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2024年J2第24節水戸ホーリーホック-横浜FC「夏の水戸はご用心」

リーグ戦8連勝で水戸に乗り込んだ横浜。それまでのチーム記録だった7連勝を記録したのは、2019年。その2019年の7連勝を止めたのは水戸だった。
初のJ1昇格を達成した2006年、開幕戦限りで足達監督が解任されその後昇格した高木監督が率い15試合無敗、継続していた無失点記録を770分で終わらせたのはこれまた水戸である。(J2の連続無失点時間の最長記録は今でもこの770分である。)
前回の水戸戦の観戦記では対戦成績が開きつつあると書いたが、夏の試合ではそう簡単に勝たせてくれない。チーム記録の9連勝がかかる相手は「ここぞ」という時に足止めを食う難敵の印象である。


草野が笑っている

不思議な感覚である。2019年横浜に入団してから、2019年柏戦、2020年FC東京戦と数々の印象的なゴールを残した草野がキャプテンマークを巻いて相手サイドにいる。その彼のJリーグ初ゴールもここ水戸でのゲームだった。あの試合も引き分け。

後半12分の彼のゴールは試合を動かした。横浜は簡単に右サイドの突破を許し、カバーに来たボニフェイスがマークを外した草野に先制点を決められてしまう。横浜にいた時、彼がゴールを決めたら負けたことがなかった。ただゴールを決めるだけでなく、勝負強さを持っている彼のゴールは嫌な予感しか生まなかった。そしてこれが今シーズンリーグ戦初ゴール。横浜戦への恩返し弾のために取っていたようなゴールとなった。

J2クラシコ

私は勝手に水戸との試合を「J2クラシコ」だと思っている。相手チームの選手紹介で、横浜ゴール裏が横浜所属経験のない選手で拍手するのは水戸GK本間の時だけだろう。試合後本間も横浜側のシートの近くに引き上げて来るときに手を合わせるなんて、「引き分けてごめんね。こっちも負けられないのさ」と言っているかのよう。怨嗟にまみれたドロドロした因縁の試合も緊張感があって楽しいが、(JFLでの試合含めて)対戦が60回近くになるいつもの対戦も趣がある。

とは言っても試合は熱い。特にこの日は、水戸が3バックとシステムを変えて臨んだことでミラーゲームになり、横浜としてはやや想定外の動きに戸惑ったか試合開始序盤は相手を中々捕まえきることが出来ず度々ピンチを招いた。ただ、そうしたピンチも水戸の最後の精度の低さにも助けられ失点は免れた。

逆に山根が欠場した横浜の右サイドは攻撃の形が作れなかった。カプリーニと中村のコンビでは呼吸が合わず、チャンスらしいチャンスも少ない。中村は山根のように激しく上下動を繰り返すタイプではなく、機を見て飛び出してクロスを上げるタイプで飛び出す素振りがないとカプリーニも右サイドを使えなかった。
前節の秋田戦でスタメン起用された櫻川はそれまで好調を維持していた点と秋田のとにかくロングボールに徹底する方法なら前線からプレスを頑張る髙橋では体力を消耗するだけなので、最前線にポストプレーヤーを置く選択をしたものだと思っていた。
水戸は、低くからサイドにビルドアップしてくるので、櫻川では彼の背後のプレスバックは届かず水戸に中盤でボールを動かされてしまっていた。
攻撃では櫻川が中野のクロスにヘディングであわやというシーンを作ったが、前半の中盤以降水戸のボール回しに慣れてきた横浜のチャンスはそのくらいしかなかった。

J2クラシコの中で水戸ホームの試合で一番多いのは、引き分け。今日も泥試合で引き分けてしまうのか。

雨の中で

後半12分、水戸が縦につけたパスをカットしようとしたガブリエウが水戸・落合にはがされそのまま横浜陣内に持ち込まれ水戸・新井につながる。ディレイしようとした中村が軽く交わされて、ボニフェイスが対峙する前にクロスを入れられる。草野の足元にボールは渡ったが、逆足についた。横浜が止める唯一のチャンスは、彼が利き足の右足に持ち替えたらGK市川や福森も詰めることが出来たが、草野はトラップした左足でそのままシュート。横浜の守備陣は誰でも触ることができないままボールはゴールに転がった。

先制点の直後、水戸は先制点の草野を下げ、安藤と齋藤を入れる。と、この采配が的中。後半21分には、安藤が落としたボールを齋藤が回収し、そのまま単騎でガブリエウを交わし、飛び出した市川も交わしてゴールを決めた。水戸が先制点から流れをもっていった。

今シーズン複数失点は2試合しかない横浜に2ゴールを挙げる水戸。夏の水戸はまさしくご用心。ただただ気前よくガバガバと梅酒を振舞ってくれるチームではない。

後半から降り出した雨は涙雨の暗示か。いや、まだ残り20分ある。相手が後半の約20分で2ゴールを奪えるなら、横浜は2ゴールどころか3ゴールは奪えるはず。
水戸は横浜から近いこともあり、アウェイゴール裏を埋め尽くす勢いでサポーターが来ていた。2019年よりも2022年よりも確実に人が増えている。その思いの束が太ければ太いほど力になる。雨は反発心を生む材料になった。

目に見えない狼煙

伊藤と村田を2失点の直後に起用。この交代が即的中。後半31分井上の後ろからのロングボールにトラップで抜け出した伊藤が放ったシュートは水戸守備陣に止められるが、そのボールを相手よりも早く反応して奪い再びシュートを放ってゴールに決めて見せた。
狼煙は、その名の通り煙を焚いて味方に情報や合図を知らせるものである。比喩表現なので、スポーツの場合は実際に狼煙が上がることはないのだが、彼のゴールには「追いつくぞ」という強いメッセージがあった。喜んでる暇はないとばかりにすぐにボールを拾ってセンターサークルに戻っていく。

狼煙はサポーターにも届く。息を吹き返した横浜と沈む水戸。この狼煙は反撃の合図だった。

後半42分、中野のクロスを途中交代でその4分前に出場していた髙橋がヘディングで押し込んで同点に。2点差は危険なスコアを地で行くような同点劇。
水戸は、天皇杯のマリノス戦でもその前の山口戦でも追いつかれる失態を繰り返していた。どちらの試合もラインの裏へのクロスで失点を喫している。斜めに入れるボールの落下点の処理に難があった。中野のクロスも左サイドから斜めに入ったもの、1点目の伊藤の抜け出しも井上からのロングボールを上手く収めた時点で勝負ありのクロスだった。

伊藤のあげた狼煙が「追いつくぞ」なら高橋のあげた狼煙は「逆転するぞ」。それに呼応するかのようにこの日最高潮となった応援。ゴール裏だけでなく、メインスタンドもバックスタンドも一体となっての「フリエ Oi」のチャントが水戸にこだまする。アディショナルタイムは、水戸の選手がいやらしい程に傷んでくれたので7分。残り約10分。勝ち切れるか。

唇をかみしめて

後半46分に室井に絶好機が。井上のクロスのこぼれ球に身体を投げ出してシュートを放ったが、雨でぬかるんだ芝に足を取られて強くヒット出来ず、水戸GK松原に弾かれてしまう。
横浜の選手の方が動きが格段に良い。追いついた勢いそのままに攻め込む。しかし、ここからは選手がゴールを欲してか全体的に中央に集まりすぎてしまい、1トップ残してペナルティエリアで守る相手にボールを弾かれてしまうケースが増えていった。

そして、タイムアップ。横浜は3つ目のゴールをこじ開けることはできなかった。勝ち点1を積み上げるにとどまり、9連勝はお預けに。

勝利で中断期間に入ると意気込んでいた選手たちは引き上げてきてもやや重たい表情だった。降格圏付近のチームと戦うとこれからは毎回渋い状態になるだろう。先に失点すればなおさら。降格圏にいるチームだから簡単に勝てるとは限らず、「窮鼠猫を噛む」必死の戦いを見せるはず。

どこかに甘さがあったのならそれはどこだ。自分かチームか、サポーターか。天皇杯での敗退で昇格するにはいいお灸だったと思ったが、まだ足りていなかったようだ。連勝すると自分たちは強いと誰しもが勘違いしてしまう。
この日引き分けたことで、勝利した清水に抜かれて3位に転落。自動昇格枠は2つ。その中の2つに入る自信と準備と覚悟はできているか。この引き分けで下を向く必要はない。ただ、まっすぐ前を見て進みたい。


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