「AT THE ZOO」前篇 『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
カランカラン♫
(ドアの開く音)
あら… お客さんだわ…
いらっしゃいませ…
ひとりですけど、いいですか?
どうぞどうぞ。
お隣、あいてる?
あ、はい…。大丈夫です…
(素敵な女性… 女の私でもドキドキする…)
何か言った?
い、いえ… なんでも…
ウフフ…
・・・・・
岡江クン。
あ、いや、べつに…
シェリー酒、あるかしら?
はい、ありますよ。
ところでお客さん… ここ初めてですよね?
ええ。だけど前から気になってたの。
「スナックふかよみ」だなんて、おかしな名前よね…
あたしの名前「ふかよ」から付けたんです。
あら、そうなんだ。
てっきり詮索とウンチクが好きな人たちが集まる面倒くさい店かと思ってた。
まあ、当たらずとも遠からず、ですけどね。
どの口が言うか。
で、では… 改めて乾杯しましょう…
今日は岡江教官の誕生日なんです…
岡江教官?
僕です。岡江といいます。
私立探偵をやっていて、彼女は僕の臨時の助手で大林少年です。
「彼女」なのに「少年」なの?
「おれがあいつで、あいつがおれで」みたいなもので…
うふふ。よくわかんないけど、おもしろい。
あたしは文代。柴門文代よ。
ふみよさん? あたしと一字違いだ…
うふふ。言われてみればそうね。
だからこのお店のことが気になってたのかしら…
皆さん、どうぞよろしく。
5分後
それじゃあ、そろそろ続きを始めようかしら。
よろしく岡江クン。
え? やるの?
当たり前じゃない。
でも、文代さんが嫌がるんじゃ…
やっぱり「詮索とウンチクが好きな人たちが集まる面倒くさい店」なんだと思われてしまうかも…
そんなこと言ったら、あなたの存在価値なくなっちゃうじゃないの。
それはそうだけど…
あたしのことは気にしないで。
実を言うと、そんなに嫌いじゃないんだ…
ふ・か・よ・み…
ほら!
本当に嫌いだったら、そもそも店に入って来ないって(笑)
だ、だよね…
ちなみに今夜は何を深読みしてたのかしら?
パ、パイです!
『ライフ・オブ・パイ』!
あら、あたしこの映画、好きよ。
どこまでやったの?
オープニングの音楽が流れて『LIFE OF PI』ってタイトルが出てくるところまでです!
それ、途中っていうか、まだ始まったばかりじゃない(笑)
実は映画以外のことで時間を取られまして…
でもよかった。
あたし、この映画で動物園シーンが一番好き。
ふ、文代さん、動物好きなんですか?
そこまで動物が好きってわけじゃないんだけど…
あたしの大好きな「ある歌」を思い出しちゃうのよね…
歌?
あたしの大好きな…
サイモン&ガーファンクルの『AT THE ZOO』…
・・・・・
こ、これですね!
(スマホでYouTubeを流す)
そう…
この歌って、ホントおもしろい…
きっと『ライフ・オブ・パイ』の原作を書いた人も、映画を撮った人も…
この歌が大好きだったんじゃないかしら…
え?
どうして?
だって、この歌って…
「動物園の歌」じゃないでしょ?
「動物園の歌」じゃない?
『AT THE ZOO』なのに?
どういうことですか?
そもそも変だと思わない?
歌詞に登場するのは、サル、キリン、ゾウ、オランウータン、シマウマ、アンテロープ…
いかにも動物園らしい動物たちよね…
それなのになぜ…
最後が「ハト」と「ハムスター」なの?
あ… それは…
ふふふ…
あたし、ちょっと化粧室に行ってくるわね…
どちらかしら?
奥を曲がったところです。
それでは失礼して…
言われてみれば確かに変よね…
今まで何の疑問もなく聴いてたけど、なんで最後にハトとハムスター?
岡江クン、どう思う?
彼女の指摘は正しい…
実は、この歌も全部「嘘」…
『THE BOXER』と同じようにポール・サイモンの「ライラライ」なんだよ…
え!? ぜんぶ嘘なの?
そう。『ライフ・オブ・パイ』と全く同じ構造。
つまり「動物園」というのは「パレスチナ・イスラエルの首都になっている東西エルサレム」のことなんだよね…
マジで?
岡江クン、知ってて黙ってたの?
彼女、只者ではないような気がするんだ…
だから少し話を聞いてみたくて…
もしかしたら同業者…
名のある深読み探偵かもしれませんね…
あるいは…
あるいは?
刺客…
刺客ゥ?!
深代ママ、声が大きいよ。
ごめん。
とにかく、もう少し彼女に話をさせてみよう。
どれくらいの腕前なのか確かめてみたい。
あ、出て来ます。
ジャ―――
(トイレの流れる音)
あらあら、どうしたのかしら。
みんな神妙な顔つきしちゃって…
『AT THE ZOO』の歌詞について考えていたんです。
動物園じゃなかったら、いったい何について歌っているんだろうって…
あら、ごめんなさいね…
あたし余計なこと言っちゃったかしら?
でも僕も以前から気になっていたんです。
なぜポール・サイモンは2番の頭で笑っちゃうんだろうって…
別に面白くも何ともないところなのに…
そうよね。
ふつうに動物園の話なら、あそこで笑う必要なんて何もない。
たぶん「これは悪い夢、ジョークなんだよ」って自嘲気味に笑ったんだと思うわ…
悪い夢? ジョーク?
歌詞を見ていけばわかるわ、きっと。
まず1番はこんな出だしで始まるわよね。
Someone told me
It's all happening at the zoo
I do believe it
I do believe it's true
訳すと、こんな感じ。
誰かが僕にこう言った
「動物園は万事順調」
もちろん僕は信じてる
絶対に間違いない
あ、確かに変だ…
世間一般的に言うと、これは「万事順調」ではない可能性が高いですよね…
「万事順調」をアピールする人ほど、何らかの大きな問題を抱えているものです…
そうね。
しかもそういう人は、誰かに「助けてください」と素直に言えない(笑)
なんだか意味深な歌詞だわ。今まで気がつかなかった…
そして「イースト・サイド」から「動物園」へ入るルートが推奨される。
見どころ満載の最高の散歩コースだと…
It's a light and tumble journey
from the East Side to the park
Just a fine and fancy ramble to the zoo
「東側」から「動物園」に入るのがいいなんて、かなりブラックジョークよね。
どうしてですか?
だって、この歌における「動物園」とは「パレスチナ」や「エルサレム」のことだから。
え?
だから「雨の日」にはバスに「乗る」といいって歌うのよね。
「クロス」タウン・バスに…
そして「動物たち」もバスを気に入ってくれるって…
But you can take the crosstown bus
If it's raining or it's cold
And the animals will love it, if you do
ゴルゴダの丘の十字架のことだわ…
そして2番の冒頭…
Something tells me
It's all happening at the zoo
I do believe it
I do believe it's true
1番との違いに気付いたかしら?
あっ…
「Someone told me」が「Something tells me」に変わってる…
「誰かが言った」から「何かが告げる」に…
もはやスピリチュアルね。
なのに「ぼく」は「絶対に信じる」って言うのよ。
しかも笑いながら。
つまり…
もう悪いジョークだと思って笑うしかないってこと?
ヤケクソ気味なのかしら?
かもね。
そしてここから動物たちの登場よ。
The monkeys stand for honesty
Giraffes are insincere
And the elephants are kindly but they're dumb
サルは誠実の象徴
キリンは口先だけ
そして象は心優しきウスノロ
そして『ライフ・オブ・パイ』のメインキャラクターの動物たちも登場。
Orangutans are skeptical of changes in their cages
And the zookeeper is very fond of rum
オランウータンは因習に囚われ疑り深く
動物園の管理者はラムに目がない
パイのお母さんも、そんなふうに描かれていたわ…
親に勘当された彼女は、ヒンドゥーの神々だけが心の支えだと…
そして科学では人の心は絶対に救えないと言っていた…
やっぱりこの歌が影響を与えたのかしら…
深読みのし過ぎじゃないですか?
パイのお父さんはラム酒を飲んでいませんでしたよ。
あ、そっか。そうだったわね。
(さあ、どう出る?)
そんなことないでしょ?
パイのお父さんは「ラム」が大好きだったじゃない。
え?
小羊の「ラム」が…
あ…
「rum」と「lamb」の駄洒落ですか!
偉大な詩人は皆、駄洒落が好き…
ここぞってとこにブチ込んでくるんだから…
油断してちゃダメよ(笑)
は、はい…
(やるな… でもここからが本番だ…)
さて、ここからが本番よ。
この歌の最大のミステリー…
ゴクリ…
なぜ「動物園の歌」が…
「ハト」と「ハムスター」で終わるのか?
つづく
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