第120話「ポール・サイモンの ONE-TRICK PONY ⑨「Oh, Marion」中篇
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2019年9月19日
スナックふかよみ
違うんだよ…
「脳味噌・心臓・言い分」は、ある「別のもの」を言ってるんだ…
この歌も「なぞなぞソング」になっているんだよね…
Paul Simon『Oh, Marion』
またナゾナゾ？
そして…
「マリオン」とは、別れた奥さんのことではない…
え？ どういうこと？
では解説しよう。
歌詞はコチラを参照してほしい。
まず１番は「男の脳味噌」についてですね。
The boy's got brains
He just don't use them that's all
「男には脳味噌がある」と主張するけど…
「男はただ、それを使わないだけ」と言い訳する…
さらにポール・サイモンは強調する。
「脳味噌を働かせることを避けているだけ」と。
そして「脳味噌の使用」を拒否する理由を語る。
「考えれば考えるほど、どんどん笑える要素がなくなるから」
でも「使わない」と言い切るのはどうなんでしょう？
やっぱり何か他の意味がありそう…
いわゆるひとつの。
まあポール・サイモンの主張も、一理あるわよね…
考え過ぎてばかりいると、心に余裕がなくなってく…
深いことを考えずに、ただ笑って過ごしていた方が、人間、幸せだと思う…
またそんなこと言って！正気なの！？
ここはスナックふかよみ！あんたがそれじゃあ、どうすんのよ！
あっ… あたし…
また変なこと言っちゃった？
気が緩んでるわよ。しっかりね。
うふふ。
・・・・・
そしてポール・サイモンは１番をこう〆ます。
「男には脳味噌がある。よく考えて、その使用を控えているんだ」
何が言いたいのかしら？
そこまでして脳味噌の不使用について語ることに、何の意味があるというの？
ヒントは…
バチカンのシスティーナ礼拝堂。
は？
何のこと？ 何でバチカンが関係あるの？
ローマ教皇ユリウス２世（Julius II）が、天才ミケランジェロに描かせた、システィーナ礼拝堂の天井画…
ここに１番の「答え」がある…
あっ！
人間の脳味噌そっくりに描かれた神の姿！
『アダムの創造』ミケランジェロ
そうだった…
『ライフ・オブ・パイ』の嵐のシーンでも、雲の形で再現されてたわ…
ミケランジェロの『天地創造』は、クリエーターに様々なインスピレーションを与えてくれる。
特にこの『アダムの創造』は別格。数多くの映画で再現されている…
例を挙げたらキリがないから割愛ね。
で、では…
「脳味噌はあるけど、なるべく使わないようにしている」と語る「Boy・He・Ｉ」とは…
イエスしかいないでしょ。
ポール・サイモンが映画『ONE TRICK PONY』で演じている主人公ジョナとは、「キリスト」そのものなんだから。
あ、そうでした…
旧約聖書において存在感たっぷりの「天の神」は、新約聖書において、ほとんど出番がなくなってしまった…
なぜなら、人の子となって地上に降りたキリストが、その役割を担っているという設定だからね…
「父なる神」が存在感を示すのは、ほんの数場面…
だから「なるべく使わないようにしている」なのか…
相変わらず上手いわよね。ポール・サイモンは例え話が…
もういちいち座布団なんかあげたりしない。
パターンは読めたわ…
ポール・サイモン、敗れたり！
うふふ。威勢のいいこと。
それじゃあ、お手並み拝見。２番に行きましょ。
２番はこう始まります。
The boy's got a heart
But it beats on the opposite side
「男には心臓がある。だけど反対側についている」
そして、こう続く…
It's a strange phenomenon
The laws of nature defied
男は心臓が反対側に…
それは奇妙な現象で、自然の法則に反している…
これは何を意味しているのでしょう？
稀にそういう人がいるとは聞きますが…
わかった！サウザーよ！
サウザー？
♫世界中の苦しみを君ひとりが…
その小さな肩に背負わされた時…♫
の、サウザー？
は？
それって、『何も言えなくて...夏』ですよね？
違うわよ。
Ｊ・Ｄ・サウザー！
あたしも大好き。
この声を聴くと、何だか、いろんな記憶が蘇っちゃう…
柴門文代さんって…
もしかして、あたしと同世代？
AORとか、めっちゃ聴いてた？
うふふ。
大学生の時のドライブBGMは、彼氏が編集したAORのカセットテープ…
Ａ面ラストが『ユア・オンリー・ロンリー』で…
Ｂ面ラストがボズ・スキャッグスの『ウィー・アー・オール・アローン』（笑）
あったあった、オリジナル・カセットテープ（笑）
だけど文代さん、全然アラフィフに見えない…
肌とか、めっちゃキレイだし…
羨ましい…
そう？うふふ…
アンタたち、いったい何のハナシしてるのよ！
「心臓が反対側にある」といえば『北斗の拳』のサウザー！
神になろうとした男、聖帝サウザーでしょ！
あ、そっちのサウザーか…
だけど、さすがに違うでしょ。
なんでポール・サイモンが『北斗の拳』のことネタにするのよ。
そうだけど…
でも心臓が左右反対にあるって言ったら、サウザーしか思いつかないじゃん…
そう。
２番の答えは「サウザー」で間違っていない…
え？
サウザーは、神の座に就こうとした男…
聖なる「△」を用いて…
え？え？どゆこと？
これだよ。
サウザーの頭の後ろに「△」があった理由は…
『聖三位一体（神の右に坐するキリスト）』
げえっ！
だからサウザーは最期に、父のような存在であるオウガイが坐する場所の隣に行き、すべてを終わらせたのです…
ジョー…
『北斗の拳』にも詳しいのね…
プノンペンでも日本の漫画は大人気でしたから…
『北斗の拳』や『ドラゴンボール』で、日本語を覚えたようなものです…
つまり…
「男」の「heart」が「左側」ではなく「右側」にあるというのは…
キリストが「神の左側」ではなく「右側」にあるということ…
そしてポール・サイモンが「It's a strange phenomenon（奇妙な現象）」と言ったのは、「ふたりの主」が隣同士で座っていること…
「The laws of nature defied（本質を無視した」は、それが旧約聖書の律法に反しているように見えるから…
これらに関しては、福音書の中でも触れられている。
『マタイによる福音書』22:41-46
パリサイ人たちが集まっていたとき、イエスは彼らにお尋ねになった、「あなたがたはキリストをどう思うか。だれの子なのか」。彼らは「ダビデの子です」と答えた。イエスは言われた、「それではどうして、ダビデが御霊に感じてキリストを主と呼んでいるのか。すなわち
『主はわが主に仰せになった、
あなたの敵をあなたの足もとに置くときまでは、
わたしの右に座していなさい』
このように、ダビデ自身がキリストを主と呼んでいるなら、キリストはどうしてダビデの子であろうか」。イエスにひと言でも答えうる者は、なかったし、その日からもはや、進んでイエスに質問する者も、いなくなった。
だけどなぜ「heart」なの？
天国では肉体が必要ないからね。
それにトランプの「ハート」は、元々「キリストの聖杯」だった。
あ、そうだったわね…
ちなみに、この「神とキリストの座る位置が左右反対」のネタは、他の作品でも使われている。
例えば、ポール・サイモンが曲を書いた映画『卒業』でも…
へーっくしょん！
あら、大丈夫ヒロノブさん？
もしかして風邪ひいたんじゃない？ 裸だから…
大丈夫です。誰かが私の噂でもしてるんでしょう。
気にせず話を続けてください…
よーし。この勢いでサビも解いちゃうから！
サビの前に、この流れで３番を片付けてしまいましょう。
同じパターンの「なぞなぞ」なので。
３番は「voice」について…
The boy's got a voice
But the voice is his natural disguise
「男には言い分がある。だけどそれは本質的に偽装されたもの」
表向きの意味は「息をするように嘘をつく」か…
ｺﾞﾎｯ、ｺﾞﾎｯ…
だけど、そうじゃない。
もう騙されないわよ、ポール・サイモン！
どうせイエス・キリストのことだって、わかってるんだから！
だから、こう続く…
Yes the boy's got a voice
But his words don't connect to his eyes
「イエス」って、言っちゃってる…
小説版『ライフ・オブ・パイ』のオチと同じだ…
そして「彼の言葉は、彼の目とつながっていない」という…
つまり…
「彼はその瞳で嘘をつく」ってこと…
ゲホッ、ゲホッ。
大丈夫？やっぱり風邪ひいちゃったんじゃない？
何か着る？
女性用だけど袴もあるわよ。「ハイカラさんが通る」みたいな。
ちょっと惹かれますが、遠慮しておきます…
そう？ 早く服が乾くといいんだけど。
だけど、なぜポール・サイモンは、イエスの言葉を「natural disguise（本質的に偽装）」なんて言ったのかしら…
ちょっとひどくない？
子供の頃から憧れていたんでしょ？ ポール・サイモンはイエス・キリストに…
別におかしなことではないよ。
え？
イエスは聖書を書いていない…
イエス本人の直接の言葉は、ひとつも残されていないんだ…
福音書に書かれているイエスの言動は、すべて第三者の目や記憶を通したもの…
なるほど、そういうことか…
福音書はイエスの自伝や随筆じゃないんだもんね…
そして「彼」は語る。
He says "oh, but when I sing
I can hear the truth auditioning"
ああ、僕が歌えば、本当のことが聞かせられる？
言葉では無理だけど、歌なら伝えられるってこと？
どっかで聞いたようなセリフね。
これじゃないですか？
阿久悠もポール・サイモンも、感性が似てるわね。
言葉では伝えられないけど歌なら出来るって、どういうことなのかしら？
歌なら自分の声で直接「the truth auditioning」が聞かせられるってことだよ。
「試された真実」つまり「受難の物語」のすべてがね。
歌うことが出来るんなら、言葉にもすればいいじゃん。
神なら誰かに書かせることくらい朝飯前でしょ。
リモートコントロールで書かせて、新たに聖書に加えたらいいわ。
それは出来ないんだよ…
だからポール・サイモンは「歌えれば本当の想いが聞かせられるのに」と言ったんだね。
なんで出来ないのよ？
なぜなら…
聖書の一番最後に、こう書かれているから…
『ヨハネの黙示録』
22:18 この書の預言の言葉を聞くすべての人々に対して、わたしは警告する。もしこれに書き加える者があれば、神はその人に、この書に書かれている災害を加えられる。
22:19 また、もしこの預言の書の言葉をとり除く者があれば、神はその人の受くべき分を、この書に書かれているいのちの木と聖なる都から、とり除かれる。
あら…
だから３番の最後だけは、１番や２番と違って、ちょっとトリッキーになっている。
The boy's got a voice
But the voice is natural
「natural disguise（本質的に偽装）」ではなくて…
「natural（本質的）」で終わるんだよね。
ちゃんとキレイにまとめてる。うまいなあ。
ちなみに…
この歌の構成「brain - heart - voice」、つまり「男にとって３つの大切なもの」というアイデアには、元ネタがあるんだ。
もしかして、３つの袋？
それも確かに男にとって大切だけど…
これだよ。
『マタイによる福音書』
22:37 イエスは言われた、「『心をつくし、精神をつくし、思いをつくして、主なるあなたの神を愛せよ』
22:38 これがいちばん大切な、第一のいましめである。
男にとって最も大切な３つのこととは…
「心・精神・思い」をつくして愛すること。
だけど「心・精神・思い」って、どれも同じことじゃない？
日本語だと難しいね。
英語版だと「heart, soul, mind」だ。
「愛情・魂・理性」って感じかな。
あ、そういうことね。納得。
教官、いよいよ残るは、後回しにしていたサビです。
ポール・サイモンが「マリオン」に泣きごとを言う、問題のサビ…
ＯＫ。
それでは「マリオン」の謎に迫ってみよう。
ポール・サイモンは、なぜ、自身が演じる主人公の妻の名を「マリオン」にしたのか…
つづく
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