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この世の誰もが「お母さん」になれてるわけじゃないんだよ。 なりたくてもなれなかった人もいるんだよ。

富山から帰って来た父が「時間がなかったから、大したものじゃないけど」と、お土産をくれた。

ワクワクしながら袋を開けると、そこに入っていたのは「ドライフルーツ」だった。

なぜ北陸で「ドライフルーツ」なんだ。
しかもイチゴとマンゴー。女子か。

「本当はホタルイカを買おうと思ってたんだけど、今日は水揚げが少なかったらしくて買えなかったんだよ」

そうか。なら、仕方ない。

ひとまず「時間ないのに、わざわざありがとうね」と言い、その場でイチゴを食べてみた。

想像通りに甘い。
ジャムが固形になったぐらいに甘い。

夜だったので、カフェインレスのコーヒーを入れて、一緒にいただくことにした。

「コーヒー飲みながらちびちび食べると美味しいね」と言うと、「おう。お店の人も言っとった。一個まるっと食べたら甘いですよって」。

こんなご時世なので、港の近くの市場もガラガラだったらしく、お店の人と立ち話をして来たらしい。

父はすぐに誰とでも話をする。とてもフレンドリーである。
娘としては、どこでも誰でも話しかけるので「ちょっと迷惑」だけども。

「お店の人が、アイスクリームに乗せると美味しいって言ってたぞ。
 バニラアイスの周りに、小さく切って散らしたら、お孫さんもきっと、喜びますよって」

お店の人、そこは地雷である。
うちには孫はいない。

「ああ、孫いないねえ」と思わず言って濁したけど、一瞬なんとも言えない空気になった。

どこの家にも孫はいると思わないで欲しい。マジで。
その言葉に、意外と傷つく家庭もあるんだよ。

* * *

そういう市場系のお店に多いイメージなんだけど、ある程度の年齢の人に「そこのお母さん!」と声をかけているのをよく見る。

不妊治療の末、妊娠出産を諦めた知り合いは、インフルエンザで行った病院で「お子さんにうつさないように気を付けてね」と言われたという。

私自身も「お子さん、おいくつ?」と聞かれたことがある。
「すみません、わたし、子供いなくて(笑)」と答えたあとの「あ!ごめんなさいね!」に続く、なんとも言えない微妙な空気は、本当に、つらい。
お互いにとって、つらい。

別に悪気がないのは分かる。

普通、ある程度の年齢になったら「お母さん」になるし「おばあちゃん」になるもんだよね。
そこから外れてるこっちがレアケースだから、なんかごめんね!なんだけど。

笑ってごまかす父の顔を見てたら、ただただ申し訳なくて、
お願いだから地雷を踏まないでって。
じゅうぶん分かってるから、もうこれ以上、言わないで、傷つけないでって、そう思った。

この世の誰もが「お母さん」になってるわけでもないんだよ。
なりたくてもなれなかった人もいるんだよ。

* * *

もし、私がもう少し年を取って市場に行った時に「お母さん!」って言われたら「お母さんだと?!お前なんぞ産んどらんわ!」と言い放ってやりたいと思う。

その日まで、気持ちを強く育ててやる。

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