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「筋違御門うち」−彼女の人相大公開−『江戸名所道戯尽』

昨日の話ですが、サントリー美術館で開催中の展示『歌枕』を見に行きました。

展示作品の中には屏風絵だけでなく国芳や北斎の作品もあり、非常に見応えのある展示でした。
歌枕の主題となる場所について、わからない人でも理解できるように歌枕を表すモチーフを一つ一つの作品に書いてあったので同じ場所を扱う作品が始めと終わりにあっても、思い返すことが出来ました。

サントリー美術館は展示方法にとても遊びごろの詰まった展示をするので毎回楽しみにしていました。
今回は最後の作品とその部屋に粋な演出がなされていて、その仕掛けに気づいた時には声が出そうなくらい興奮しました。
ネタバレしないようにここまでにしておきます。

8月末まで開催されているのでぜひ訪れてみてください。

そんな昨日を恋しく思った今日も広景。今回は『江戸名所道戯尽』「二十九 筋違御門うち」です。

◼️ファーストインプレッション

でた!
この虫眼鏡を見つめる女性は北斎の『北斎漫画』からの引用であります!
この女性がどんな状況で虫眼鏡を覗き込んでいるのかはわかりませんが、とても不思議そうな表情であります。
その虫眼鏡を差し出す男性はつまらなそうな顔。

この女性を見る手前の男女は凝視して、これまた珍しそうに見つめている様子。
隣の子供はそれを自分も使いたいと言わんばかりに興味津々。

今回は虫眼鏡を描いた絵を見ていきたいと思います。

◼️天眼鏡

この虫眼鏡を覗き込む女性の絵は『北斎漫画』に準えたものだということは先ほど指摘しましたは、やはり日野原健司さんの『ヘンな浮世絵 広景のお笑い江戸名所』でもこの指摘はありました。
そしてこの虫眼鏡だと思っていたものは「天眼鏡」というもの。

人相見(にんさうみ)や手相見が用いる大型の眼鏡。凸レンズに、枠と柄とを付けて、片手で使用する。

『角川古語大辞典』にある意味です。
古語ということで、現在はこの言葉は使われていないのでしょう。
人相見や手相見という占い師的な人が占う人の顔や手相をじっくり見るために使ったのですね。

(運命など普通では見えないものまで、見通そうとするものというところから)人相見の用いる凸レンズ。また、一般に拡大鏡。

『日本国語大辞典』にある意味です。
こちらで重要なのが()内の言葉の由来。
天眼鏡の天は何を以って天としているのか、検討もつきませんでしたが、(運命など普通では見えないものまで、見通そうとするものというところから)部分から千里眼的な意味を以っていることがわかりますね。
天から見れば全てお見通しというような意味合いを含めて「天」をつけているのでしょう。

ただ、天眼鏡と調べた時に私たちが知っているような虫眼鏡が出てきたので、実質虫眼鏡ではあるけれど江戸時代当時の呼び方と使い方が少し相違があるのですね。

◼️『北斎漫画』×天眼鏡

『北斎漫画』にある元祖の天眼鏡の絵を見てみましょう。

『北斎漫画』「十二編 天眼鏡」です。
こっちの占い師の男性はニヤニヤして穏やかに占いをみています。

髪型からして女性は遊女的な芸妓さんである可能性があり、彼女の将来の吉凶を占っているのかもしれませんね。

ちょっと不思議そうな顔に見えるのは、この女性に眉毛がなく、上がっているように見えるからでしょうか。
広景の女性は眉毛がしっかりと描かれており、目を凝らしてじっくりみているように見えますね。


三代広重『世の中天眼鏡』です。
上の絵に背中を向けている人がいますが、その人が右手に携えているのが天眼鏡。
手相を見ているというよりかは、おそらく人相を見ている気がする。
その占いの結果を、人のであっても聞いてやろうという人が集っている様子ですね。
当時は現代よりも占いにオープンで、人のも聞けるのもあって重く捉えすぎていなかったのかな?

こちらの記事に江戸時代の占いの変遷について書かれています。

日本はもともと占いは特に陰陽師によって平安時代から使われていました。
そこに江戸時代に発展した天文学や測量学により、より正確な情報を得ることができるようになりました。

そこ学問が流布するにつれて、こういった陰陽のような占いが民間にも親しみやすくなってきたのです。
このような占いに準えて、たとえば辻占煎餅のような商売にも発展していきます。
今でいう、道端の〇〇占いのようなボックスが近い存在かもしれません。

この商売の延長で、実際に人間が人相学を得てそれを人に当てはめる人相見という職業が生まれました。しかしこの占いは人々を幻惑するとして明治維新後に禁止になってしまったようです。

人相見はもともと鎌倉時代から人相術として存在はしていましたが、商売にしてそれが盛んになったのはこの時代なのでしょう。

人によって内容が違うし、人相や手相の皺一つで結果が変わっていく面白さは現代でも人気の手相占い師がいるように、人間の心をくすぐるんですね。

私もまたあのおばさんに占ってもらわないと!


今日はここまで!

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