我々はどこから来たのか?我々は何者か?我々はどこへ行くのか?《深読み 千と千尋の神隠し&タイタニック》追記①
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2019年12月XX日
途方もない考えに取り憑かれた男の夢の中
第一階層『千と千尋の神隠し』
国道21号の分かれ道
そして少年は大人になり、エリザベス(リジー)の父となった…
しかしエリザベスは三十後半になっても良縁がなく、そのままいけばジャックの血が途絶えてしまう…
ジャック・ドーソンという人間がこの世に存在したことを証明する唯一の記録(レコード)DNAが途絶えてしまうのだ…
だからローズは名乗り出て、これまで誰にも言わずに隠してきた過去を明らかにした…
ジャックとの約束「生き延びて子供を産み、子供の成長を見届け、老婆になるまで長生きし、最後は暖かいベッドで死ぬこと」を成就させるため、あの絵のモデルだと名乗り出てタイタニック探査船に乗り込み、かつて船上でロマンスを育んだ自分とジャックのように、孫娘エリザベスとトレジャーハンターの間に愛が芽生えるよう行動した…
これが映画『タイタニック』に隠された真の物語だ…
トレジャーハンターの右腕ボーディーンが「ジャック・ドーソンという男が存在した証拠はどこにも見つからない」と言った時、ローズはこう答えて孫娘エリザベスを見た…
「見つからないでしょうね。彼のレコードは私のメモリーの中にだけある」
ローズの言う「彼のレコード(記録されたもの)」とは、ジャックのDNA、遺伝情報のこと…
そして「私のメモリー(保存されたもの)」とは、エリザベスが親から受け継いだDNAの中にある祖父母由来の遺伝情報のこと…
その遺伝子は、ローズとジャックの遺伝子が結びついて出来たもの…
タイタニック号沈没事故から84年…
101歳になったローズは、ジャックと交わした「約束」を果たすために、再びあの場所へやって来た…
4人いる孫娘たちの中からリジーを連れて来たのは、彼女が普段からローズの介護をしているからという理由だけではない…
リジーはジャックの血を受け継ぐ唯一の存在…
結婚せずにアラフォーになってしまった彼女に、このまま子供が出来ないと、この世にジャックが存在した記録・証拠は消えてしまう…
だからカットされた「幻のエンディング」では、トレジャーハンターがリジーにこう言っていた…
Would you like dance?
(ダンスしますか?)
あの「ダンスしますか?」発言は、リジー(エリザベス)が高齢妊娠するフラグ…
受胎告知が描かれる『Gospel of Luke(ルカによる福音書)』では、マリアの妊娠の次に、親族エリサベト(エリザベス)の高齢妊娠が語られる…
その内容とは、不思議な「挨拶」に共鳴して、胎内で胎児が踊り出したというもの…
1:44 あなたの挨拶のお声をわたしが耳にしたとき、胎内の子は喜んでおどりました。
リジーの本名エリザベスという名前は、ヘブライ語の「エリシェバ(Elišévaʿ)」が由来…
「エリ」は「神」で、「シェバ」は「誓い・約束・維持されるもの」という意味…
だから映画『タイタニック』のテーマ曲は「A PROMISE KEPT(約束は維持された)」なのだ…
ローズが語った「愛の物語」とは、Annunciation、秘密の「妊娠」を「告知」するもの…
84年前、17歳でまだ処女だったローズは、婚約期間中に夫以外の子供を身籠った…
この事実は直接的には説明されなかったけど、散りばめられたヒントに気付くことが出来れば、わかるようになっている…
だから最後にローズは、秘密を匂わせるような発言をした…
A woman's heart is a deep ocean of secrets.
女のハートは秘密だらけの深い海
つまり「the Heart of Ocean(ハート・オブ・オーシャン)」とは、ローズが聖母マリアである「あかし」…
そもそも「マリア」という名前は、ヘブライ語の「Miryam(ミリアム)」がギリシャ語・ラテン語化したもの…
その名前の意味は「海の雫(しずく)・露(つゆ)」だった…
だからジェームズ・キャメロンは、映画の中で様々な「受胎告知」を再現した…
まずは、映画の最初から最後まで登場し、物語の「狂言回し」を演じる重要なキャラクターにつけられた「BODINE(ボーディーン)」という名前…
その意味は、古フランス語(ロマンス語)で「one who brings news(知らせをもたらす者」…
だから彼の遠視ゴーグルには「SNOOP VISION」と書かれていたのだな…
「秘密の受胎」というビジョンをスヌープ(詮索)するのが、彼の使命だから…
そして、ジャックが指示した「約束の場所」である「時計と天使像のある階段」にも「受胎告知」が落とし込まれていた…
そもそも「ジャックの階段」には、ヤコブ(ジャック)が夢に見た「天使の昇り降りする梯子「Jacob's Ladder(ジェイコブズ・ラダー)」が投影されていた…
『Landscape with the Dream of Jacob』
Michael Willmann(ミヒャエル・ウィルマン)
そして、この逸話を歌にしたのが…
タイタニック号の沈没時に演奏された賛美歌『Nearer, My God, to Thee(主よ 御許に近づかん)』…
「ヤコブの梯子」同様に「受胎告知」も空から天使が降りて来る…
あの「時計と天使像のある階段」に落とし込まれていたのは、フラ・アンジェリコの『受胎告知』…
『Annunciation』
Fra Angelico
あの階段での場面でローズは、ジャックの「挨拶」に驚いた…
ジャックは「前にニッケルオデオン(大衆向け映画)で見て、いつか真似をしようと思ってた」と答えたが、そこには2つの意味が隠されている…
1つは…
ジャックを演じる Leonardo DiCaprio(レオナルド・ディカプリオ)が『タイタニック』の前に出演していた映画『Romeo + Juliet(ロミオ+ジュリエット)』の挨拶シーン…
そして、もう1つは…
『ルカによる福音書』に描かれる、名門ダビデ家の男性と婚約していた乙女マリアが、突然現れた謎の男の挨拶に驚くシーン…
1:26 六か月目に、御使ガブリエルが、神からつかわされて、ナザレというガリラヤの町の一処女のもとにきた。
1:27 この処女はダビデ家の出であるヨセフという人のいいなづけになっていて、名をマリヤといった。
1:28 御使がマリヤのところにきて言った、「恵まれた女よ、おめでとう、主があなたと共におられます」。
1:29 この言葉にマリヤはひどく胸騒ぎがして、このあいさつはなんの事であろうかと、思いめぐらしていた。
そして、フラ・アンジェリコが『受胎告知』に描いた「光の梯子」と…
タイタニックの「時計と天使像のある階段」の傾斜角度は…
同じ角度…
堕落した二人(ローズの母ルースと、ローズの婚約者キャル)が背後の天使に気付いていないのも同じ(笑)
そしてローズは、親と婚約者の不在時を見計らって、ジャックを部屋に招き入れた…
ローズの趣味は絵画コレクションで、部屋には様々な絵が飾られていた…
その多くは、当時まだ非主流派だった印象派(モネ)や、初期キュビスム(ピカソ)…
これも「受胎告知」が元ネタ…
フラ・アンジェリコの「受胎告知」別バージョンに描かれたマリアの部屋は、何枚もの「アート」が飾られているように見える…
しかもそれらは写実的な絵ではなく、印象派や初期キュビスムのよう…
このバージョンでは、堕落した二人(ローズの母ルースと、ローズの婚約者キャル)は、部屋から遥か遠く離れた場所にいる…
まさにローズとジャックの密会時のように…
そして、ローズは「私の絵を描いて」と依頼し…
ジャックの目の前で自らローブを脱ぎ、胸を露わにする…
これもフラ・アンジェリコの「受胎告知」別バージョンが元ネタ…
初期に描かれたこのバージョンでは、マリアの下着が肌の色と同じ薄桃色に塗られている…
なのでパッと見、まるでマリアがローブを脱いで、上半身を晒しているように見える…
もう、そうとしか思えない(笑)
そして、フラ・アンジェリコの『受胎告知』別バージョンには、もう1つ有名なものがある…
神の御使ガブリエルと処女マリアの会話が描かれた『コルトーナの受胎告知』だ…
『Annunciazione di Cortona』
フラ・アンジェリコが文字にして描いたのは、御使と処女の会話の最後の部分…
「神には何でも出来ないことは…」からのフレーズ…
御使「恐れるなマリヤよ、あなたは神から恵みをいただいているのです。見よ、あなたは身籠って男の子を産むでしょう。その子をイエスと名づけなさい。彼は大いなる者となり、いと高き者の子と称えられるでしょう。そして、主なる神は彼に父ダビデの王座をお与えになり、彼はとこしえにヤコブの家を支配し、その支配は限りなく続くでしょう」
マリヤ「どうして、そんな事があり得ましょうか。わたしはまだ男を知りませんのに」
御使「聖霊があなたに臨み、いと高き者の力があなたを覆うでしょう。それゆえに、生れ出る子は聖なるものであり、神の子と称えられるでしょう。あなたの親族エリサベツも高齢ながら子を宿しています。不妊の女といわれていたのに、はや六か月になっています。神には何でも出来ないことはありません」
マリヤ「わたしは主の端女(はしため)です。お言葉どおりこの身に成りますように」
ちなみに、ポール・マッカートニーが書いたビートルズの名曲『LET IT BE』も、この受胎告知の会話を題材にしたもの…
だから「Mother Mary」を「Rose」に置き換えると、そのまま『タイタニック』のストーリーになる…
マリアが身籠ることになる子は、「父ダビデの王座」を継ぐ者であり、「ヤコブの家」を支配する者…
ジャックの苗字「Dawson」は「Davidson」の省略形で「ダビデの子」という意味…
そして「Jack」は「Jacob(ヤコブ)」の愛称…
つまりローズはジャック・ドーソンの子を身籠る…
フラ・アンジェリコの絵『コルトーナの受胎告知』は、まさに「受胎」する場面で再現されていた…
あの「真夜中のドライブ」の場面だ…
「受胎」の直前、ジャックとローズはふざけて「御者と貴婦人ごっこ」をしながら、こんな会話を交わしている…
Jack : Where to, Miss?
Rose : To the stars.
ジャック「お嬢さま、どちらへ?」
ローズ「星空へ」
そしてローズは「to the stars」と言った後、ジャックを車のキャビン内へ引っぱり込む…
まさに「受胎」が行われる室内へと…
これは『コルトーナの受胎告知』に描かれた室内が「満天の星空」のように見えることが元ネタだ…
つまりジェームズ・キャメロンは、フラ・アンジェリコの「受胎告知」の絵を、こんな風に捉えたということになる…
婚約中の処女マリアを妊娠させたのは…
「白いハト」ではなく「御使」だと…
これはとても大胆な発想のように聞こえるが、アイデア自体はオカシナものではない…
そもそも「御使・天使」とは、目に見えない神のエネルギーが擬人化されたもの…
つまり、御使が妊娠させるということは、神が妊娠させることに等しい…
天使と格闘したヤコブに与えられた称号イスラエルも「天使と闘う人」ではなく「神と闘う人」という意味だった…
そして、この「御使が乙女と秘密の肉体関係をもった」という解釈をもとに作品を生み出した人物が、ジェームズ・キャメロンの他にもいる…
それは、とっても有名な人物…
その人物の名は、レオナルド・ダ・ヴィンチ…
人類史に名を刻む天才画家のデビュー作とも言われている『受胎告知』がそれだ…
『Annunciation』
Leonardo da Vinci
つづく
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