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歳時記を旅する15〔梅雨寒〕後*梅雨寒や着けば出てゆく乗換便

磯村 光生

(平成五年作、『花扇』)

五月四日(陽暦六月二十日)宮城県名取市の笠島を訪れようとした芭蕉一行だが、連日の雨のせいで道は悪く、疲労困憊して訪問を諦め、「笠嶋はいずこさ月のぬかり道」との句を残す。

笠嶋は西行も「朽ちもせぬその名ばかりを留めおきて枯野の薄かたみにぞ見る」と詠んだ歌枕の地。

この後、快晴になるのは、念願の松島へ向けて小船を借りて塩竈を出る五月九日(陽暦六月二十五日)まで一週間ほど待つことになる。

 句は、船か列車か飛行機か、乗り換えの客が乗り終えると、今日は雨なのでここに留まる理由はありません、とばかりに名残もなく引き返して行った。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和三年六月号 「風の軌跡―重次俳句の系譜ー」)


写真/岡田 耕
   塩釜港より遊覧船にて

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