ノーランと宮崎駿【第3話】テルーの唄、前篇(『ゲド戦記』より)
あと3曲ほどあるんだ。
『インターステラー』を完成させるために必要な歌が…
さ、三曲も…?
あ、あの…
いったい皆さん、さっきから何の話をしてるんですか…?
……
えーとね…
君が未来において作ることになる映画の話だよ。
宇宙物の映画なんだけど、日本以外の世界中で大ヒットして750億円くらい稼ぐ。
あ"あ"あ"~~~!!!
少しは躊躇せえ!
タイムトラベル物の基本中の基本!
ボ、ボクが…映画を…?
しかも世界的大ヒット…?
うん。2010年代において、君は世界最高のヒットメイカーなんだ。
40代にして既に「巨匠」なんて呼ばれてる。
ボクが…巨匠…
オイラ知~らない!
おかえもん、タイムパトロールに逮捕やな。
ぼんが来るで、ぼんが。
いいんだよ。
僕が言わなかったとしても、彼は必ず未来において映画監督になり、傑作を連発して「巨匠」と呼ばれることになるんだから…
あ、あの…
今は何年ですか?
2017年や。
47歳のあんさんは、またもや最新作を世界的にヒットさせとる。
ダンケっちゅう映画なんやけどな、今日(9/24)の時点で、ざっと570億円ほど売り上げとるな。
あんさんの取り分は興行収入の20%っちゅうハナシやさかい、ガッポガッポのウッハウハやで!
2017年…
君は『魔女の宅急便』が公開された1989年から来たんだよね。
はい…
あ、あの…ちょっと聞きたいことが…
大丈夫。君の大好きな宮崎駿は、まだ存命だ。
ここ15年ほどは引退宣言と復活宣言を繰り返してるんだけど、なんだかんだで元気に新作を発表している。
怒りのパワーも健在だ。だから安心していいよ。
そうでしたか…
よかった…
クックック…
でもショッキングなことも起こるんやで。
あと10年ちょっとしたらボンが美術館つくってな…
そんでまたボンの手で『ゲド戦記』が…
ばかっ!
それは言っちゃダメ!
美術館…?
息子の手で…ゲド戦記…?
聞かなかったことにしといたほうがいいよ…
ホラ、いろいろ気になっちゃうでしょ…?
・・・・・
クリストファー、確か君は『ゲド戦記』の大ファンだったよね?
こいつマジ空気読めない男!
はい…『ゲド戦記』はボクにとって宮崎駿と匹敵するくらいの憧れです…
宮崎駿の息子である吾朗氏が、2006年に初監督作品として発表するんだよ…
『ゲド戦記』をね。
宮崎駿の息子…吾朗…?
初監督作品…?
は、初めて監督した作品が『ゲド戦記』なんですか!?
そう。吾朗氏は映画に初めて関わった仕事が、いきなり『ゲド戦記』の監督だったんだよ。
君が居た時代では、吾朗氏はちょうど信州大学を卒業して、ランドスケープアーキテクトとして公園緑地や都市緑化などの計画・設計に従事し始めたところだった。
そして30歳くらいの時にジブリ美術館プロジェクトを任され、そのまま館長となる…
ジブリ美術館の…館長?
それを君は映画の中で「雪山の要塞」に見立てて破壊する。
こんな風に…
ボクが…破壊…?
そう。「父の真似をせずに自分の道を進め」というメッセージを込めてね。
建物のバックに雪山がわざとらしく合成されているのは、吾朗氏を想起させるためだ。彼は高校時代に山岳部だった。だから大学は信州大学へ進学したんだ。あの山は「日本アルプス」なんだね。
・・・・・
しかしそんな君のメッセージは届かなかった。
世界で900億円の興行収入を上げて、何千万人もの人の目に触れたのにね…
誰一人として気が付かなかったんだよ。君の演出家としての腕が上手すぎたんだ。皮肉だね。
そして吾朗氏は、父の会社の全面バックアップで監督デビューも果たす。
そんな…有り得ない…
それは宮崎駿の指名だったんですか?
まさか。ジブリ社の鈴木敏夫氏の抜擢だよ。
父である宮崎駿は激怒したんだ。
君同様に「有り得ない!」ってね(笑)
・・・・・
君も『ゲド戦記』の映画化を夢見てるんだったよね?
ハァ!?
しかも子供のころから、ずっと…
はい…
でも、どうしてそれを?
ええ~~~!?
そうなのか~~~!?
君は将来「俺のジブリ美術館」計画の他に「俺のゲド戦記」計画ってやつを実行に移すんだ…
お、俺の、ゲゲゲ…ゲド戦記計画ぅ~~!?
ボクが…ゲド戦記を…?
そう。
まず君は『ゲド戦記』第1部「影との戦い」を、『インセプション』という映画にする…
ファッ!?
第1部「影との戦い(A Wizard of Earthsea)」は、ゲド(ハイタカ)の少年期から青年期の物語だったね。
ゲドは才気溢れる少年だったが、ライバルよりも自分が優れていることを証明しようとして、ロークの学院で禁止されていた術を使い、絶世の美女を死者の世界から呼び出す。だけどその時に「影」も一緒に呼び出してしまうんだ。ゲドはその影に脅かされ続けるが、師アイハル(オジオン)の助言により自ら影と対峙することを選択する。
だけど当時ゲドは「クモ」と呼ばれる男を黄泉の国に連れて行くという失敗を犯していた。「クモ」は死者を甦らせる術を無法図に使っていたんだ。深い考えも無しにゲドがやってしまったことが、後に大きな悪夢となって降りかかってくるんだ。
「クモ」って…英語版の「Cob」のことですか…?
そう…原作の英語版では「コブ」と呼ばれる男だ。
そして君は「ゲド」と「クモ」のキャラクターを合体させた「ドム・コブ」という人物を作り出し映画『インセプション』の主人公とした…
ゲドの師アイハルは、ドム・コブの師であり義父でもあるマイルス教授だ…
マジかよ…
インセプション…
そして君は『ゲド戦記』第2部「こわれた腕環」を、『インターステラー』という映画にする…
第2部「こわれた腕環(The Tombs of Atuan)」は、親と離ればなれになった選ばれし少女テナーとゲドの物語。
少女テナー(アルハ)は「名なき者たち」に仕える巫女達によって親から引き離され、名前(自己)を奪われ、地下神殿の闇の中で大巫女として育てられた。そこに、二つに割られ奪われた「エレス・アクベの腕輪」(銀製)を本来あるべき場所に戻し、世界の均衡を回復しようとする大魔法使いゲドが現れる。ゲドたちによる腕輪奪還と「名なき者たち」との争いの過程で、ついに地下神殿は崩壊する…
少女の「自己の回復」と「魂の解放」の物語でもあり、ゲドとテナーの信頼、そして愛情の物語でもあるんだ。
「二つに割られた腕輪」って「ペアの腕時計」のことじゃんか…
そして「地下神殿」の「名なき者たち」って「地下で密かに活動していたNASA」のこと…?
「少女テナー」って「マーフ」そのまんま…
「大魔法使い」になったゲドって、人類史上初めて「すっごい魔法」を使ったクーパーだよ…
インター…ステラー…
さらに君は『ゲド戦記』第3部「さいはての島へ」を、『ダンケルク』という映画にする…
世界の均衡が崩れて魔法使いが次々と力を失う中、エンラッドから急を知らせて来た若き王子レバンネン(アレン)と共にその秩序回復のため、船に乗って世界の果ての島まで旅をする大賢人ゲドの物語だ。
でも、世界の均衡を破壊したのは、他でもない、かつてゲドが自分自身で誕生させてしまった怪物「クモ」だったんだよね。
ちなみに原題は「The Farthest Shore」、つまり「遠い海岸」…
映画は現在公開中なので、これ以上詳しい内容は差し控えよう。
世界の均衡が崩れるって…
力を失った魔法使いたちを救うため、船で「遠い海岸」を目指す大賢人ゲドと若きレバンネンって…
しかも諸悪の根源が、そもそもゲド自身が過去に生み出してしまったものだったなんて…
いろんな意味で深過ぎて、ダンケそのまんまじゃんか…
君がナチスドイツを「絶対悪」として描かなかった理由を、多くの人が感じ取り、理解してくれるといいよね…
ダンケルク…
ではボクは…『ゲド戦記』三部作を「俺のゲド戦記」として立派に完成させるんですね…
いや、これで終わりではないんだ。
1989年の君は知らないだろうけど、『ゲド戦記』は翌年、つまり1990年に18年ぶりの新作が発表される…
第4部「帰還」だ。
ええっ!
第4部「帰還(Tehanu, The Last Book of Earthsea)」は、魔法の力を失った後の物語…
壮年期のゲドは先の旅で全ての力を失い、大賢人の地位を自ら降りて故郷の島へ帰る。第2部に登場した少女テナー(ゴハ)は成長して未亡人となっており、親に焼き殺されかけた所を危うく救われた少女テハヌー(テルー)と生活していた。ゲドはテナーとテハヌーと生活を始める。ところが元大賢人と元巫女という存在は、故郷の一般の魔法使いにとっては目障りでしかなく、3人の「弱き者」たちは悪意に満ちた暴力に襲われてしまう…
魔法の力を失った後に見えて来るアースシーの世界を覆う価値観とは、一体何なのか?それを作者が読者へ問いかけるフェミニズム色の強い作品だ。
これって『インターステラー』にも入ってるよね?
・・・・・
そこまで言って委員会の招集だ!
さらに2001年には第5部「アースシーの風(The Other Wind)」が発表される。
かつてゲドと共に旅をし、アースシーの王となったレバンネン(アレン)や、ゲドの妻となったテナー、その二人の養女となったテハヌー(テルー)を中心にして物語は進んでゆく。
竜や異教徒のカルガド人によって、従来の正義であった「真の名」という魔法の原理への批判が行われ、これまで作り上げられてきたアースシーの世界観を根本から壊していくような物語構造となっているんだ。
「女の大賢人」の可能性や「世界の果てにある理想郷」、また「死生観への再考」、長年敵対していたカルガド帝国との「和解」も暗示。テハヌーと竜との関わりも明らかにされてゆく…
実は僕、『ゲド戦記』を読んだことないんだ。これ全部ウィキペディアの受売り(笑)
でも第5部も『インターステラー』に入ってることくらいは僕でもわかる。
『ゲド戦記』第2・4・5部を合わせた物語が、君の『インターステラー』なんだ。第3部も結構入ってるけどね…
……
ボ、ボクは…
なんて…
わかる。あまりの衝撃で言葉も出んよな。
違います!
ボクは…なんて…
面白いヤツなんだぁ~~~!
ズコっ!
『インターステラー』には、君の『ゲド戦記』への想いが「これでもか」ってくらい詰め込まれている。
相当ショックだったんだろうね、宮崎吾朗監督の『ゲド戦記』が…
そして…
彼から叩きつけられた「挑戦状」が…
ちょ、ちょ、ちょ、挑戦状!?
憧れの宮崎駿の息子吾朗氏からの…挑戦状?
そう…
未来の君は、宮崎吾朗監督が『ゲド戦記』の主題歌として自ら歌詞を書き下ろした『テルーの唄』を、君への挑戦状であると受け取ったんだ。
ええ~~~!?
この感動的な歌が~~?
サム・山下歩・財部亮治『テルーの唄』
この歌が…
ボクへの…挑戦状?
第4話へつづく…
紹介した映画の視聴はコチラ
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