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鑑賞*ひとひらを波の届ける桜貝(拡大版)

佐野 聰

鎌倉の由比ガ浜海岸は、桜貝が拾える場所の一つ。
由比ガ浜の桜貝は、江戸時代の浮世絵に描かれるほど観光地としても有名だったらしい。多い時には砂浜一面が薄桃色に染まるほどだったともいう。
桜貝が拾えるかどうかは、潮の干満、季節や天候によって異なってくる。
四月の上旬のとある日の早朝に、江ノ電に乗って由比ガ浜海岸に出かけてみた。遠浅の砂浜の広がる海岸である。そこにいるのは、波乗りの人、犬の散歩をさせる人、網を繕う漁師ぐらい。小さな白い貝の散らばる中に桜色の貝を探す。海岸を往復するくらい歩いて、ようやく一枚が見つかった。目が慣れてくると五枚、六枚と見つけることができた。
 この日、桜貝のほかにも春の贈り物を授かった。
滑川を下って来た花筏、そして砂浜に打ち上げられた桜の薄桃色の花びら。これが全部桜貝だったらいいのに、と思うほど波の先の砂に張り付いている。もう一つが若布。昨日の大風で海が荒れたためか、砂浜に根こそぎ打ち上げられている。
 句は「ひとひら」と、さりげなく言っているが、今時の桜貝拾いで一枚を拾うことが貴重であることを言い得ている。そしてそれはまた波に届けてもらわなければ、手に入れることはできないのである。
波が砂浜に桜貝を届けているのだが、見つけた時の喜びからすると、海から自分への贈り物のようでもある。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和五年九月号)

☆桜貝は、アクセサリーにもなります。


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