第127話「ポール・サイモンの ONE-TRICK PONY ⑯「Jonah」後篇
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2019年9月19日
スナックふかよみ
ポール・サイモンって、ホントおもしろい…
こんなふうにして、愛する人に想いを伝えるなんてね…
しかも誰にも気付かれずに…
本当に鮮やかな手口です…
40年もの間、誰も見破れませんでしたから…
そういえば、ミケランジェロの『最後の審判』に隠された「とんでもない秘密」と、イディッシュ語「TISCH(ティッシュ)」の話は?
あれはいつ話してくれるの?
今から話すよ。
もう全ての準備は整った。
なんだかドキドキするわね…
では始めよう…
システィーナ礼拝堂に描かれたミケランジェロの歴史的名作『最後の審判』と、ポール・サイモンのアルバム『ワン・トリック・ポニー』の8曲目『Jonah』との間に隠された、深過ぎる秘密について…
難しい話は無しでお願い。もう頭がヘトヘト…
OK。単刀直入に行こう。
ポール・サイモンがこの歌を作った理由は、自分のもとから去ってしまった恋人キャリー・フィッシャーに、大事な想いを伝えるためだった…
「まだ僕の気持ちは変わっていない。愛している」
という想いを…
Carrie Fisher(1956-2016)
そのために、歌詞の中に「Carry」と「Fish」を隠したんですよね。
さすがにサビで「Fish」を連呼するとバレてしまうので、「whale」に置き換えていましたが。
その通り。
さらにポール・サイモンは、1番で「イエスの復活を目の前で見たマリア」について歌い、サビで「ヨナと大魚」について歌った。
埋葬された墓から出て来たイエスと、飲み込まれた大魚から出て来たヨナ…
この両者はシンクロしている。
そして、かつてポール・サイモンと同じように「ヨナとイエス」をシンクロさせて描いたアーティストがいた…
その人物の名は、ミケランジェロ…
バチカンのシスティーナ礼拝堂に描かれた大作『最後の審判』と、その上にある『Jonah(ヨナ)』は、明らかにシンクロして描かれている…
『最後の審判』&『預言者ヨナ』
ミケランジェロ
『最後の審判』の中のイエス・キリストは、なぜか、中心線から少し左にズレて描かれている…
本来なら、きっちりと中心線に配置されるべきなのに…
だけどミケランジェロが、そうしなかったのは…
『最後の審判』の上にある『預言者ヨナ』とイエスを、一直線上に並べたかったから…
そう。ヨナはイエスの「予型」だ。
ヨナが身をもって経験したことが、「イエスはキリスト(救世主)である」ということの「しるし」だと、福音書の中で語られている。
しかも、イエスが全く同じ話を二度も繰り返すくらい、これは重要なことだった…
『マタイによる福音書』
12:38 そのとき、律法学者、パリサイ人のうちのある人々がイエスにむかって言った、「先生、わたしたちはあなたから、しるしを見せていただきとうございます」
12:39 すると、彼らに答えて言われた、「邪悪で不義な時代は、しるしを求める。しかし、預言者ヨナのしるしのほかには、なんのしるしも与えられないであろう。
12:40 すなわち、ヨナが三日三晩、大魚の腹の中にいたように、人の子も三日三晩、地の中にいるであろう」
ポール・サイモンが、映画『ワン・トリック・ポニー』の中で自分が演じる主人公の名前を「Jonah」にしたのは、これが理由でしょ?
ジョナの物語が、そのままキリストの物語になる…
それを狙ったもの。
そう。ミケランジェロの描いた絵のようにね。
ポール・サイモンは、それがやりたかったわけだ。
だから自分の役名を「Jonah」にして、わざわざ『Jonah』という曲まで書いた。
この映画やアルバムを知った人は、きっと「Jonah」について調べてみるだろうと想定して…
まあ、興味のある人なら、ちょっと調べてみるわよね。
「ヨナって、どんな人だっけ?」と。
そして「Jonah」について調べた場合、多くの人が真っ先にミケランジェロの絵を見ることになる。
ミケランジェロの手によってシスティーナ礼拝堂に描かれた「Jonah」が、最も有名な「Jonah」の絵だから…
すると当然その「Jonah」の絵が、真下に描かれた超メジャー作品『最後の審判』と関連付けられていることにも意識が行きますね。
「ああ。あの『最後の審判』とリンクしてるんだ」って…
その通り。
そこがポール・サイモンの本当の狙いだ。
え?
ポール・サイモンは、システィーナ礼拝堂に描かれたミケランジェロの『預言者ヨナ』と『最後の審判』へ導くために、この曲を書いたんだ。
想いを伝えたかった人物、キャリー・フィッシャーに対してね…
キャリー・フィッシャーに気付いてほしくてミケランジェロの絵を?
いったいどういうことでしょうか?
『STAR WARS』だよ…
スター・ウォーズ?
ミケランジェロは…
スター・ウォーズのポスターを意識して、この絵を描いたんだ…
ええっ!?
ごめん。言い間違えた。驚かしてすまない。
スター・ウォーズのポスターは…
ミケランジェロの絵を意識して、描かれた…
だった。
というか、それも十分驚きなのですが…
どういうことなの?
まず、このポスターを見て欲しい。
映画『スター・ウォーズ』の有名過ぎるポスターよね。
このポスターとミケランジェロの絵に何の関係が?
『最後の審判』ミケランジェロ
『スター・ウォーズ』のポスターのルーク・スカイウォーカーとレイア姫は…
『最後の審判』のイエスとマリアを意識して描かれている…
あっ… 確かに…
若すぎるマリアの艶めかしい太腿も完璧に再現されています…
そしてルークが掲げるライトセーバーが三方向に光ってるのは…
十字架を表すため…
だね。
ぐ、偶然でしょ?
ルークとレイアだけじゃないんだ…
「C-3PO」と「R2-D2」の予型も、ミケランジェロの絵の中にある…
ハァ!?そんなわけないでしょ!
こんな人間じゃない異質な存在、どこに描いてあるというのよ!
いるじゃないか、ここに…
どこ?
金色に描かれた十字架と…
銀色に描かれた円柱…
う、うそ…
こじつけよ、こんなの!
よく見ると「ダース・ベイダー」もいるでしょ?
ミケランジェロの絵の中には…
いやいや…
さすがに、あんなヘルメットとマスクを被った人は、描かれていないと思いますが…
ミケランジェロが「ヘルメットとマスク姿の不気味な男」を一番大きく描いたから…
『スター・ウォーズ』のポスターも、それに倣っているんだよ…
そんな不気味な男、ミケランジェロの絵の中にいた?
いるじゃないか…
同じように、背景の青に溶け込んで…
・・・・・
絶句…
何なのよコレ!
それから、ポスターの上部に描かれた「デス・スター」も…
で、デス・スターもですか!?
『最後の審判』の上部に「ヨナを飲み込む大魚」が描かれているから…
『スター・ウォーズ』ポスターの上部にも「デス・スター」が描かれた…
うわあ…
確かに「大魚の目」だ…
どれか1つなら偶然で片付けられるだろうけど…
ここまで揃うと、ちょっと否定できないよね…
この両者の類似点は…
なんてことなの…
これが深読みの力…
May the Fukayomi be with you…
フカヨミと共にあらんことを…
わかってる。
そういえば…
イディッシュ語で「共に集まり、祈りを捧げ、食事をする大きなテーブル」を意味する「TISCH」の話は?
それは簡単なこと。
キャリー・フィッシャーの苗字「Fisher」は、もともと「Tisch」だったんだよ。
だから、本来なら「キャリー・ティッシュ」という名のはずだった…
は?
彼女の祖父一家が東欧からアメリカへ渡った際、「Tisch」から「Fisher」に変更したんだよね。
苗字を英語風に変更することは、多くの移民、特にユダヤ系の人ではよくあることだった。
そして彼女の父エディ・フィッシャーが、敬虔なクリスチャンであるデビー・フランシス・レイノルズと結婚し、生まれた子はキャリー・フランシス・フィッシャーと名付けられた…
なるほど。そういうことだったのか…
ということで、8曲目『Jonah』の深読みは、これにて一件落着。
うふふ。おつかれさまでした(笑)
それにしても…
アーティスト、芸術家と呼ばれる人たちは、実に様々なものにインスパイアされて、作品を作るのですね…
ホントびっくり。
あの有名な『スター・ウォーズ』のポスターは、ミケランジェロの『最後の審判』にインスパイアされて描かれた…
そしてポール・サイモンは、そこからインスピレイションを得て『Jonah』という曲を書いた…
あんた、カッコつけてるの?
え?
今「インスピレイション」って言ったでしょ?
インスピレイション?
あたし「インスピレーション」って言ったと思うけど…
「inspiration」を「インスピレイション」と発音していいのは、ジプシー・キングスの「あんたがた、ほれ見や」のことを言う時だけ!
それ、違いますよ。
「インスピレイション」は『鬼平犯科帳』で、「あんたがた、ほれ見や」は『ベン・ベン・マリア』です。
わ、わざとよ、わざと!
いちいちドヤ顔で指摘しないでくれる?
だけど、懐かしい…
初期の頃の空耳アワーって、ホント衝撃的だったわよね…
あたし大好きだったな…
どこかの名探偵さんの深読みも、ぜんぶ「空耳」だったりして(笑)
ちょっと!ひどいこと言うわね!
・・・・・
岡江クンの深読みは凄いんだから!
これまで、どれだけの難事件を解決したと思ってるの?
あの「オムライス殺人事件」とか…
それから…
「熱海のK君殺人事件」とか…
どっちも「殺人」は起こっていないけど…
あっ、そうだった…
だけど岡江クン、あんなこと言われて腹が立たないの?
うん…
どうしてよ?
岡江クンの深読みを「空耳」だって言ったのよ!?
柴門文代さんの言う通りだと思う…
どれだけ凄い深読みをしたとしても、所詮それは「空耳」に過ぎない…
え?
だけど、それでいいんだよ…
なぜ?
人は、不完全な存在だ…
人は、世界の正しい姿を、完全な形で見ることはできない…
この世界を完全に理解することのできない不完全な存在であるが故に、人なんだ…
なんかポエムが始まったわよ。
だから人は…
風の音、樹々のざわめきに耳を傾け、そこに「声」を感じ…
降り注ぐ暖かい陽の光を浴びて、そこに「力」を感じ…
有限の生の中で絶望に支配されないよう、「愛」を感じる…
確かに、そうね…
これらすべては「気のせい」、つまり「深読み」かもしれない…
だけど人は、そうやって生きてきた…
すべてを言葉には置き換えることの出来ないこの世界を、そうやって頭の中で再構築し、それを他者と共有することで、広がりや奥行きのある偉大な文化を育んできたんだ…
それが人類の歴史であり、人間の本質でもある…
名画『アダムの創造』で「最初の人アダム」の誕生を描いたレオナルド・ダ・ヴィンチが、創造神を「人の脳の中の想像」のように描いたのは、そういうことを表現したかったんだろう…
『アダムの創造』レオナルド・ダ・ヴィンチ
人は、自分が見たいものを見、読みたいことを読む生き物…
いわゆるひとつのシンク・トゥー・マッチであることは避けられないんですね、はい…
つまり、人は「深読み」をせずには生きていけない…
たとえそれが空耳、世界の姿を正しく映したものでないとしても...
そういうこと?
その通り。
深読みをするから人なんだ。
それをやめたら人ではない。ただの人でなしだ。
名言ですね。深読み探偵手帳にメモしておこう…
何が名言よ!
こんなこと40年前に武田鉄矢が歌ってるし!
ん?
この『海援隊』のジャケット写真、なんだか既視感が…
私の気のせいでしょうか?
それは気のせいではない。自分の中の深読みの力を信じるんだ。
君が感じたものは、おそらくコレのことだろう…
あっ… そうです…
名曲『人として』の中で、武田鉄矢はこう歌っている…
人が生きるということは…
人として、人に出会い、人に迷い、人に傷つき、人と別れることだと…
そして、それを嘆くのではなく、そのまま受け入れることが、「人を愛する」ことに他ならないと…
まさに人の子イエスだ…
人類の歴史と真理が込められた、とてつもなく深い歌詞だったんですね…
今頃気付いたの?
金八なめんなよ、このバカチンがァ!
うふふ。
それじゃあ、次の曲に行きましょ…
急がないと明日になっちゃう(笑)
そうですね。
アルバム『ワン・トリック・ポニー』の9曲目は...
『God Bless The Absentee』…
神よ、不在なる者に、祝福あれ…
つづく
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