見出し画像

2022年J2第32節横浜FC-ファジアーノ岡山「山」

2022年J2の夏の最大の上り馬といえば、長崎と岡山である。長崎は5月25日の千葉戦以降11試合負けなしを記録。松田監督が交代となりカリーレ新監督になっても、勝ち点を順調に積み重ねていた。その長崎はここ2戦で連敗して昇格レースから一歩後退。すると今度は7月負けなしで4位を保っていた岡山が存在感を大きくする。岡山は私が今年の昇格争いで注目すべきチームの一つで、柳とバイスの固い守備とオーストラリア代表デュークとチアゴ・アウベスの強力な2トップ、そして経験豊富で手堅い木山監督のサッカーは大崩れしにくいだろうと考えていた。3月のアウェイ岡山戦でも岡山の守備陣をこじ開けることは難しく、ヴィゼウのバックヘッド気味のゴールで同点にするのが精一杯。2022年のJ2も佳境を迎えて、まだまだ昇格争いの上位のライバルチームとの戦いが残っていると思うと、厳しい反面楽しみにしている自分もいる。

その岡山に激震が走る。トップチーム6名が試合当日に新型コロナの陽性反応ありとして出場できなくなった。1位と4位のゲームで、欠場が何人も出るのは喜ばしいことはではない。どうせゲームをするならコンディションの良い者同士で戦いたい。
横浜も先日のいわて戦で指揮官を含み何人も新型コロナの影響で欠場し0-3と完敗したが、だからと言って新型コロナの感染者が出て普段のスタメンが何人もいなかったから勝てないのは、選手層が薄いか起用方法がよくなかっただけだろう。それは岡山も同じ。主力と目される選手が何人もいないが、それはそれでしかない。モチベーションを上げる為に、横浜を目の敵にされても困るし、悲劇の主人公を演じられても共感はできない。

今夜が山

手負いの雉でも気を抜くとやられてしまう。逆に新型コロナを乗り越えようと気持ちが一つになることもある。先日のルヴァンカップの福岡神戸戦も福岡は新型コロナの影響で控えのメンバーがフルで揃わないばかりかGK2人が控えに入って試合を行ったが、それでも2試合とも神戸に勝利。逆境を乗り越えようとする気持ちが相手を上回った例だ。横浜としてはそうした相手の気持ちを正面から受け止めず淡々と自分たちのゲームを進めたい。岡山との勝ち点差は9。消化試合数に差があるので一概に比較できないがそれでも横浜が勝利すれば勝ち点差12となる。このゲームは岡山との差を2桁に広げる大事な試合。

前半開始直後に小川が抜け出してGKと1対1を迎えたり、伊藤のシュートがポストを叩いたりと横浜が主導権を握ってゲームを進める。特に伊藤が相手のセンターバックにプレッシャーに行くことで横浜はプレス開始。岡山を追い込めている。センターバックに入ったガブリエウが出色の出来。高さのある岡山・デュークとの空中戦を制して岡山にボールを渡さない。

また前節の群馬戦で低調なパフォーマンスに終わった田部井も、バランサーを脱して岡山のプレスの間でボールを受けて良く立ち回っている。群馬戦で苦戦したのは、彼が和田と同じ様にバランサーになってしまったこと。何度前線の選手が彼の名前を呼んだことか。ボールをつなぐのが目的ではなく、つないだ先に何をしたいのか。その反省がこの試合ではあって、群馬と違って敵陣でプレスが激しいことが逆に自分の立ち位置を見つけたのかもしれない。守備でもスライドしてしっかりとブロックを作れたことで岡山の攻撃を遮断できた。高校でも大学でも日本一になったボランチの存在感が垣間見えた。

新潟、仙台との対戦を終えている横浜にとって、プレーオフ圏内の戦いをしているチームを退けることが昇格への近道になるが、それは一番厳しい戦いでもある。逆に考えてみると、そうした剣が峰に立ち続ける状態が良い集中力や緊張感を保てていると言える。

想像通り後半は岡山のペース。ただ夏前の試合みたく飛ばし続けて後半バテて動けなくなるほどではない。岡山の力任せの攻撃にひるまないが、自陣でゲームを進められる。横浜にとって14ゴールのチアゴ・アウベスや30試合出場の田中雄大の不在も大きかった。2020年から拡大した新型コロナの影響もあって、負傷や累積警告による出場停止だけではなく、この感染状況によって突然の欠場を余儀なくされるのを前提に采配や起用する監督は大変だと思うのそれでも岡山は非常にタフで横浜ゴールを何度も強襲した。

でもこの試合を決めたのは一瞬の出来事だった。

山が動く

今シーズンの横浜が得たPKはたったの1。横浜のPKの数が少ないのは目指しているサッカーの形が明確だからだろう。サイドから前線のストライカーにクロスをいれて合わせるのがメインで、その形では相当に引っ張られたり突き倒されたりしない限りPKをもらえることはない。また前線のストライカーはそれをしっかりゴールにしていたらPKの数が増えないのは仕方ない。
また、カウンターでボールを低い位置で奪ってもいったん収めて味方の上りを待っていると相手も戻ってブロックを敷いてそこでポゼッションをとってゲームを作り直したりする。カウンターは中々見られずよく言えば現実的に自分たちのサッカーを丁寧に作ろうとするといえるし、悪く言うとチャンスがあってもリスクを極力減らして自分たちの形以外では速攻をしないとも言える。横浜はショートカウンターからの敵ペナルティエリアへの侵入が少ないと思う。そういった部分もPK獲得数が少ないことを示していると感じていた。

後半24分岡山のコーナーキックのこぼれ球を山根がトラップし、足元に収めず前に転がして相手を引き離そうした時にこれは山が動くと確信した。実際山根が縦に持ち込み、右サイドを山下が走る。山根は斜めに山下にパス。山下は岡山GK堀田の手を弾くシュートをゴールに突き刺した。

やはり山下が輝くのはスペースがあるところでのキレ味勝負。対面する相手がいるところで瞬発力勝負になりやすいサイドは本職ではないだろう。私はこれが見たかった。シーズン前から彼をサイドに置くのは違うと考えていたし、何度かスペースでもそう話していた。

チャンスがあれば縦にいける勇敢さこそアウェイ群馬戦で横浜が山根にうけた衝撃だったはず。中村拓海も山根が持ち上がると理解して外側のレーンを走り続けたことで、岡山の一人残っていたDFは山根にプレッシャーを掛けると外側を使われるので真ん中にポジションを取らざるを得ず、反対に山下へのパスに反応が遅れた。
試合の終盤でボールをつながず一気にカウンターでゴールを目指す新しいスタイルを手にいれたのも大きい。勝利のためにシステムを遵守するのは大切だが、プレーをするのは選手自身。むしろこれを狙って山根を獲得したともいえる。横浜の両端に広がる小さくて大きな山が動いた。

山が見えるか

失点した後に岡山は攻撃的なカードを切り続けた。横浜もあわやというシーンを作られたがブローダーセンのファインセーブで凌いだ。アディショナルタイム5分を逃げ切り、横浜は4位岡山を下した。新型コロナに選手が感染して主力選手が何人も入れ替わった岡山は、その衝撃から一つになりかけたが、横浜はそういった相手に苦戦しつつも中々ないショートカウンター1本で仕留めた。この日仙台も群馬に敗れて3位までとは勝ち点差8。実質3試合差がある。これで楽になったかといえばそうでもなく、プレーオフ出場を目指してモチベーションの高い5~9位のチームとの対戦を残している。この勝利で楽になったという意見もあるが、残り10試合で勝ち点差8をひっくり返されない保証はどこにもない。まだ山は見えないでいる。


この記事が参加している募集

スポーツ観戦記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?