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稚内のタクシー運転手さんの優しさに触れた話。【#47歳日本縦断の旅】

北海道に到着した翌日、朝一番の飛行機で新千歳空港から稚内空港を目指した。

乗ったのはプロペラ機。
うっかり、プロペラの隣の席を取ってしまい、振動に耐える1時間となった。

もしプロペラ機に乗る予定がある方は、プロペラ付近は避けることを強くおすすめする。
まじでめっちゃブルブルするから。低周波治療器並みだから。
あ、てことは体にいいのかな(違)

ブルブルしながら稚内空港に到着したのは、1時間後の11時20分。
そこから宗谷岬を目指した。

基本手段は、バスで稚内駅へ行き→宗谷岬行きのバスに乗り換えて→宗谷岬というルート。

ただ、地図で見ると分かる通り、空港から見て駅と宗谷岬は逆方向。

しかも非常に乗り継ぎが悪く、一番最短のバスを乗り継いでも、宗谷岬に着けるのは14時半ごろ。
そこからバスで稚内駅に戻れるのは16時。
さらに稚内駅から次の目的地である旭川駅に向かう電車は18時前までない。

つまり、ほぼ1日稚内あたりをうろつくことになる。

最初は「それもやむなし」と思っていたが、稚内駅あたりには大した店もなく、どうやって時間を潰すか悩ましかった。

雪深い街では徒歩で移動するには限りがあるし、ひたすら稚内駅でぼんやりするしかないか…。
そう覚悟していた。

ところが。
稚内空港に着くと、目の前にタクシーが停まっていた。

思わず近づき、運転手さんに尋ねた。

「ここから宗谷岬に行って少し滞在して、そのまま稚内駅まで連れて行ってもらうことは可能ですか?13時1分の特急に乗りたいのですが間に合いますか?ちなみにおいくらぐらいかかりますか?」

質問責めである。

すると年配のドライバーさんが「1時間半か。いけるいける。1万5千円ぐらいかなあ」と答えてくれた。

1万5千円。
高い。
ここまでの飛行機代と変わらないじゃないか。

「そうですか…。ありがとうございます」と答え、最初から乗る予定だったバスに向かって歩き出した。

1万5千円。
高いけど。
13時の特急に乗れたら夕方には旭川に着く。
電車からは雪景色が見られる。
18時発の電車は真っ暗で何も見えない。

でも。
1万5千円は高い。

どうしよう。

タクシーとバスの間で立ち止まる。

バスの運転手さんが、私に気づいてこちらに手を振る。
「どうすんのー?乗るのー?」

さあ、どうする?
2秒ぐらい考えて答えを出した。

「すみません!乗りません!」
そう叫んで、タクシーに向かって引き返した。

タクシーの運転手さんは、後ろの運転手さんと立ち話をしていたけど、タクシーに向かう私を見ると運転席に戻った。
そして後ろの運転手さんは、「俺が荷物乗せてやるから」と走ってきてくれてスーツケースを持ってくれた。

タクシーの後部座席に飛び乗り「お願いします!」と伝えると「1時ね!だいじょうぶ!」そう言って、するりと走り出した。

ひとり旅をすると、見知らぬ人と話すことが増える。
特にタクシー運転手さんとは、よく話をする。

今回は、約1時間半の道のりだったので、たくさん話をした。

「どこから来たの」「名古屋からです」「そうか名古屋か。おれ、行ったことあるよ。昔はトラックの運転手をしていてね」

その日、私を宗谷岬に連れて行って、さらに13時1分の特急に間に合うように駅に送り届けるというミッションを受けてくれたのは、伊原さんという60代の男性運転手さんだった。

伊原さんは稚内出身だけど、若い時は札幌に住んでいてトラック運転手をしていたそう。
でも40代の時に「親が年取って体壊したから」という理由で稚内に戻ってきたのだという。

過去はトラック運転手として日本全国を走り回り、今は稚内を走っている伊原さんに「日本で一番好きなのはどこですか?」と尋ねると「そりゃあ、ここだよ」と笑った。

「九州も美味しいものいっぱいあるけどさ、ちょっと合わないんだよね。ここがいいよ。友達もいるしね。ここは寒いけど、人はあったかい街だから」

自分が住む街を一番好きと言える。
それって素晴らしいことだなと思った。

「ほら、風力発電が見えてきたよ。あれ、人気なんだよ」
そう言って、見える場所で少しスピードを落としてくれた。

「おお!綺麗ですねー!」そう言って私はシャッターを切った。

果たして私は、自分が住む街を「一番好き」と言えるだろうか。
自分の街のおすすめポイントを話せるだろうか。
そう思いながら。


それから10分ほど走り、目的地の宗谷岬に着いた。
許された滞在時間は5分。

駐車場に車が停まった瞬間「ありがとうございます!行ってきます!」と「世界最北端の碑」までダッシュで向かおうとすると、伊原さんが「あんたも一緒に写らんでいいのか?撮ってあげるから!」と言って、一緒に車から降りてくれた。

「いいんですかー?!ありがとうございますー!」
「いいから!先に行って写真撮っておいで!」

とりあえず記念碑に辿り着き、写真を撮る。
これが最北端の地か…なんて噛み締める時間はない。

(もっと天気が良ければ、海の向こうにサハリンが見えるらしい)

振り向くと、片足を少し引きずって伊原さんが歩いてきた。
数年前に脳梗塞を患い、その後遺症だという。

「ほら!カメラ!」と叫ぶ伊原さんにカメラを渡して、一枚撮ってもらった。

一生の記念になる1枚。
日本最北端の地に立つ私。

(風が強くて寒かったけど嬉しかった)

そこからタクシーに戻り、今度は一路稚内駅を目指す。

「このまま帰っちゃうのかあ。美味しいものいっぱいあるから、今度は泊まりでおいで。ほたてラーメン美味しいよ」

「あれは日本最北端のマクドナルド。本当か分からないけど、日本一駐車場が広いらしいよ」

そんな世間話やご家族の話を聞いていたら、予定より早く稚内駅到着。
その時間なんと12時40分。早い。早すぎる。

「早めに着いてよかった。電車の中で食べるものやら買ってから乗れるな」と伊原さん。

優しすぎるやん。

お代は結局、1万8千円ちょっと。
「ごめんなあ。1万5千円は夏料金だったわ。冬は高くなるんだよ…」と謝って、実は値引きしてくれた。メーターはもっと高かったんだけど。

優しすぎるやん。

(北海道など豪雪地帯は、12月~3月頃まで「冬季割増料金」が適用される。2割増になることが多いらしい)

最後にたくさんお礼を伝えて、駅に入った。
伊原さん、本当にありがとうございました。
また来るので、乗せてくださいね。
それまでどうかお元気で。

(この時代にMT車だった。プロ感すごい)

時間に余裕ができたので、日本最北端の看板を写真撮ったり、「シカパン」やら筋子のおにぎりやらお茶を買ったりしてから、特急「サロベツ」に乗り込んだ。

(中身はあんこ。美味しかったです)

ここから、次の目的地である旭川まで3時間半。
雪景色の中を進む。


以上、稚内から宗谷岬の旅でした。

夏なら、のんびり稚内あたりを散歩したりして、1日滞在も楽しいと思う。
でもタクシーも楽しかったから、おすすめだよ。

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