「サウンド・オブ・サイレンス 後篇」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
サウンド・オブ・サイエンスか…
なるほど。確かに深いダジャレだわ。
だからパイ父は「サイエンス」を力説してたのね…
そして『サウンド・オブ・サイレンス』の2番…
ここからトンデモナイ展開を見せてゆく…
その前に、もう一度、歌を聴いておいたほうがいいんじゃない?
そうね。じゃあアタシがまた…
ええ!?ちょっと勘弁してください!
良介山ママの『サウンド・オブ・サイレンス』は怖すぎます…
夢に出て来て、うなされそう…
失礼ねアンタ。
では、我々が歌いましょうか?
悪いわね。お願いします。
お安い御用ですよ…
2番はこんな歌詞だね。
In restless dreams I walked alone
Narrow streets of cobblestone
'Neath the halo of a street lamp
I turned my collar to the cold and damp
When my eyes were stabbed
by the flash of a neon light that split the night
And touched the sound of silence
やっぱり「歌詞が完璧に再現されている」は言い過ぎだったんじゃない?
パイの散歩は「alone」じゃなかったわ。作家と一緒。
それに散歩していた道は「narrow, cold, damp」ではありません。
狭くて寒くてジメジメした道ではなく、そもそも昼間でしたから、もちろん街灯も点いていませんでした。
二人は、明るい日差しが降り注ぐポカポカ陽気の中、広々とした道を歩いていたんです。
どうして歌詞の中の「I(わたし)」をパイだと決めつけるのかしら?
え?
2番の主人公は「パイ」ではないんだよ。
虎の「リチャード・パーカー」なんだ。
リチャード・パーカー?
In restless dreams I walked alone
Narrow streets of cobblestone
「落ち着かない非現実的な環境の中、狭い石の道をひとり歩いた」って…
まさか、これのこと?
その通り。
2番の歌詞は「虎のリチャード・パーカーからの視点」で再現されているんだ。
ああっ!ホントだ!
'Neath the halo of a street lamp
くっきりとした街灯の光に照らされ
すごい…
だけど、これは?
I turned my collar to the cold and damp
冷たくてジメジメしていたせいで襟を立てた
虎は服を着ていないから「collar(襟)」なんて無いわ。
そんなことはない。
トラには「collar」がついている。
は? あの首筋の模様のこと?
まるで「襟」みたいに見えるから、英語では虎の首筋模様を「collar」と呼ぶんだよ。
マジで?
リチャード・パーカーは、通路の横から差し込む光の方向に首を曲げ、それからまた、冷たくてジメジメした道の正面方向に首を戻した。
だから歌詞は完璧に再現されている。
I turned my collar to the cold and damp
確かに…
正面に向き直ったリチャード・パーカーは、突き刺さるような視線で「あるモノ」を見つめる。
これで次の歌詞も再現された…
When my eyes were stabbed
その時わたしの視線は釘付けにされた
アン・リーだけにキャッツ・アイ。
うまいわね。
だけど釘付けになる対象が違います。
by the flash of a neon light that split the night
夜を切り裂くネオンライトの眩い光に
通路をゆっくりと歩いてきたリチャード・パーカーは、警戒しながら「パイの目」をジッと見つめていました。
そして、パイの目の中に攻撃の意思がないことがわかって初めて、パイが差し出す「山羊の生肉」に視線を移すんです…
これはリチャード・パーカーの視点から見ないとわからない。
歌詞の中で視線が釘付けになった対象は「the flash of a neon light(ネオンライトの眩い光)」だった。
そしてその「flash」は「that split the night(夜を切り裂く」ものだという…
どう?わかったかな?
虎の視点で考えても、やっぱりわからないわ。
ここでは「flash(フラッシュ)」が「flesh(生肉)」のダジャレに変わっているんだよ。
「the flesh of a neon light(ネオンライトの生肉)」として再現されているんだ。
ネオンライトの生肉!?
後の歌詞で明らかにされるんだけど、この「neon light」とは「neon God」を意味している。
これは「neo God」のダジャレにもなっていて「光輝く新しい神」という意味なんだ。
つまり「新約の神イエス・キリスト」のことだね。
そしてパイが手に持つ山羊の生肉は、黒い鉄格子の間から突き出され、日差しに照らされ艶めかしく光っていた。
だから…
the flesh of a neon light that split the night
夜を切り裂くように光に照らされた神の子羊の肉
というわけ。
やられた!
ちなみに「flash」と「flesh」のダジャレといえば…
「フラッシュ・ゴードン」と…
フレッシュ・ゴードン(笑)
そしてリチャード・パーカーの鼻先が生肉に触れる。
肉片は鳴き声を上げないし、パイもずっと沈黙していたから、リチャード・パーカーの耳には何も音が聞こえない。
これで最後のフレーズも、ばっちり再現された。
And touched the sound of silence
なんてこった…
お次は3番。
あたし、ここ、すっごく好き。
誰の視点かわかるかしら?
And in the naked light I saw
Ten thousand people maybe more
People talking without speaking
People hearing without listening
People writing songs but voices never shared
And no one dare
Disturb the sound of silence
もうわかった!パイよ!
パイはリチャード・パーカーの瞳の輝きの中に「人の魂」を見た。
だけどそれは反射したパイ自身の姿だったから、話をしたり音を聴くことはない。
そしてパイの行為は「父によって生贄にされる息子イエス」という、福音書の実証実験だった。
だけどそれは直接的には言及されていない。
つまり…
writing songs but voices never shared and no one dare
福音書を再現する。だけど決して大っぴらにはされない。敢えてしなかった。
ナイス深読み。
ちなみに「the naked light」は「裸にされた神」という意味でもある。
つまり十字架に掛けられたイエス・キリストのことだね。
この『ライフ・オブ・パイ』という物語は、人々が「イエス」という名前を出さずにイエスのことを語り、「イエス」という名前を発さずにイエスの声を聞かせ、「イエス」の言動を直接的には描かずに福音書のストーリーを完成させるように出来ているんだ。
3番は制作陣の視点でもあるのよね。
「この映画は、こんなふうに作られています」というメッセージ(笑)
なるほど。
そして最後に、それまでの沈黙が、一気に掻き乱される。
Disturb the sound of silence
パイ父の登場ね!
そしてそのまま4番の歌詞へと続く。
”Fools" said I, "You do not know
Silence like a cancer grows
Hear my words that I might teach you
Take my arms that I might reach you"
But my words like silent raindrops fell
And echoed the wells of silence
普通に訳すと、こんな歌詞だね。
「愚か者が!」私は言った。「沈黙はお前を蝕む癌細胞であることがわかっていないようだ。人が教えたことは、ちゃんと聞け。人の親切心は無駄にするな。」しかし私の言葉は、ざるの中の水のように音もなくこぼれ落ち、沈黙の井戸の中で虚しく響く…
まるっきりパイ父の説教ね。第一声はまさに”Fools"だったわ。
What are you thinking? Are you out of your mind?
「何をしてる?気でも触れたか?」
そしてパイの頭を”ざる”のように言った。
You have just ignored everything I've ever taught you
「これまで私が教えてきたことを、お前はキレイさっぱり捨ててしまったようだな」
あの時のパイ父の説教をダイジェストにすると、4番の歌詞になるのよね。
超ウケる(笑)
そして5番。『サウンド・オブ・サイレンス』最後の歌詞だ。
And the people bowed and prayed
To the neon god they made
And the sign flashed out its warning
In the words that it was forming
And the signs said
"The words of the prophets are written on the subway walls
And tenement halls
And whisper'd in the sounds of silence
この「the people」は「生贄の山羊を見つめるパイ一家」ですね。
そして祈りを捧げる対象「the neon God they made」は「彼らが作り出した新しい神」だから…
「贖罪の子羊」ことイエス・キリスト。
だけど、その後に「the sign flashed out its warning(警告する物々しいサイン)」が出たりはしませんでした…
しかもそれは「in the words that it was forming(形づけられた文字)」でなければなりません…
それにここは「地下」ではない…
動物園はポンディシェリ市から借りてる土地だから「借家の部屋」は合ってるけど。
5番の歌詞は、「パイのトライアル」に続く「次の回想シーン」で再現されてるのよ。
次の回想シーン?
「パイのトライアル」は、母の胸に顔をうずめるパイの姿で終わった。
聖母マリアに抱かれる幼子イエスですね。
『聖母に抱かれる幼子』ラファエロ
そして、突然画面は暗転する。
「非常事態宣言」の発動を告げる、物々しいラジオ音声と共に…
the sign flashed out its warning(警告の物々しい信号)だ!
そしてラジオが映し出される。
この国家非常事態宣言によって、パイの故郷ポンディシェリ連邦直轄地を取り囲む巨大な自治体タミル・ナードゥ州が、インド中央政府の指令下に入ることになった。
だけど次がイマイチわからない。
(warning)in the words that it was forming
フォームされていた言葉の中の警告?
これは「words(言葉)」と「wards(行政区)」のダジャレ。
warning in the wards that it was forming
連邦政府直轄となる行政区域への警告
まっ!
そして『サウンド・オブ・サイレンス』のクライマックス。
「警告」が書かれていた場所が歌われる。
And the signs said
"The words of the prophets are written
on the subway walls and tenement halls
And whispered in the sounds of silence"
そのサインは告げる
「預言者の言葉は、地下の壁や
仮住まいの広間に書かれている
それは沈黙をもって囁かれる言葉」
何度も言うけど、ポンディシェリに住んでいた時のパイの部屋は「借家の部屋」だったけど「地下」じゃないわ。
「地下の壁に書かれる預言者の言葉」も、ちゃんと再現されているよ。
その時パイが読んでいたドストエフスキーの本によって…
ドストエフスキーの本?
表紙には『Notes from Underground』と書かれている。
邦題は『地下室の手記』だ。
ち、地下室の手記?
文豪ドストエフスキーが「地下室」に籠って書いた、手記風の短編小説。
アン・リー監督は、このタイトルを使って『サウンド・オブ・サイレンス』の最後の歌詞を再現したんだ。
まさに「whispered in the sounds of silence」…
「沈黙の中で密かにささやかれた言葉」だよね。
なんてこと…
おそるべし、アン・リー…
確かに『サウンド・オブ・サイレンス』が完璧に再現されていました…
おもしろかったでしょ?
じゃあ最後に、もう一度『サウンド・オブ・サイレンス』を聴いて、先に進みましょうか。
もう一度?
あの動画のことですね。
うふふ。さすがよく御存じで(笑)
「あの動画」って何のこと?
映画『ライフ・オブ・パイ』の撮影中に…
青年パイ役のスラージ・シャルマと、パイ父役のアディル・フセインによって演奏された…
「父と子」による『サウンド・オブ・サイレンス』の歌動画…
ええっ!?
そ、そんなものが存在するのですか?
そんな証拠があるなら、なぜ早く言ってくれなかったんです!
深読みする楽しみが無くなっちゃうからね。
さあ、「父と子」による『サウンド・オブ・サイレンス』を聴きましょ。
すっごく、うまいんだから(笑)
ホントに上手… きれいにハモってるわ…
長い撮影期間の間に、本当の親子みたいに息もピッタリになったのね…
ふ、深代ママさん…
違います…
これ… 本当の親子ですよ…
は?
パイ親子によく似てますが、別人です…
「演奏:ジャイワン&ジョニー・ナナ親子」って書いてあります…
ええーーーー!?
こいつは一杯食わされましたな。
岡江クン!文代さん!ひどいじゃない!
あたしたちを騙したのね!
ごめん…
うふふ。
ちょっとドストエフスキーの真似をしてみただけ。
『地下室の手記』のね…
え?
つづく
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