ…
歌ったら少しスッキリしたかも…
やっぱりいいわね、歌って…
海で遭難して死んだと決めつけてる部分など若干気になるところもありましたが、全体的に見て深代ママの想いがよく伝わる歌だったと思います…
岡江君にも聴かせてあげたかった…
ありがとう、ヒロノブさん…
これで現実が変わってくれたらいいんだけど…
変わりますとも…
必ず…
本当にそう思う?
はい。実際に…
カランカラン♫
(ドアが開く音)
え!?
岡江クン?
は?
なんだ。ヒロノブさんか…
ビックリさせないでよ…
ホントに現実が変わって岡江クンが入ってきたかと思ったじゃないの…
ヒロノブさんもビックリしたでしょ?
自分がそう言った矢先だったから…
・・・・・
ん?
こっちにいるのは… ヒロノブさん…
・・・・・
そして、今入って来たのも…
ヒロノブさん…
・・・・・
え?
ヒロノブさんが…
二人いる!?
・・・・・
ど、ど、どうなってるの…
あたし… 幻覚でも見てるのかしら…
・・・・・
どっちかがヒロノブさんだとしたら…
もうひとりは誰なの?
・・・・・
あ…
どうかしましたか?
今来たヒロノブさん…
ファスナーが…
開いてる…
おや。これは気がつかなかった…
いつも以上に電車の中で女性の視線が私に向けられていたのは、これが原因だったのですね…
てっきりみんな私のことを菅田将暉だと勘違いして見つめていたのかと…
動じるどころか、自分をオイシイと思ってるわ…
なんか本物っぽい…
ふん。ファスナーくらいで。
私の靴を御覧なさい。
ここに来る前に道端で犬のうんこ踏んだんですよ。
ほら。
ええ!?
なんか今夜は店の中が臭うと思ったら、ヒロノブさんだったの!?
下水の逆流のせいじゃなかったんだ!
ふふふ…
笑ってないで今すぐトイレで洗って来てよ!
関西人はウンコ踏んだ奴がチャンピオンなんです。
洗い落とすなんて勿体ない。
なんだかもう…
こっちも本物っぽい…
わかるでしょう?私が本物のヒロノブです。
二人でハモらないでよ…
気持ち悪いから…
私のせいではありません。あっちが勝手に合わせてるんです。
わ、わかった!
あとから来たほうがヤスノブさんでしょ!?
まことしやかに噂されてた双子の兄弟ヤスノブさんよね!?
そんな人はいない。
あれは冗談です。
え?そうだったの?
『カズ&ヤス』みたいにレジェンド兄弟なのかと思ってた…
他愛もない嘘なんです。JORDANですよ。
あまりにも私の名前を間違って読む人がいるので、都市伝説風に仕立て上げたんです。
ヒロノブである私が言うのだから間違いない。
ちょっとあなた…
気安く自分をヒロノブと呼ばないでいただきたい。
仕方ないでしょう。私の名前はヒロノブなんですから。
あなたこそ気安く自分をヒロノブなんて呼ばないでください。
私こそがヒロノブです。
私以外は私じゃないの。当たり前だけどね。
もう、ちょっと待ってよ…
どっちがどっちかわからなくなっちゃうじゃない…
食べかけの冷奴があるほうが元祖ヒロノブです。
おや、美味しそうですね…
小腹が空いたのでヒロノブである私にも頂けませんか?
ダメよ。二人で冷奴を食べてたら今度こそ区別がつかなくなっちゃうじゃない。
こっちのヒロノブさんは、これ食べてて…
ほう。肉じゃがですか… 私の大好物です…
それでは、いただきま…
むむぅ!?
どうしたの?
な、なんですか、このパサパサの肉じゃがは…
あ、いけない… 忘れてた…
煮詰めすぎたんだった…
肉じゃがは…
肉じゃがは…
肉の旨味がしみ込んだ汁が命なのです!
ホントごめんなさい…
ちょっといろいろ事情があって…
事情?何でしょうか?
実はね…
5分後
ふうむ、なるほど…
岡江君が誕生日のお祝いをドタキャンして突然旅にですか…
しかも船で…
南の方で超大型台風が発生したでしょ?
岡江クンの船が嵐に巻き込まれて沈没するんじゃないかって心配なのよ…
しかしなぜ行き先を「南」と決めつけるのでしょう。
え?
もしかしたら「北」へと向かったかもしれないじゃないですか。
北海道とか…
あるいは佐渡とか…
誰が佐渡やねん。
あなたのことじゃありませんよ。私は佐渡の話をしているのです。
だから私は佐渡ではなくてヒロノブです。
いい加減なこと言わないでください。訴えますよ。
いい加減はあなたでしょう。
なぜこっちに近付いて来るんですか?あっち行ってください。
あなたこそ私の視界に入って来ないでください。
いったい何なんですか、あなたは?
もう、やめてよ二人とも。
わけわかんない。
ええい!ぺっぺっぺ!
ちょっと…
何してるの?
いま唾を吐いたところから私ヒロノブのエリアです。
ここから先に入って来たら、いくら私そっくりのヒロノブでも容赦はしません。
なんだと!?それならこっちもこうだ!
ぺっぺっぺ!
もう!マーキングじゃないんだから!
大のオトナが何やってるのよ…
・・・・・
はぁ…
何なのよ、これ…
いったいどうすればいいの?
とりあえず…
歌いますか?
そうね…
歌うことで現実が変わるんだもんね…
というか、変わって欲しい…
歌はやっぱり…
アレですよね。
そう。どう考えてもアレでしょ…
つづく
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