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雨乞いの山で、雨に打たれさ迷う【2015.02 和泉葛城山】

大阪を他県と分け隔てる葛城山は2つある。奈良との県境に聳える大和葛城山、そして和歌山との県境を形成する和泉葛城山。当時の私は、和歌山県に足を踏み入れたことがなかったので、未踏の地を望むことができる和泉葛城山の山頂に強く惹かれ、雨天に包まれた雨乞いの山に登ることにした。

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和泉葛城山は大阪側から眺めると、そう遠い山に感じず、距離感が近い感じがする。登山口の標高が高いということだが、それだけ大阪側は山の近くまで生活圏を広げたということを意味している。民家の裏側を行ったり来たりしながら、登山口を探し当てた。変なマイナールートを選んだこともあり、なんだか幸先が悪い。

雨で視界も悪い中、明らかに登山道でない道を突き進む。現在地もよくわからなくなり、あれよあれよという間に道迷いした。最初は少しのズレだったはずのものが、気づけば大きなズレへと広がっていく。降り注ぐ雨が、人生の教訓を教え諭してくるように感じる。アホですみませんと頭を垂れながらも、乗らなければならない尾根は方角的に分かっていたので、とにかくその尾根を目指してひたすらに登る。

尾根にとりつく手前、足跡で固められた道を発見する。道のかたちから現在地が無事に同定でき、ほっと一息。真っ白だった地図のなかにぽつんと一人、ようやく一つの点に定まったとき、それはもう視界明瞭な世界が広がった。これだけ大きな山の中で、一面雨が降り注ぎ、雨音が針葉樹の森で弾け奏でられる。そこには、こんなにも小さな私ひとりしかいない。雨雲で視界の悪い景色が、より一層景色に奥行きと深みをもたらしてくれる。

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稜線部までくると、森の植生が大きく変わった。大阪側から見上げると、針葉樹の織りなす深緑色をしていた山が、すっかり落葉した広葉樹の森へと変わったのだ。和歌山側の懐は深く、麓までの距離も集落までの距離も遠い。大阪側とはまったく印象の異なる山の姿に、はっとさせられる。こういう景色をみることで、和歌山へと足が引き寄せられていくのだろう。

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山頂に近づく頃には雨も上がり、林道に出た。和泉葛城山は、登ろうとすると厄介なルートもある山だが、実は車で簡単に山頂に行ける手軽な山でもある。あまり人の来ない物静かな山頂で、車で訪れる人も少ない穴場スポットだ。部分的に松林があるのも面白い。おそらく公園景観的に植林されたのではないかと想像するが、果たしてどうなのだろうか。人工林のなかにもアカマツがポツポツと生えていたので、自然植生である可能性も十分ありうる。

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自然の仕組みの解き明かしは、自然の秘密を覗き見た一部の人たちにしかできない秘密のプロセス。科学が鍵を握っていることもあれば、あらゆる経験のなかに秘密の鍵が落ちていることもあり、そのプロセスには、自然の秘密を覗き見ることに人生をかけるだけの価値があるんだと思う。

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雲も晴れて雨も上がった和泉葛城山の下山は簡単で、さくさくと歩みを進めた。下山先は牛滝と呼ばれる地区。役行者が開いた最古の霊場といわれる場所で。きっと大峰に通ずる何かがあるのだろう。当時の私も、現在の私も何も思い浮かばないので、もう一度現地に行って雰囲気を確認したいものだ。

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麓に下りてからは温泉に浸かった。和泉葛城山というと、どうしても県境に東西に延びるイメージがあるため、南北の奥行きは薄い印象があるが、実際に登るとそんなことは全くなく、南北にもこれだけ深い谷が折り重なっている。これは和歌山県を流れる紀ノ川まで連なり、南北だけでもひだのような山並みが続くというのだから面白い。いつかは和歌山側から登りたいと思いつつ、昨今のご時世を鑑みて、きょうのところは一旦、筆を置くことにしよう。

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