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お字書き道TALKS的【印刷の歴史】①「紙が高価だった時代編」

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今回は印刷の歴史について「お字書き道TALKS」的に気になった部分を分厚めに取り上げつつ古代から現代までざーっと追ってみたいと思います。

※このシリーズはタナカが書いております。



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「フォント」3つの意味の変遷


日常的に「フォント」と言う言葉を使うことがあると思います。

フォント(英: font) は、本来「同じサイズで、書体デザインの同じ活字のひとそろい」を意味する
Wikipedia(フォント)

現在はスマホやPCなどでデジタル化され画面に表示される文字のデザイン(明朝体、ゴシック体)をフォントと呼んでいますが、元は活版印刷時代の活字について「同じサイズで、書体デザインの同じ活字のひとそろい」をフォントと呼んでいたのでした。

活字は鉛を溶かしたものを文字の形に成型して作られています。鉛は柔らかいので何度も印刷に使われると削れたり変形したりして文字の輪郭がぼやけていってしまうため、再度溶かされて再成型しながら使っていくのですが、中期フランス語で「溶けた物」(すなわち鋳物)の意である「fonte」から由来して、フォント(font:元々イギリス英語での綴りはfountだが、発音はfontと同じだった)と言う言葉ができました。


「溶けた物」をあらわす言葉が、硬い金属の文字型である活字のひとそろいを指すようになったのは面白いなあと思います。

これがひとつ目の意味の変遷。

その後、タイプライターの時代や、ガリ版刷りの時代なんかも経由しつつ、現在のデジタルの時代にたどり着くのですが、その後もフォントの指す意味は変遷していきます。

3つの意味の変遷を経て現在に至るのですが、その歴史を古代からさかのぼって辿ってみたいと思います。



印刷の歴史「紙が高価だった時代編」

古代編①(紀元前3400年・メソポタミア文明)


世界四大文明のひとつ、シュメール人によるメソポタミア文明には学校の社会科でもおなじみの楔形文字と言うものがありまして、Wikipediaによると。

筆記には水で練った粘土板に、葦を削ったペンが使われた。最古の出土品は紀元前3400年にまで遡ることができる。文字としては人類史上最も古いものの一つであり、古さでは紀元前3200年前後から使われていた古代エジプトの象形文字に匹敵すると言われている。(中略)また先を楔形にした尖筆を粘土板に押し当てて書くようになった。
出典:Wikipedia(楔形文字)
出典:Wikipedia(楔形文字)

この画像の通り、楔形の尖筆を粘土板に押し当て、その楔形の組み合わせによって文字を描こうとしたわけです。ちょっと違うかもしれませんが、アイディアの方向性的には活版印刷的ですよね。



古代編②(印鑑文化)

紀元57年:倭奴国王が後漢に使いを送り、光武帝より「漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)」の金印を受け取る。

動画(ポッドキャスト)では歴史が苦手、無教養なところを披露するかのように、「漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)」が上手く読めなかったり、以下のエピソードと混乱したりしてしまっていたので、いまここでその懺悔を書いておこう。

日出る処の天子、書を、日没する処の天子に致す。恙なきや。

※607年に聖徳太子が書いて、推古天皇の名前で中国の皇帝にあてた手紙。中国の皇帝に渡したのは小野妹子。


印鑑と言うのは先に書いたメソポタミア文明の楔形文字のように何かの形、文字の形を写し取りたい先の紙などに押し付けることで小さな範囲の印刷を行うためのものと言っていいかなと思います。

239年:魏の国の王が邪馬台国の女王・卑弥呼に、貢物の返礼として「親魏倭王(しんぎわおう)」の金印を授けた(諸説あり)

先の「漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)」の金印しかり、どうも古くから印鑑を宝物のようにして送り合う文化があったようですね。小さな印刷用の道具以上の意味が印鑑にはあって「○○王様から印鑑もらったぜ!(だから俺はエライ!)」みたいな感覚だったのかな。

身分を表すある種のIDカード(棒)的なものだったりして、関所で通行手形の役割なんかも果たしたりした。こんな感じで、文字を紙に表す小さな版(印)の文化がかなり発展していて、人類がもっと大きな印刷もしたくなってくる前段だったのではないかなと思ったりするわけです。



世界最古の木版印刷「金剛般若経」(868年)

敦煌で発見された金剛般若経、咸通9年(868年)刊刻。
大英図書館は「日付が確認できる世界最古の印刷物」とみなしている
出典:Wikipedia(金剛般若経)

前項に書いた<魏の国の王が邪馬台国の女王・卑弥呼に、貢物の返礼として「親魏倭王(しんぎわおう)」の金印を授けた>らしいのが紀元239年だそうですから、それから600年ちょっと経ちますとこんな感じの「日付が確認できる世界最古の印刷物」が登場します。

書いてある字はもう今の字とほぼ同じもので、読めますね。これは書聖とも呼ばれた王羲之(おうぎし、303年 - 361年)の時代にはすでに今に通じる「楷書」が確立されていたそうなので、現代のわれわれはこの「金剛般若経」(868年)に印刷されている文字を読むことが出来ます。


○書聖・王羲之については以下の動画で詳しく取り上げていますので是非ご覧ください。

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活版印刷以前の印刷「まとめ」

世界最古の木版印刷物「金剛般若経」(868年)から200年弱経つと。金属製ではないものの陶器の活版印刷技術が誕生します。

紀元1040年頃に畢昇(ひっしょう:北宋の発明家)によって陶器の活版印刷技術が発明

そして1450年には人類史上最大の発明のひとつに数えられるヨハネス・グーテンベルク(ドイツ)活版・プレス印刷の発明がやってきます。そして世界は一気に活版印刷の時代に突入し、明王朝(1368年~1644年)期の前半14~15世紀には日常でもなじみ深い「明朝体」が完成したりします。

このあたりはシンクロニシティと言いますか、ざっくり西暦1500年ころに人類は大量印刷の時代に突入していくと言うことなんでしょうね。


この記事は「お字書き道TALKS的【印刷の歴史】」と言うタイトルで、途中の見出しに印刷の歴史「紙が高価だった時代編」と書いておりましたが、グーテンベルクによる活版印刷技術の発明がもしもっと早かったとしてももしかすると「紙が高価だった」ために大量印刷の時代へはそうそう移行できなかったのではないかと想像します。

蔡 倫(さい りん、63年 - 121年)は、後漢宦官敬仲荊州桂陽郡耒陽県に生まれた。

木の皮や竹、絹の布などに文字が書かれていた時代で製紙法を改良し、実用的な紙の製造普及に多大な貢献をした人物として知られている
Wikipedia(蔡倫)

江戸時代(1600〜1868年)の紙の値段、について少し調べてみると。ざっくりですが江戸後期で半紙(24×35cm)が12~20文程度だそう。1両を13万円とした場合で1文が32.5円程度。これは1両を幾らとするかで変わるみたいで1文=12円程度と言う計算もあるみたいですから、一概には言えませんが間を取って「1文=20円」として半紙の値段を「15文」と仮にすると、1枚300円することになります。江戸後期(1750頃~1850頃)でこの値段。しかも和紙と言うのはリサイクル性に優れていたため他国より安価だったそうですから、仮にグーテンベルクが活版印刷技術を発明した1450年のドイツ、ましてや1040年に中国で陶器の活版印刷が発明された頃なんかだと数倍以上の値段がしてもおかしくありません。

仮に1ページの紙代だけで数千円となってしまえば、例えば聖書1冊買おうとしたら、日本聖書教会発行の「聖書 新共同訳」(カトリック、プロテスタント両派で共通して使っているやつです)では、旧訳で1502ページ、新訳で480ページとのことでして、仮に1ページの紙代に印刷費を加えたものが安く見積もって1000円としても聖書を1000ページとした場合で1冊1000円 x 1000ページ=100万円。ここに製本代と利益を乗っけて冊数の少なさからくる希少性なんかも加味すると聖書一冊「数百万円」からと言うことになりそうです。


楷書が成立する王羲之(おうぎし、303年 - 361年)の時代にももちろん紙はあったわけですが、いまに残っているのは石碑だったりします。紙は貴重品過ぎることや、当時の製紙技術は高くなかったでしょうから保存性にも優れずで、当時の書作品なんかは主に石碑で残っていたりします。紙に書かれたものを、石に彫り付けた。

そして、その文字が彫り付けられた石に墨を塗って、そこに高価なる紙を押し付けて文字を写し取る「拓本」と言う形式で、当時の書道家たちは優れた文字を学んだそうです。

要するにこれって「印刷して配る」と言うことではなく、「版を解放しておくので各自印刷しに来てね」みたいなことなんじゃないかなと。


いまでは、版権ビジネス。版元がエライと言う世界観ですが、想像するに当時は版があっても紙が高すぎて自社で印刷をして売るみたいな形式にはならなかったのではないだろうかと。製造しても売れなければ超高額の在庫を抱えて倒産・破産だし、そもそも原材料を仕入れる時点で相当リスキーなビジネスって感じがします。

印刷の歴史「紙が高価だった時代編」と言うのはそのようなイメージにたどり着いた「お字書き道TALKS的【印刷の歴史】」の仮説からでありました。


しかし、仮に100万円程度であれば、特に西洋社会であれば一家に1冊くらい聖書持ちたいよねとかなりそうですし、紙が安くなり、印刷技術が向上すると、だんだんと版元がエライ、版権の時代がやってきそうです。

かつてイギリスで出版されていた月刊誌『ストランド・マガジン』(1891年1月~)にはシャーロックホームズの冒険(アーサー・コナン・ドイル著)が連載されていたりして、当時のイギリスを熱狂させたりしていたわけですから、この版権なんか持ってたらスゴイ儲かりそう。

次回②活版印刷時代編では、そんな時代に突入してまいります。


気になった方はスキ&フォローして来週をお待ちください。

続く!


※毎週火曜19時更新

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