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句集紹介 秋山巳之流『うたげ』

句集『うたげ』 秋山巳之流 
二〇〇三 北溟社

 作者は昭和十六年岡山県倉敷市に生まれる。俳誌「河」(角川照子主宰・角川春樹副主宰)同人。角川「短歌」「俳句」編集長を歴任。

 後の月角川照子の背後より

「俳句倶楽部銀座」「ぴあ俳句会」(平成十三年時点)。

 頬被とりて卯波の客となる

 句集に『萬歳』、著書に『魂に季語をまとった日本人』『わが夢は聖人君子の夢にあらず―芭蕉遊行』。

 義仲寺に香手向けをり破芭蕉

 タイトルの「うたげ」は、長年にわたる編集者としての仕事が自身のうたげであったという意味。人の名を詠み込んだ句が頻出するのもそのためだという。

 おおでまりこでまり金子兜太かな

 飛花落花をとこは藤田湘子とぞ

 花びとに年季の後藤比奈夫なり

 頻出する、といっても人の名を直接詠み込んだ句だけを数えても三六〇句ほどもある。

 作者は二〇〇一年十二月に入院。自らの命運を神に預けることになる。

 初鏡魔羅の根元にメスの痕

「あとがきに代えて」の中で、いま獄中にある角川春樹が俳句の師であるという。

 海鼠詠む角川春樹や織の中

 自身の俳論に代えて飯島耕一氏へのインタビュー記事を載せている。

 飯島「詩、俳句、短歌、おしなべて詩の根源には悪があるはずだ。これを忘れて今や善良な市民詩人ばかり。角川春樹の優れた作品に対し、人々を鈍感にさせているのは、そんな風潮でしょう。

『俳句界』二〇〇二年九月号

自身では、結社について俳句について、姜琪東氏との書簡のやりとりを転載してこう述べている。

 「志」とは、もののふのものだったようです。武士の士の心です。芭蕉はんも手紙の中で、「武士」と書いて、「もののふ」と読ませているほどです。〈結社〉は主宰、そして会員という時代になってしまいました。しかし、〈結社〉とは、あくまでも師と弟子なのです。「志」ある師と、同じく「志」をもった弟子の集まりが、〈結社〉でしょう。それでこそ、師弟の歓を尽すことができるのです。師弟の歓を尽して後、俳句とは何か、人生とは何かも識ることができるのです。

『俳句界』二〇〇二年十月号

 本句集は、この世の人、あの世の人との宴だともいう。
 作者は二〇〇七年、この世の宴の席を立たれた。

 ごまめ喰ふときをゆつくりかけなはれ

(岡田 耕)


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