見出し画像

深読み 米津玄師の『さよーならまたいつか!(『虎に翼』主題歌)』第16話


前回はこちら



2024年3月中旬
東京都渋谷区神南
NHK放送センター



NHK総合リスク管理室
情報解析センター




田木君。何か騒がしいようだが、どうかしたのかね?


じ、実は…

米津玄師が打ち合わせ室を抜け出し、局内を移動しているとのことで…


人間、生きていればメシも食うしクソもするし散歩もする。

いちいち騒ぐようなことではない。


し、しかし…


我々の役割は朝の連続テレビ小説『虎に翼』の主題歌を解析すること。

米津玄師の心配をするのではなく、『さよーならまたいつか!』の歌詞と映像を丸裸にすることだ。


お言葉通りで…


「お言葉通り」はヘブライ語で「AMEN」。


はい?


「お言葉通り」はヘブライ語で「AMEN」と言う。

知らんのかね?


いえ、それくらいは知っています…

これでも一応クリスチャンなので…


君の場合、クリはクリでも、違うクリなのでは?



は?


いや、クリスはクリスでも、違うクリスか…



何のことを言ってるのですか?

私は品行方正なクリスチャン。洗礼名はピエールです。


ピエール? 君は石なのか?

だから君の「頭」は「カチンコチン」なのだな。


まあ確かにピエールはペトロのフランス語形…

その意味は「石」ですが…


教官も田木さんも、さっきから何の話をしてるんですか?


何の話って「AMEN」の話だよ、呉羽くん。

「あゝ奥飛騨に雨が降る」の「雨」の話。


「あゝ奥飛騨に雨が降る」の「雨」はアーメン?


知らなかったのか?


はい… 初耳です…


やれやれ。言語解析班で最もクレバーな君がそれでは困るな。

「谷間の白百合」の前に『奥飛騨慕情』そのものを解説しなければならないようだ。



この歌がアーメンの歌?

ただのエロい演歌にしか聞こえませんが…


「エロイ」はヘブライ語で「わが神」という意味。

縮めて「エリ」とも言う。

TBSの金曜ドラマ『ふぞろいの林檎たち』の主題歌の「エリ」だな。



え?


ちなみに聞くが、『いとしのエリー』はなぜ「エリー」なのか知っているかな?


確か、サザンオールスターズの桑田佳祐の姉「えり子」に捧げた曲だと聞いたことが…

幼い佳祐少年にビートルズなど英語の歌をたくさん教えてくれた最愛の姉…

妻子あるジョン・レノンを略奪したオノ・ヨーコに抗議するため、ヨーコの実家へ行って石を投げようとしたほど情熱的だったとか…



どうしてそういう偽情報を真に受ける?

桑田佳祐が言う「売女に石を投げようとした」は有名な「別の話」のことを言っているというのに。


「罪を犯したことの無い者だけが石を投げなさい」


何ですか、この絵は?

別れ話に泣き崩れる女に対して、砂に「さよなら」とでも書いているのですか?


そもそも『いとしのエリー』は恋愛関係にある男女の歌だぞ?

桑田佳祐と姉えり子に肉体関係があるわけないだろう?


そうですけど… ファンの間ではそう言われています…

出だしの「泣かしたこともある」は、喧嘩して泣かしてしまったことを思い出しているんだと…


そうではない。

『いとしのエリー』が「エリー」である理由は、この歌が元々は「エロイ」歌だったからだ。


エロイ歌?


桑田佳祐が作詞した『いとしのエリー』の元ネタは、Marlena Shaw(マリーナ・ショウ)の『You taught me how to speak in love』…

名盤『Who is this bitch, anyway?』に収録された、彼女の代表作だ。



エロイ… かなりエロイ歌ですね…

アレが終わった後にベッドで抱き合いながらウトウトしていたら、男に「もう一度キミが欲しい(またヤりたくなった)」と言われたり…

しかもアルバム名は訳すと『このアバズレは誰なの?』…

つまりこのアルバムの歌はすべて「ふしだらな女」を歌ったもの?


若き日の桑田佳祐はこの歌が大好きだったので、この歌を元ネタにした歌を作ろうと考えた…

しかし歌詞の内容をそのまま日本語にするのは芸がない…

そこで目をつけたのが冒頭フレーズだ…


冒頭フレーズ?


マリーナ・ショウの『You taught me how to speak in love』の冒頭は、『いとしのエリー』クリソツなイントロとメロディでこう歌われる。


I know how to say 'Te amo'
I know how to say 'Je t'aime'
I've used a thousand phrases
Without any love in them


私はスペイン語で「愛している」をどう言うのか知っている…
私はフランス語で「愛している」をどう言うのか知っている…
これまで私はこのフレーズをさんざん口にしてきたけど、そこに愛は無かった…


愛してないのに愛してるとさんざん言ってきた…

しかも色んな言語で…

この「ふしだらな女」はビッチ呼ばわりされてるだけに、本当に娼婦なのかな…

外国人を相手に体を売っていた『カスバの女』のように…



論点はそこではない。

桑田佳祐が着目したのは「異なる言語」だ。


異なる言語?


桑田佳祐はマリーナ・ショウの「エロイ」歌を元ネタにして歌を作ろうと考えた。

そして冒頭のフレーズ「異なる言語で言う」に着目し、「エロイ」歌を「エリー」の歌にすることにした。

そもそも「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」と「エロイ・エロイ・レマ・サバクタニ」の二種類の表記があるのは、このフレーズが似ている二種類の言語「ヘブライ語」と「アラム語」のちゃんぽんだからだ。

聖書の時代、ユダヤ人の会話は、ヘブライ語とアラム語が混ざっていた。

日本の多くの人が、その地域の言葉「方言」と日本全土で通じる「標準語」を混ぜて使っているように。

だから聖書では突然ヘブライ語が出て来たりアラム語が出て来たりする。

スペイン語とフランス語もルーツは俗ラテン語(ロマンス語)で、ヘブライ語とアラム語のように共通点が多い。


つまり『いとしのエリー』は『いとしのエロイ』ということ?


そう。桑田佳祐はエロイ歌が大好き。

そして竜鉄也もエロイ歌が大好き。

だから「あゝ奥飛騨に雨が降る」と歌った。


「ああ、ヒダの奥がまるで雨でも降ったように濡れているよ」という意味じゃないんですか?


そんな卑猥な歌をNHKが紅白歌合戦で歌わせると思うか?

山口百恵の「緑の中を走り抜けてく真っ赤なマルシェ」ですら歌詞を変えさせたNHKだぞ。


教官… それを言うなら「マルシェ」ではなく「ポルシェ」です…


おっと。これは失敬失敬。

紅白歌合戦と「マルシェ」といえば、こっちだった。



そういえばこの歌…

なぜタイトルが「マルシェ」なんだろう?


Marché(マルシェ)はフランス語で「マーケット」つまり「市場」という意味だな。


それくらい知ってますよ…

だけど歌詞の内容は全然「マーケット・市場」と関係ないのに…


ちなみに『マルシェ』の歌詞が「マーケット・市場」と何も関係がない件について、歌詞を書いた KICK THE CAN CREW(キック・ザ・カン・クルー)の三人 LITTEL、KREVA、MCU は「曲の雰囲気がハウス食品のカレーマルシェみたいだから」と説明している。



曲の雰囲気がカレーマルシェみたい?

マジわけわかめ…

何言ってんだお前ら?って感じですね…



この分野は田木君が詳しいだろう。

なぜ KICK THE CAN CREW の『マルシェ』はタイトルが「マルシェ」なのか呉羽君に説明してあげてほしい。


ここで私にフリますか…


君は呉羽君の大先輩。

可愛い後輩のために汚れ役を引き受けるのも先輩の役割じゃないのかね?


わかりました、神南恭一郎…


では、よろしく頼む。


この『マルシェ』という歌を読み解くヒントは、歌詞の随所に散りばめられています…

しかし最も重要なものは、何度も繰り返されるこのフレーズ…

「上がってんの?下がってんの?皆はっきり言っとけ(上がってる!)」

これこそが、この歌の神髄、核心部分と言えるでしょう…


その通り。続けて。


「マルシェ」には大きく分けて「上がる系」と「下がる系」があります…

多くは「食べると笑いたくなる」や「食べると踊りたくなる」という「上がる系」ですが、中には「食べると何もやりたくなくなる」という「下がる系」もある…

みんなで盛り上がりたいパーティーには「下がる系」は不向きなので「上がる系」が推奨されるわけです…


その通り。かのマッキーも言っていた。

テンション上げたい時に「チョコはダメ」と…



今度は槇原敬之?

いったい何の話をしているんですか?


「カレーマルシェみたいな雰囲気の曲」というのは「カレーマルシェのCMの少女みたいな曲」ということ…

あの少女は、山盛りになった「あるもの」を前にして、大興奮していただろう?



あれは、きのこの山… マッシュルーム…


その通りだ呉羽君…

カレーマルシェのキャッチコピーは「ビーフとマッシュルーム」…

つまり KICK THE CAN CREW の歌う「マルシェ」とは「マッシュルーム」のことに他ならない…


ど、どういうことですか?


この歌が作られたのは2001年の夏から冬にかけて…

その当時、世間で大きな話題になっていたことがある…

覚えているかな?


2001年の夏から冬にかけて?

宮崎駿のジブリ映画『千と千尋の神隠し』っすか?

いや、アメリカ同時多発テロかな?


そのどちらも大きな話題になっていたが、それではない…

「マッシュルーム」だ…


マッシュルームが大きな話題に?

あの頃、きのこブームなんてあったかな?


うむ… あまり良くない意味でのブームだったがな…


良くないブーム? どういうことっすか?


2001年の4月に、某若手人気俳優の伊藤英明が「マッシュルーム騒動」を起こした…

当時、渋谷や六本木のクラブで遊ぶ若者の間で流行していたマジックマッシュルームを過剰に摂取してしまい、テンションが上がり過ぎて止められなくなり、病院に救急搬送されたのだ…



そういえば… そんな出来事ありましたね…


それ以降、テンションが高過ぎる人は「マッシュルーム食ったんじゃね?」とからかわれるようになった…

おそらく KICK THE CAN CREW のメンバーは、クラブやスタジオで誰かからそういう風に言われたことがあったのだろう…

その時「ビーフとマッシュルーム」というキャッチコピーを思い出し「ああ食ったよ。カレーマルシェを」と答え、それが相手の大爆笑を誘った…

そのやりとりがきっかけとなって、テンションアゲアゲの名曲『マルシェ』が生み出されたと考えられる…


そんなバカな…


信じられないのも無理はない。

しかし曲の冒頭で「この飛び飛びの 語尾と語尾を つなぐ喜び」と歌われることからも、この説の信憑性は裏付けられるだろう。


飛び飛びの語尾と語尾をつなぐ喜び?


『マルシェ』のシングル盤のジャケットのことだよ。


は?


よく見てごらん…

「マルシェ」の語尾が「シュ」になっているだろう?



確かに「シェ」ではなく「シュ」と書いてある…

なんだこれは?


初歩的な暗号、アナグラムだな。

だからグループ名も正式なアルファベット表記ではなく片仮名で書かれている。

「マルシュ キック ザ・カンクルー」の中には、アナグラムで「マッシュルーム」が隠されているのだよ…


本当ですか?

えーと…

マ… ッ… シュ… ルー…

あれ?


どうした?


最後の「ム」が無いんすけど…

まさかこの曲が主題歌に使われた映画『無問題2』の「無」じゃないですよね?



あの『無問題2』は後から貼られたシール。

KICK THE CAN CREW の面々は関与していない。

しかも「無問題」は「モーマンタイ」と読むから「ム」ではない…



じゃあ、やっぱり「マッシュルーム」のアナグラムは嘘じゃないですか…

あやうく田木さんの話を信じるところだった…


だから「飛び飛びの 語尾と語尾を つなぐ喜び」だと言っただろう。


はい?


「キック ザ・カンクルー」の語尾「ルー」の「ル」と「-」をよく見ると、両者はつながっている…

「ル」の右側「レ」と「ー」で「ム」になっているのだな…



げえっ!


まさか情報解析センターで最もクレバーな君が「マッシュルーム」のトリックを全く知らなかったとはな…

そもそも『マルシェ』が収録されたアルバムの名前は『VITALIZER』…

その意味は「元気や活力を与えるもの」だ…



そういうことだったのか…

だから『マルシェ』で売れた KICK THE CAN CREW に同業の K DUB SHINE(Kダブシャイン)は批判的だったんだな…

こんなヤバい歌を公共の電波に乗せ、あろうことか紅白でも歌ったから、業界の先輩としてディスった…


そういうこと…

あれは決して「ひがみ・ねたみ」ではなく「注意・警告」みたいなもの…

日本のヒップホップやラップ、テクノなどクラブ音楽業界は「清く・正しく・美しく」を大切にしている…

音楽・芸能界は昔からそっち系の不祥事が絶えなかったし、クラブ音楽の本場アメリカやヨーロッパでは隠すどころか歌の中でモロに歌われている…

日本でクラブ音楽がそういう目で見られないようにするために、重鎮であるKダブシャインは汚れ役を自ら買って出てディスったのだ…


だから、あの二人のバトルは「ビーフ問題」と呼ばれていた…

「ビーフとマッシュルーム」の「ビーフ」のことだったのか…



いろいろわかって目からウロコのようだな、呉羽君。


はい… 何だか、さっきまでとは世界が違って見えます…

まるで生まれ変わったかのよう…

目の前に広がっている世界が、今はまったく別の世界のように見える…


それでは今から君をポールと呼ぼうか。

ピエールと違ってポールはフランス語でも英語と同じポールなのでつまらんが(笑)


Conversion of Paul(パウロの回心)


ポールか…

そもそも「Paul」ってどういう意味でしたっけ?


ポールは「小さい」。


ポールは小さい?

俺、結構デカいんですよね…

こう見えて178あるんすけど身長…


チン長?


身長です。人の話は慎重に聞いてください。


おっと。これは一本取られたな。


神南恭一郎…

そろそろ「谷間の白百合」と『奥飛騨慕情』の話を…


そうだった。

どうも今日はいつも以上に余談に花が咲く。

これではいつになっても米津玄師の『さよーならまたいつか!』に辿り着けんな。


米津玄師が逃走している間に急ぎましょう。

奥飛騨慕情の件、手短にお願いします…



つづく





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?