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水深800メートルのシューベルト|第875話

 ハッチから出て来たばかりの、カーキ色の作業用軍服を着た彼は、僕の知る穏やかさを保持しながらも、非難に値するものを見つけた時の厳しい目を表情に湛えていた。


「まさか、軍内で第一級殺人未遂を目撃することになるとはな。どうして他の者は止めないんだ?」
彼は、ロバートや僕以外の見物客にも厳しい目を向けた。囃し立てた連中は何も言い返さなかった。ロバートは、今さっきまで蹴落とそうとした相手を、サッカーのファウルの後のようにわざとらしく起き上がるのを助け、僕の肩に手を回して、その場を取り繕うとして言った。


「おや、ゲイル軍医殿じゃありませんか。いやいや、軍医自らお越しにならなくても、もし落水者が出ましたら、医務室へ我々が運びますから」

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