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2024年J2第18節横浜FC-愛媛FC「君は生き延びることができるか」


その左足に口づけを

ゴールを挙げた櫻川がセレブレーションの次に向かったのは、座り込んでいた福森の元へ。福森が立ち上がり左足を櫻川の膝の上に置くと、靴磨きのパフォーマンスと思ったら、さらにキスまでも。きっとそれは留まらない程の感謝と歓喜がそこにあったのだろう。苦しんで苦しんで最後の最後にもぎとった勝利だった。

勝った者が強い

前半開始2分伊藤翔が抜け出してGKとの1対1を迎えた。このシュートは枠を捉えきれず外してしまったが、試合序盤から横浜がこのシュートがまるで攻撃開始の狼煙のように一気呵成に攻めたてた。コーナーキックを獲得する、シュートを放つ。横浜が優勢だったはずが、徐々にバランスが悪くなる。「いつか得点できるだろう」というような、雑な組み立てでチャンスを自分たちで潰せば次第に愛媛ゴールが遠くなっていく。その余裕が逆に仇となった。

前半36分愛媛がカウンターから松田が持ち上がり、左サイドの石浦にパス。彼はボールをキープするのではなく、ファーサイドにグラウンダーでボールを流し込んだ。虚を突かれたのかこれを市川は弾いてしまう。そのこぼれ球に詰めたのが窪田だった。愛媛に先制を許す。

シュート数も差があったし、優位に試合を進めていた時間はあった。が、試合終了まで何があるのかわからないのがサッカー。強いチームが勝つのではなく、勝ったチームが強いのである。清水、甲府に連勝してさらに順位が下の愛媛に序盤から攻勢でチャンスも多かった。それで浮かれていた自分たちの頭を後ろから殴られたような気分だった。

再び狼煙を上げる

後半開始から櫻川と室井を投入。伊藤が前半アディショナルタイムに×を出していて、交代の予兆はあったが前半で交代させてしまうと交代権を一つ消化してしまう。ハーフタイムを除いて3回という交代ルールなので、出来れば4-4-1にしてでもハーフタイムまで逃げてほしいと思っていた。

室井は好調なのだろう。小川慶治朗もベンチ外にして休ませられるのも彼が復帰できた効果だ。四方田監督曰く櫻川と室井はコンビネーションが良いのでと1セットで見ているようだ。

後半立て直したのは横浜。ユーリからカプリーニにパスが出るが、ここで愛媛のプレスにハマってボールが出せないところを山根が回収して前進。何度かトラップしても愛媛の守備陣がプレスに来ないのを見て、思い切り右足でシュートを放つとゴール上段右隅に突き刺さった。

同点になってからの横浜は見違えた。さらに中村と井上の投入は、勢いを加速させた。井上は効果的なプレーは少なかったが、スタメンを外れてベンチからの出場になったことでボールへの執着心が増しているようだった。その気持ちが最後に身を結ぶ。左右で縦方向への侵入が増えたことで愛媛としてはディレイしながら中央を固める方向に転換せざるを得なかった。

試合残り10分、愛媛・菊地のシュートをGK市川がナイスセーブしたところからは横浜の時間だった。ただ、櫻川がゴール上方を狙ったヘディングも中村のミドルシュートも徳重に阻まれてゴールを割れない。清水や長崎がまず負けないことを考えると、どうしても勝ち点3が欲しい。引き分けではまた離されてしまう。

室井がニアに飛び込んだヘディングも跳ね返される。最後は左から福森の良質のキックに活路見出し、井上が裏のスペースに飛び出してクロスを上げてコーナーキックとなった。

平和への戦いを

コーナーキックは13本を数えた。アディショナルタイムは掲示された5分を過ぎていた。スタジアムMCは「さぁみんなで、みんなで」と煽る。より一層大きくなる声。福森が蹴ったボールはゴールから逃げていき、これをファーサイドで待っていた櫻川がヘディングで捉えた。これまでと違って真下に叩きつけるでもなく、ストレートに当てるでもなく、ファーからニアサイドに対角線で流し込む。バウンドしたボールは徳重の手をすり抜けてゴールに転がっていった。2-1。土壇場で横浜が逆転ゴールを挙げたのだった。

そして試合は直後に終了。劇的な形で勝ち点3を手にいれた。終盤はスタンド中が櫻川にゴールを取らせたいと願っていた。

福森のキックも大抵は櫻川の頭を狙っていた。みな櫻川の身体能力はわかっている。その使い方がよくないからゴールをちゃんと奪えないでいる。清水戦の伊藤のゴールも櫻川のヘディングがミスショットになったのを後ろから詰めていたから良かったものの、本来は櫻川のヘディングのゴールでクローズしていないといけない。クラブとしても、中村や福森がクロスの練習に付き合えば、その伊藤もゴールをとるために必要なコツを伝えている。偉大なストライカーはそれだけで価値があるのだ。サッカーはゴールを奪うスポーツなのである。
今横浜はJ2で最も硬い盾を持っているが、剣はどうだ。森の今季絶望の負傷で高橋が加入したが爆発するには至っていない、夏にはオリヴィエレンセからリマが加入するが未知数である。現在手元にいる選手を底上げしないと昇格には程遠い。みんな櫻川に期待している。

「ソロモン」とはヘブライ語で「平和な人」の意。(自分も含めて)身体が大きい人は優しいの定説の通り、彼は優しく穏やかであるがプロサッカー選手として競技中もそれではいけない。リーグ戦38試合はいわば街同士の戦争でもある。昇格もあれば降格もある。戦わないといけないのだ。

「悲しいけど、これ戦争なのよね」

そんな言葉を残した彼も、ソロモン攻略戦で命を落とした。戦うのは横浜がJ2を平定するため、平和のための戦いだ。この乱世のJ2に終止符を打てるかどうか、櫻川ソロモンにかかっている。

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