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E204: 誤解しながら生きてる②

(実質的に、178の続きです)

かつての同僚にTさんという女性がいた。 
私がこの職場に転勤してきて、どこに何があるかもわからず、右往左往していた頃、彼女は親切に声をかけてくれた。

彼女は不思議な人だった。

私がただぼんやり考え事をしている時と
私がどうしたものかと考えあぐねている時の
その違いがわかるらしく、

「どうしました?何かお困りごと?」
そう声をかけてくれるタイミングが絶妙だった。

助けられたのは私だけではない。

いろんな同僚のピンチを救ってくれる、
彼女はそんな人だった。

ある日、そんなTさんに、叱られたことがあった。

「源太さん、カップラーメンのゴミは三角コーナーに捨ててくださいね。ここ片付けるの大変なんですから…」



え?
と思ったから、私は抗議した。



「いや、僕は全部食べてるから、ゴミはカップだけなんだけど…」

するとTさんは、目を大きく見開いて、


「全部? え、まさか! 汁まで全部飲み干したんですか!?」

「うん…」


「もう!何やってるんですか!!!身体に悪いですよ。ちゃんと健康のこと考えてます?」


(どっちにしても叱られるんだな。。。)

たまにカップヌードルを食べたい時だってあるわけで、ちょっと放っておいてくれないかな…。笑

いつもの親切が、おせっかいに感じて、煙たく感じる時もあった。

優しくて、よく気がついて、
「お姉ちゃん」みたいな感じで
いつも周りに気を配っているような人だった。

源太さん!まだ若いんだから
ため息つかないで、頑張ってくださいよ!

(もう、たまにはため息ぐらいつかせてよ…)
内心、うんざりする時もあったけれども…


ところが、

そのカップヌードルの件から、しばらくして、
彼女は突然、職場を去った。
理由は「体調不良」とだけ…

職場内、ほとんどの人は事情がわからず
ただ、その理由が理由だけに
あまり踏み込んでもいけないような気がして…

(せめて、ご挨拶だけでもしたかったなぁ…)
と考えていた。

ありとあらゆる人の状況に気を配り、いろんな人のピンチを救い、忙しく働いていた彼女が、突然体調を崩す…。

私は勝手にいろいろ考えた。

(人のカップヌードルの心配なんかせずに、もう少し、自分だけのことを考えればよかったのに…)

「体調不良」という情報だけで、勝手に何かを察して、わかったようなことを、自分の想像の範囲で、考えていた。


……それから5年

先日、久しぶりに、職場の給湯室でカップ麺にお湯を入れた。そんな私を見て、先輩が声をかけてきた。

「珍しいねー、今日はおにぎりやないの?」

「そうなんですよー、昔ここにいたTさんに、『身体に悪い』って怒られたから、それ以来控えていたんですけど…ちょっと食べたくなってね」

「ははは、懐かしいね、彼女。そういうこと言いそうやもんね。あれからもう、5年? 早いよなぁ…」

私のお湯を入れる手が、なんとなく止まった…。 
先輩の言い回しに、ちょっとした違和感を感じる。

(ん? あれから…?)

「あの…先輩はTさんのこと、何かご存知なんですか?」

【連続投稿:  125日目  ライランⅡ: 36日目】

今日は36日目です

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