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四国って、こんなに近いのか【2015.02 飯盛山】

南海特急和歌山市行きの電車に乗り込み、大阪南部の山、飯盛山登山口に向かった。電車に和歌山市という、まだ行ったことのない地名が載っているだけで気分は高まるものだ。次は和歌山の山に登ろうかなと考えながら、登山口の最寄り駅で電車を降りる。そして即、登山靴がないことに気づいた。登山靴を積んだ電車はホームを離れ、和歌山市駅へと向かっていった・・・。私も登山靴を追うようにして、別の和歌山市駅行きの列車に乗り込んだ。

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まさかこんなかたちで和歌山に来ることになるとは思いもよらず、ことの顛末に情けなくもあり、おかしくもあり、ものすごく居たたまれない気持ちで和歌山市駅に降り立った。鳩が軒並み頭を身体に埋めており、とても寒そうだ。登山靴を追いかけて和歌山市に来ただけの自分にとっては、ただただ寒さに耐えようと、じっと動かずにいるこの鳩の群れの中に混ざることが、せめてもの気持ちの慰めとなり、戻りの電車の待ち時間を穏やかに過ごすことができた。さて、これからどうしたものか。

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飯盛山は、和泉葛城山の西側に広がる一群の山のひとつで、大阪で一番海に出っ張った部分にある。標高400m程度の山がポコポコあるエリアなので、複数の山を縦走的に楽しむことができるため、今回のルート計画もそういう意図で立てていた。したがって、登山靴を回収しに和歌山市駅に入ったばかりに、登山時間が切迫していた。もういっそ和歌山で観光でもして帰るか、それとも急いで登ってなんとか日没までに登山を収めるか。悩んだあげく、飯盛山の登山を決行することにした。和歌山には、改めてちゃんとしたかたちで来ようと決意し、大阪へと舞い戻る。さらば、和歌山。ただいま、大阪。

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麓を歩いていると、冬場でも落葉しない常緑広葉樹の森が広がっており、沿岸性の温暖な気候が想像される。ある種の樹海のような森のうねりで、山と渓谷の地図に樹海の表記があるのも頷ける。すでに日暮れに入った暗い森の中を歩いて進む。暗いとはいうものの、大阪は西側が海に開けた土地であるため、西日が日没ギリギリまで森に届いてくれるので、方角があえば途端に明るい森に出くわす。あっという間に山頂に着いた。

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潮気のある風が海側から吹いており、小さな雨雲が迫ってきた。さーっと小ぶりな雨をひとしきり降らし、あっという間に去って行く。なお風は海から吹き続け、この潮風が飯盛山の豊かな森の肥やしとなっているのかと思うと、海と山の大きなつながりが潮風を通して身体に沁みてくる。そして四国はこんなにも近かったのかと思うと、この風も、実は四国からのお誘いのような気がしてきて、身体がうずうずしてきた。

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順調に日は沈んでいく。西側が開けているだけで、こんなにも日持ちするなんて(こんな言葉あるのだろうか)。常緑樹の森の隙間から、夕日の滴が滴り広がっていく。蜂蜜みたいなビロード状の森の輝きに感動しながらも、足下から着実に迫ってくる夜に追いつかれないよう、足を止めずに下山する。一度だけ、暗くて尾根の分岐点を見逃したが、地形図と景色がずれていることに気がつき、うまくルート回復することができた。

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夕日の残り日(こんな言葉あるのだろうか)が地平線で燻るのを眺めながら、駅の待合室で電車を待つ。良い一日だったと思う。良い一日だと思えた以上のことは何も求める必要はなく、安らかな眠りにつくのにはこれで十分なのだ。この日は良い一日だった。

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