「シマウマは水夫に非ず(AT THE ZOO 後篇)」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
(やるな… でもここからが本番だ…)
さて、ここからが本番よ。
この歌の最大のミステリー…
ゴクリ…
なぜ「動物園の歌」が…
「ハト」と「ハムスター」で終わるのか?
いくら考えても全然わからないわ。
ここに知恵が必要である…
え?
思慮のある者は…
獣の名にどのような意味があるかを考えるがよい…
動物の名前に?
(この女、できる!)
うふふ。じゃあ行くわよ。
まずは「Zebras」つまり「シマウマ」ね…
Zebras are reactionaries
シマウマは… 保守主義者…
どういうことでしょうか、文代さん?
あなた、海外はよく行くほう?
え?海外ですか?
いえ… あまり…
家族旅行で、グアムなら…
じゃあ見たことないかもしれないわね。
グアムで「シマウマになっている人」はいないでしょうから。
シマウマになっている人?
日焼けの跡のことですか?
「シマウマ」って、これのことなのよ…
あれ? 何だっけ、これ?
前にもこれを岡江クンから見せられた気がする…
ああ!「Tefillin」です!
テフィリン?
ラビと呼ばれる宗教指導者や敬虔な正統派ユダヤ教徒は、ヘブライ聖書『申命記』の一節「汝、全心、全霊、全力を尽くして汝の神、主を愛すべし」が書かれた紙片を収めた小箱と共に、腕を黒いベルトでぐるぐる巻きにするんです!
深読み探偵学校の講義「アートにおける宗教学」で習ったばかりだったのに!
『祈るユダヤ人(ヴィテブスクのラビ)』
マルク・シャガール
その通り。
お利口さんね。よくできました(笑)
あ、いえ、それほどでも…
(やはり「本物」か?よし、試してみよう…)
あの…
なあに?
『ライフ・オブ・パイ』では…
「仏教徒の水夫」が「シマウマ」に喩えられていましたが…
そうね。ハッピーブッディストさん。
彼は「保守的」でも「ユダヤ教徒」でもないですよね?
この歌が物語に影響を与えたというのは、少し深読みのし過ぎでは?
あらあら。ここにも「信頼できない語り手」に騙されてる人がいるわ。
もっともらしい他人の意見に惑わされず、自分の見たままのことを信じれば、シマウマは水夫じゃないってわかるはずなのに…
嵐で沈没する船の再現映像では「誰がシマウマなのか」ハッキリとわかるようになっていたのにね…
怖いわ、「誘導」って…
じゃあシマウマは誰なんですか?
パイのお兄ちゃんよ。
ええ!?
だけど彼だって「保守的」でも「ユダヤ教徒」でもないわ。
彼の名前、憶えてる?
「ラビ」っていうの。
あっ!
(間違いない。「本物」だ…)
次の動物に行ってもいいかしら?
あ、どうぞ…
次は「アンテロープ」。
Antelopes are missionaries
ポール・サイモンは「アンテロープは伝道者」と歌ったわ…
アンテロープって、鹿みたいな動物よね。
そう。これがアンテロープ。
特徴は、走る時に物凄い跳躍を見せること…
ああ!
『ライフ・オブ・パイ』のオープニングシーンそっくり!
3分1秒から出て来ます!
でもなぜ「アンテロープは伝道者」なのかしら?
捕食者が来たら、ひたすら逃げ回ってるだけなのに…
うふふ。
確かに「捕食者」が来た時「アンテロープ」は逃げたわよね…
ポール・サイモンの書く詩って、最高に知的で刺激的。
もしかして、また駄洒落ですか?
ううん。
今度はダジャレじゃなくて「アナグラム」みたいなやつ。
アナグラム?
「Antelopes(アンテロープ)」の中には…
「Apostle」つまり「使徒」が入ってるの…
まあ!
偉大な詩人は皆、アナグラムが好き…
たとえば、シェイクスピアの『テンペスト』における「CHESS」は…
英語の「SIX(シックス)」を意味するドイツ語「SECHS(ゼックス)」のアナグラム…
だから若い男女が、部屋に籠って、ずっと「チェス」をしていたんですよね。
シェイクスピアの時代は、村上春樹みたいに「セックスをした」と書けませんでしたから…
あら、お詳しいこと。
多くの作家がシェイクスピアの「チェス=セックス」をオマージュしていますからね。
サリンジャーは『ライ麦畑でつかまえて』で、そしてカズオ・イシグロは『夜想曲集』で…
カズオ・イシグロの場合は、ネタバレ覚悟で「メグライアンのチェス」を連発してたくらいです。
「MEG RYAN’S CHESS」とは「GERMANY'S SECHS(ドイツの6)」のアナグラムになっていますから…
うふふ。あなたも好きね。
そういえば『スリー・ビルボード』の「オスカー・ワイルドのコック」もそうだったわ…
「OSCAR WILDE COCK」は…
「COWARD LIES COCK(臆病者・複数回の嘘・雄鶏)」になっていた…
あらあら。下ネタになったら堰を切ったように…
「スナックふかよみ」はこうでなくちゃ(笑)
いよいよ残りは「鳩とハムスター」ですね…
ポール・サイモンが仕掛けた『AT THE ZOO』最大のミステリーです…
そう。まさに秘密の業…
動物描写の最後は、こうだったわね…
Pigeons plot in secrecy
And hamsters turn on frequently
ハトは秘密の悪だくみ…
ハムスターは子作りに励む…
何のことかしら?
単刀直入に言うと…
これのこと。
『受胎告知』
フラ・アンジェリコ
ああ!そうか!
「ハト」とは聖母マリアの胎内へ入って行った神の分身「聖霊」のことだったんですね!
じゃあ「神」が「子作りに勤しむハムスター」ってこと?
どうして神様がハムスターなの?
「アンテロープ」の時と同じトリック…
「hamster(ハムスター)」の中には「Master(主)」が入ってるの…
まあ!
わ、What a gas !
あら、あたしオナラなんてしてないわよ。
「What a gas!」は「超ウケる」って意味です。
ポール・サイモンも最後に歌ってたじゃないですか。
What a gas !
You gotta come and see at the zoo
そうなの?
あたし、てっきり「なんて臭いだ!動物園は屁の臭いがする!」って歌ってるのかと思ってた…
そういえば…
『ライフ・オブ・パイ』では、パイが「おしっこ」で馬鹿にされます…
もしかしてここからヒントを得たのかなあ…
ふふふ。妄想が元気に膨らんできたわね(笑)
だけど、まだ何か見落としていない?
『ライフ・オブ・パイ』的に、とっても大事なことがあるんだけど…
大事なこと?
Pigeons plot in secrecy…
「Pigeons」は…
秘密に包まれたプロットを練る…
ああっ!パイ!
何なの…これ…
いかがだったかしら?
サイモン&ガーファンクル『AT THE ZOO』と『ライフ・オブ・パイ』の深過ぎる関係は面白かったでしょ?
あたしの深読みは、楽しんでいただけたかしら?
はい。じゅうぶんすぎるほど…
うふふ。どうもありがとう。
だけどなぜポール・サイモンはこんな歌詞を?
何がしたかったわけ?
だって元々この歌は、マイク・ニコルズの映画『卒業』のために書かれたもの…
最後にダスティン・ホフマン演じるユダヤ人青年が、キャサリン・ロス演じるキリスト教徒の女学生の結婚式に乱入し、教会から連れ去って駆け落ちする物語よね…
ああ、そうだった…
『卒業』って宗教や文化の違いが絡んだ「かなりヤヤコシイ話」なのよね…
そうね。理想と現実は決してイコールではない。
昔も、そして今も…
だけど文代さん…
この映画のタイトルは『卒業』ですが、ダスティン・ホフマン演じる主人公ベンジャミンは、いったい何から「卒業」したんでしょうか…
そうね…
きっと正解はないんじゃないかしら…
え?
だって…
答えは1つしかないと決めつけることって、ちょっと怖いわよね…
作品を見て、みんなそれぞれが感じたこと、それが答えだと思うの…
それって「逃げ」じゃないですか?
違うのよ、大林少年クン…
え?
あなたはまだ若いから、わからないかもしれないけど…
人ってね、いろんなことを背負って生まれてきて、大人になったらなったで、もっといろんなことを背負って生きていかなければならないの…
・・・・・
だけど人は全能じゃない…
だから、そのすべてを背負い続けることは出来ないの…
どこかで何かを「卒業」しなければいけないのよ…
どこかで… 何かを… 卒業する…
僕を見ているとそう思えないかもしれないけど…
社会で生きていくって、いろんなことを妥協したり捨てたりしなければならないから、いろいろ大変なんだよ。
教官まで、そんなことを…
これは頭で考えてもわからないこと…
その時になってみないとね…
・・・・・
あなたは、燃えるような恋をしたことある?
大好きな人に抱かれて、その大好きな人と別れなければならなかったことは、あるかしら?
い、いえ…
そういうのは、まだ…
じゃあ、早くしたほうがいいわね。
そうじゃないと本当の愛がわからない…
そして愛がわからなければ、良い深読みはできない(笑)
急に卒業とか愛とか言われても、どうすればいいのか…
そんな時は歌うといいわ…
そういう時のために歌はあるの…
歌…
あなた楽器は?
一通り行けます。鍵盤が一番得意ですが…
じゃあ、壁際にあるエレピ使っていいわよ。
心のモヤモヤを、思いっきり吐き出しちゃえ(笑)
は、はい…
では…
つづく
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