「想像力と数百年」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
ふぅ。いい汗かいたわ。
・・・・・
キッレキレでしたね…
冗談という言葉では片づけられないレベルでした…
当たり前でしょ!
アタシの名前は冗談川博士だけど、ただの冗談が好きな人だと思ってたら痛い目に遭うわよ!
あのダンスの才能は活かすべきです。
ぜひトラッキーの中の人になってほしい…
なんでトラッキーなのよ!
アタシの夢はタイガースガールズ!
それはさすがに有り得ない…
絶対に無理だと思いますが…
ありえないとか無理とか、決めつけちゃダメ。
え?
風呂敷は広げるためにある…
すべるのがスキーなのと同じ。
文代さん…
あー、喉渇いた…
渇きすぎてアタシ死んじゃいそう。
大将、お水ちょうだい。コップじゃなくてヤカンで…
はいはい。どうぞ。
だけどヤカンで水って、昔のラグビー選手みたいね。
ゴクゴクゴクゴク…
ふぅ… 生き返ったわ。
じゃあ… 続き、始める?
ですね。中年パイが子供時代の「武勇伝」を話し終えたところからです。
「武勇伝」といっても「神童イエス」の話でしたが…
ここからパイと作家のやりとりが続く。
パイの冗談も見事だったけど、作家の冗談も負けてはいないよ。
え? 作家の冗談?
あの作家も嘘つきなの?
もちろん。
ほぼすべてが「嘘」の物語『ライフ・オブ・パイ』を書いた張本人だからね。
マジで?
セリフをよく聴けばわかる。
二人の会話は、こんな風に始まった…
パイ「この日を境に、私パイ・パテルは、この集団内における伝説的な存在となった」
作家「ママジは君が sailors の中でも伝説的存在だと言っていたよ。とんでもないことを、たったひとりでやり遂げたと」
パイ「いや。私は sail の原理なんて知らない。私はたったひとりで偉業を成し遂げたわけじゃないんだ。私はリチャード・パーカーと共にあった」
確かに、何かアヤシイ感じがしますね…
「sailors」と「sail」を訳さなかったあたりも…
さっきパイが語った「12歳の時の学校での武勇伝」は「イエスが12歳の時の神殿での武勇伝」のことだったわよね…
つまりパイは、イエスを自分に置き換えて話している…
そうすると「sail」や「偉業」が意味するものとは…
「sail」とは、地上と天国の間の「行き来」…
つまり「偉業」とは「復活の奇跡」のことだね。
ああ、そうか!
人間であるナザレのイエスは、天国と地上を行き来する「sail」の原理なんて知るはずがない。
だからイエスは最後の夜にゲツセマネの園で、迫りくる死の恐怖に血の汗を流した。
いくら「神の子だから永久に不滅です」と言われても、その原理に関しては全く知らされていなかったから、不安になるのも当然といえよう。
実際に行き来するのは、肉体ではなく「聖霊」だからね。
つまり「sailors」とは…
「聖霊」や「天使」を喩えたもの、ということね。
そういうこと。
ところで、冗談川博士…
なに?
あなたはこの店に入ってすぐ、デヴィッド・ボウイの『LIFE ON MARS』を歌いましたよね?
そうだけど。なんか文句ある?
いえ。あの歌の歌詞についてなんですが…
はいはい。また始まった(笑)
映画のことに集中しましょ。
え…
文代さんの言う通り。
岡江クンってすぐに深読み対象と関係ない話を始めちゃうんだから。
自分自身はおもしろいと感じてるのかもしれないけど、付き合わされるほうの身にもなってよね。
いや、でも…
パイと作家の冗談対決の続きをやりましょ。
あたし、ここの会話がとっても好きなの。
大林少年クン、よ・ろ・し・く(笑)
は、はい!
二人のやりとりは、こんなふうに続きます…
作家「リチャード・パーカー? ママジは僕に全てを教えてくれたんじゃなかったのか。彼は、僕がモントリオールに戻ったら、君のもとを訪れるべきだと言ったんだ」
パイ「・・・・・」
ふふふ。ウケる(笑)
え? 私、何か間違ったでしょうか?
あなたじゃなくて、作家のセリフが、よ。
そんなにウケる内容?
だって…
「モントリオールに戻ったら」なんて、おかしいでしょ(笑)
は? なんで?
今は「まだ」わからないわよね。
でも、もうすぐわかる…
なにそれ?
ふふふ。二人の会話は、こう続くの…
作家の「モントリオールに戻ったら」という発言に反応したパイは、突然話題を変えた…
パイ「ところで、あなたはポンディシェリで何を?」
作家「小説を書いていた」
パイ「あなたの処女作は良かった。新作も楽しみだ。舞台はインドになる?」
作家「いや。実はポルトガルなんだ。インドは cheaper living だから…」
パイ「ああ…(絶句)」
なぜパイは絶句したんでしょう?
「cheaper living」には「環境の質が悪い中での暮らし」という意味があるの。
この物語の中での「インド」は「パレスチナ」だから。
なるほど。それは言葉に詰まりますね。
じゃあ「ポルトガル」は?
お待ちどうさま。
これが「モントリオールに戻ったら」を読み解くヒントなのよ。
は? ポルトガルが?
「Montreal(モントリオール)」をポルトガル語で読むと、どういう意味になるか知ってる?
モントリオールをポルトガル語で? 知らないけど…
モンテ・レアル…「王の山」よ。
結論から言っちゃうけど、これのことね。
『磔刑図』アンドレア・マンテーニャ
ゴルゴダの丘!?
イエスの十字架に付けられた「INRI」の意味は「ユダヤの王」だったでしょ?
「ユダヤの王」が処刑され、埋葬された場所だから「Montreal」ってこと。
作家さんのダジャレね。
まあ…
ホントにパイと作家の冗談合戦じゃないの…
そうよ。けどここからが本番なんだから(笑)
パイ「まあとにかく、新作を読むのを楽しみにしてるよ」
作家「君は読むことができない。僕は途中で投げ出してしまった。2年間もこの物語に命を吹き込もうと頑張ったが、sputter して、cough して、そして死んだ」
パイ「それは… すまないことをした…」
「sputter」とは?
「興奮したり意識が混沌として、わけのわからないことを喋る」って意味。
ゴルゴダの丘でも、そんなシーンがあったわよね?
ああ!「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」のことですね。
イエスが突然叫んで、兵士たちは意味が分からず困ってしまいました。
「cough」は「咳をする」でしょ? イエスは十字架で咳をしたの?
「cough」の意味は「咳をする」だけじゃない…
「すべてを明らかにする・告白する」って意味があるの。
十字架でイエスが死ぬ前に最後に語った言葉は「終わった。父よ、私の霊をあなたの手にまかせます」だったでしょ?
だからパイは一瞬マジな顔をして、無言になったのね…
自分をイエスに喩えてたから…
しかし「cough」にそんな意味があるとは…
喩えは汚いですが日本語の「ゲロする」みたいなものですね…
つまり…
作家が書いてパイが「楽しめた」と言った「最初の作品」とは「旧約聖書」のこと。
そして「sputter」して「cough」して死んでしまった「新しい作品」とは「新約聖書」のことなんだ。
イエスであるパイは「新しい作品」を読むことはできない。
なぜならイエスは「新約聖書」を読んでいなかったから…
ですよね? 文代さん。
あら、聞いてたの?
さすが深読み名探偵さんね(笑)
元はと言えば、僕が始めた深読みですから。
そうだったわね。
じゃあパイと作家の会話の続きを深読みしましょ。
作家「僕はポンディシェリの coffee house で座り込んでいた。喪失感に打ちひしがれてね。すると隣のテーブルに座る老人が話を strike up してきた」
パイ「さすがママジ。それが彼のやり方」
なぜ「coffee house」のまま?
「coffee house」は「coffin house」の駄洒落なんだ。
「コーフィー」と「コフィン」。
つまり「棺の収められた石室」という意味だね。
パイも作家も、ほんとにダジャレが好きなのね…
だけどこれって前にも聴いたことがあるような気がする…
トム・ウェイツの名曲『MARTHA(マーサ)』だ。
あの歌は、天国のイエスが、かつて親しくしていたマルタのことを思い出し、久しぶりに「電話をかける」という内容だった。
それでは隣のテーブルに座る老人による「strike up」とは?
「strike up」とは「歌を紡ぐ・音楽を奏でる」という意味…
つまり、作家が諦めてしまった「新しい物語」を、テーブルに座る老人が救ってくれて、「歌の続きのヒントを与えてくれた」という意味だ…
こんなふうに…
『空の石棺に嘆く女』
フラ・アンジェリコ
ああっ!石棺の上に座る天使!
この場面は天使が「嘆くな。あのお方に会いたければガリラヤの海へ行け」と告げる場面!
老ママジは「新しい物語」つまり「福音の歌」を完成させるためにイエスの墓の中に現れた天使なんだ!
だからママジは作家に「フレンチ・カナダへ行け」と告げたんだよ…
作家「僕が未完に終わった本のことを話すと、彼はこう言った」
” Canadian が物語を探して French India へ来た。しかし我が友よ。私は French Canada にいる Indian を知っている。世界で最も信じ難い物語を聴かせてくれる男を! ”
「カナダ人」と「旧フランス領」の使い方が天才的ね。
どうしてですか?
「Canadian(カナディアン)」は「Canaan(カナン)」の駄洒落なんだよ。
「カナン」とは、イスラエルの民が、神から与えられた「約束の地」のことだね。
そこも駄洒落?!
カナダも嘘だったの?!
だから何度も言ってるじゃないの。
『ライフ・オブ・パイ』は「嘘」が9割9分5厘6毛って(笑)
そして「フレンチ・インド」や「フレンチ・カナダ」というのは、かつてこの地にあった「フランス領」のこと…
1947年に国連で決議されたパレスチナ分割案には、旧フランス領の土地が含まれていたことは話したよね…
ガリラヤ湖の周辺は、かつてフランス領だった…
ああ…
すべてが、つながりましたね…
想像力と数百年…いえ、数千年の歴史が…
ぽえーん。
しげしげさん、シッ!
?
どしたの?
いや、何でもない…
そして作家は、最後に強烈なジョークをパイに投げつける。
作家「(ママジは言いました)”君たち二人は出会う運命だ” と…」
その言葉を聴いた瞬間、パイは固まってしまった。
確かにあの瞬間、パイは「ギクッ」として固まってたわね。
なぜかしら?
日本語訳の「君たち二人は出会う運命だ」では、わからない。
元のセリフ「It must be fate that the two of you should meet.」じゃないとね。
ちゃんと訳されてるじゃないの。
パイには「meet」が「meat」に聞こえたんだ。
「君たち二人は食肉にされる運命にある」とね。
うわ…
だからパイは、これから語られる物語に「人肉食」の要素を盛り込んだんだ。
つまり咄嗟のアドリブで話を作ったってこと?
いや。最初から「カニバリズム」の話はする予定だった。
一緒じゃないの?
違うんだよね。
詳しいことは、あの「人肉食の島」で説明しよう。
あの島が出てくるのは、まだ当分先のことですが…
いつになるやら…
ホントそうね…
ハァ… 今夜も長い夜になりそう…
そんな顔してタメ息なんかついちゃダメ!
え?
憂鬱な時ほど、楽しくなる歌を歌うの!
微笑は幸せを運んでくれる!
ハッピー・ブッディストの法則よ!
楽しくなる歌、か…
そうね…
歌ってみようかしら…
ん?
ピーチ... パイ...?
小さな私の… 宇宙はまわる?
つづく
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