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歳時記を旅する51〔薫風〕中*薫風や裏は英語の新名刺

佐野  聰
(平成七年作、『春日』)

 寺田寅彦は、「薫風」に純日本的感覚を見出している。

「少なくも日本の俳句や歌に現われた「涼しさ」はやはり日本の特産物で、そうして日本人だけの感じうる特殊な微妙な感覚ではないかという気がする。(略)同じことはいろいろな他の気候的感覚についてもいわれそうである。俳句の季題の「おぼろ」「花の雨」「薫風」「初あらし」「秋雨」「村しぐれ」などを外国語に翻訳できるにはできても、これらのものの純日本的感覚は到底翻訳できるはずのものではない。」(「涼味数題」『科学歳時記』角川ソフィア文庫)

 句は、名刺の裏の社名も名前も所在地もすっきりと無駄なく英語に訳されている。それもまた爽やかで清々しい。

(岡田 耕)


(俳句雑誌『風友』令和六年六月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)



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