第132話「Allergies」ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ①『深読み ライフ・オブ・パイ&読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
とにかく、いろいろ「いわくつき」のアルバムなのよ(笑)
だけどそこが、たまらなく好奇心をそそるのよね…
病みつきになる、というか…
実際、名曲揃いなんだけど。
ですね。
『HEARTS AND BONES』は、たった50万枚しか売れなかったのが信じられないくらいの傑作だと思います…
それでは1曲目から順に見ていきましょう。
まず最初は『Allergies(アレルギー)』から…
Paul Simon『Allergies』
初っ端から凄いタイトルね。
中々いないわよ、「アレルギー」なんて歌をアルバムの頭にもってくる人は。
だけどさ、何で邦題は『アレルギー』じゃなくて『アレジー』なのかしら?
英語の発音に寄せるなら、ちゃんと原題通りに複数形の「アレジーズ」にすればいいのに。
「~ies」の語尾で遊ぶ歌詞なんだから。
ですよね。
アルバムタイトルの方は「ハート・アンド・ボーン」ではなく「ハーツ・アンド・ボーンズ」と複数形にしてるのですからチグハグだと思います。
だけど発音通りのカタカナ邦題にするなら「アレジー」でも中途半端だよね。
ポール・サイモンも歌ってるように、ちゃんと「アラージーズ」にしなければ…
細かすぎ! もしかしてA型?
はい、A型です。ネズミ年で乙女座の。
いかにも細かそうね…
だけどね、これって大事なことなの…
結構というか、すっごく…
は? どうでもよくない?
よくないんだよね…
だけど今は、そこのところは置いといて…
この曲のイントロで聴こえてくる最初の声、つまりアルバム全体における第一声は、くぐもった感じで聴こえてくる不思議な声だ。
ポール・サイモン自身の内なる声なのか、それとも、人知を超えた存在の声なのか…
そんな感じの声だったわ。
そして「~ies」で終わる4つの言葉が並べられる。
Melodies
Allergies to dust and grain
Maladies
Remedies
Still these allergies remain
「Melodies」は「旋律」とか「快い調べ」でしょ…
「Allergies」は「アレルギー」つまり「過敏」とか「過剰反応」のことで…
「Maladies」は「病気」とか「弊害」…
「Remedies」は「治療」とか「救済処置」って意味よね...
そしてポール・サイモンは「まだアレルギーは治らない」と言う…
ポイントは、アレルギーだけ「what」が具体的に提示されていることだ。
ポール・サイモンは、自分のアレルギーが「dust」と「grain」に対してのものであり、それらに「過剰反応」してしまうと歌う。
粉塵と穀物アレルギーってことですか?
正確には「ちり」と「粒状の麦」への過剰反応だ。
「ちり」と「粒状の麦」…
なんか意味深な感じがするんだけど…
エイヤッ!
うーん…
やっぱり、あたしの考え過ぎかなあ…
深代ママ!
ハッ…
あたしったら、どうしたのかしら…
絶対に意味深。ポール・サイモンは、何か他のことを言っている…
その通り。
「ちり」とは、旧約聖書にある「ちりから生まれ、ちりにかえる」のこと…
そして「粒状の麦」とは、新約聖書にある「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、死なば多くの実を結ぶべし」のこと…
つまりイントロでポール・サイモンは、
「キリストへの過敏反応は、まだ治らない」
と歌っているんだ。
このアルバムについての所信表明みたいなものだね。
いきなりコレですか…
さすがパイのモデル…
パイもずっとキリストに夢中だったもんね…
そしてイントロが終わると1番が始まる…
こんな出だしだ。
My hands can't touch a guitar string
My fingers just burn and ache
訳すとこんな感じ?
僕の手はギターの弦に触ることが出来ない
指はまるで焼けただれたようにビリビリ痛む
かなり重症ね。
これ、何のことを言ってるか、わかる?
え?
アレルギーのせいで手が腫れて、ギターの弦を押さえられないってことじゃないの?
『くもりときどきミートボール』のサムみたいになっちゃって。
そうじゃないんだな…
「アレルギー」だから「手」で弦が押さえられない、つまり「ネックを握ることが出来ない」という意味なんだよ…
あたしもそう言ったじゃん。
この歌における「アレルギー」とは何のことだった?
え? キリストへの過敏反応…
そう。
ポール・サイモンは、こう歌っているんだ。
「僕は”キリスト病”だから、手でネックが握れない」
つまり、この状態のことを言っている。
ああっ!
『十字架のキリスト』ガブリエル・ヴューガー
確かにこの状態なら「指はまるで焼けただれたようにビリビリ痛む」はずですね…
なにせ太い釘が手のひらを貫通しているのですから…
そしてポール・サイモンは、こう続ける…
僕の頭は肉体的欲求を抑えようとする
だけど体は欲求を止めてくれない
これは何のことを言ってるのか分かるかな?
頭では止めようとしても体が言うことを聞かないって…
なんかヤバいやつ?
わかった!
「自分の意思では止められない肉体的欲求」とは、イエスが十字架で語った7つの言葉の1つ「I thirst」...
つまり「私は渇いた」よ!
なぜなら、父なる神の計画に書かれていたセリフだから!
その通り。
そして、続けてこう歌われる…
僕の心はどんな苦難にも耐えることが出来る
僕の心はどんな恥辱も受け入れることが出来る
まさにキリストです。
そして1番の最後に、ポール・サイモンの本音が吐露される…
あらゆる苦しみをひとりで背負ったキリストに憧れるポール・サイモンにも、制御できないものがあったんだ…
But my heart is allergic to the women I love
And it's changing the shape of my face
僕が愛する女性…
つまりキャリー・フィッシャーのこと…
顔が変形してしまうくらい大変だったのね。
あの感じなら、何となく察しはつくけど…
自由奔放なお嬢様(27歳)に振り回される、人のいいおじさん(42歳)って感じだもん。
ちなみに「Allergies」で「顔が変形する」というのは…
この後に始まるサビの伏線になってるフレーズでもあるのよね…
え?どゆこと?
サビは、ポール・サイモンの、こんな叫びで始まる…
Allergies!Allergies!
Something's living on my skin
アレルギーだ!アレルギーだ!
何かが僕の肌に巣食っている!
って感じでしょ?
ポール・サイモンの皮膚に巣食ってる「何か」のせいで「顔の変形」が生じたってこと?
「アレルギー」とは「キリストへの過敏反応」でしたよね。
だから「アレルギー」ではないんだよ。
すみません。邦題では「アレジー」でしたね。
そうじゃない。
ポール・サイモンは「キリスト」が「Allergies(アラージーズ)」だと歌っているんだ。
「アラージーズ」だから「顔の変形が生じてしまった」と歌っているんだよ。
何を言ってるのか全然わかんないわ。
「Allergies」は「Al ler」+「gies」なんだ。
アル・ラー?
英語にすると「The God」、つまり「唯一神」という意味。
この「アル・ラー」は普通、縮めて発音するから「アラー」となる。
うそ…
つまり…
「Allergy」ではなく「Allergies」と複数形だったのは…
「神」が「二人いる」ということ…
その通り。
旧約に出てくる「老人の姿をした厳格な創造神」と、新約に出てくる「若いイエスの姿をした愛の神」…
救世主キリストとは、創造神が聖霊となって人の子イエスの中に入っている状態だから、この両者のどちらでもあるといえる…
そしてイエスは天に引き上げられて、神の右に座した…
本来「唯一」であるはずの神が姿かたちを変えて「二人」いることを、ポール・サイモンは「Allergies」という言葉で言い表し、そのせいで「顔が変形した」と歌ったわけだね。
『聖三位一体』アントニオ・デ・ペレーダ
なんでそれがキャリー・フィッシャーと関係あるの?
彼女はユダヤ教徒の父とキリスト教徒の母の間に生まれ、敬虔なクリスチャンだった母方の祖父からミドルネーム「フランシス」を引き継いでいた。
ユダヤ人家庭に育ちながらキリストに夢中だったポール・サイモン同様に、彼女もまた「Allergies」だったわけだ。
なるほど…
それでアルバムの1曲目にこんなタイトルの曲をもってきたわけね…
やっとポール・サイモンの意図がつかめたわ。
だから2番では、こんなことが歌われる。
僕は有名な医師に診てもらった
とある町のホテルの一室で
僕と似たような人たちの様子を見る限り
症状はよくなりそうだけど
完治はしないみたいだ
100%スッキリとした答えは出ない、ということですね…
そしてポール・サイモンは、2番をこう〆る。
とてもユーモアたっぷりにね。
So I ask myself this question
It's a question I often repeat
Where do allergies go when it's after a show
And they wanna get something to eat?
もうわかった!こうでしょ?
だから僕はよく
自分にこんな質問をしてみたりする
最後の審判が終わったら
二人の神はどこへ行くんだろう?
「ちょっとメシ屋でも行く?」
みたいな?
救世主メシヤだから飯屋ってオチ!
なんで日本語の駄洒落なのよ…
それじゃあ小説版『ライフ・オブ・パイ』のオチじゃん…
「神を信じるようになる話」であるパイの物語を聞いた日本人チバが、上司のオカモトに「腹が減りました。メシヤに行きましょう」って…
うふふ。
このアルバム『HEARTS AND BONES』には、日本のことを歌った曲もあるのよ…
ええっ!?そうなの?
パイのモデルはポール・サイモン…
『ライフ・オブ・パイ』は、ポール・サイモンの物語…
どっちも謎のトラだし!
しかも、この「阪神タイガースの帽子を被るポール・サイモン」という有名な写真は…
ポール・サイモンが、長い長い旅を経て、新婚旅行先のビーチで撮影されたもの…
そして「虎」と「ビーチ」といえば…
ライフ・オブ・パイ…
なんだか…
ホントに全ての謎が、解き明かされそうな気がしてきた…
「解き明かされそう」じゃなくて「解き明かされる」んだよ。
このアルバムによって。
やっぱりこのアルバムのタイトル、『HEARTS AND BONES』じゃなくて『THINK TOO MUCH』のほうがよかったんじゃない?
1曲目からポール・サイモンの「考え過ぎ」が炸裂しまくり。
僕もそう思う。
それでは次の曲へ行こうか。
2曲目は問題の、表題曲になってしまった『ハーツ・アンド・ボーンズ』だ…
つづく
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