「俺はピンときてないッスけどね」 -男子発言ノート39
とある魔性女子の名前が話題に上がったので、「あのモテる子ね」と内心(またか)の心持ちで相づちを打った。すると男子は、
「らしいッスね。けど別に、俺はピンときてないッスけどね」
と、一瞬首をかしげ、魔性女子のそこらへんの側面はサラッとスルーして本題に戻った。
おお、と思った。なんか、イイ。すごく、イイ。
言っとくけど、その魔性女子は本当に魔性なのだ。私は実際に会ったことはないけれど、どんな男たちも魅了してしまう魅力があるのらしい。彼女を好きな男たちの話をこれまでにたくさん聞いた。そんなことらを、つまりはじぶんではない女子がモテてる話など聞かされている時間は、この世で最もつまらない時間だ。ぷんすかだ。
だから(またか)と思った。(はいはい、キミもブルータス)と。
ブルータスというのは、言わずと知れた古代ローマのカエサルが、暗殺される時に発した「ブルータス、お前もか!」の、ブルータスのことなのだけれど。
学生時代、やはり抜群にモテる女の子がいて、彼女の周りの男子がやはりことごとく彼女を好きになっていって。そんな状況に、日々気持ちが腐っていった私たち思春期女子たちは、また一人、また一人、と彼女を好きな男子が発覚するたびに、習いたての世界史の授業で聞いたフレーズから、ここぞとばかりに「ブルータス、お前もか!」といきり立ち、非モテ同志の連携を互いに強固なものにしていった。男子本人に言うのではない。あくまでも同志女子だけの場で、和気あいあいと息巻いて、いきり立ち合う“だけ”である。
……何をやっとったんじゃ。そんなだからモテないのだ。
いや、まぁそんな感じで、時を経て今また、魔性女子のことを話題に出した彼も、どうせ彼女に一目置いているブルータス一味なんだろうな、と即座に踏んだのだった。
それなのに、「俺はピンときてないッスけどね」。
もうこれは、我らが非モテ女子の歴史が変わった瞬間だった。
「ブルータス、お前もか!」じゃなくて、「ブルータス、お前だけは違ったのか!!!」と溢れんばかりに歓喜に沸いた。カエサルにも聞かせたかった、本当に。(天国の、そして全国のカエサル女子たち、聞いてる?涙)
しかもさ。なんかも一つイイのはさ、彼は魔性女子にはピンときてないけど、私には……
私にはピンときてたりする!? してねっか! いや、する? いつかする? もうすぐする? どうしたらする?
…… とかムダに、
本当にムダにだけど!
期待させてくれちゃうじゃない!
妄想膨らませてくれるじゃない!
ってところ。そういうところが、素晴らしく良かった。ありがたかった。紫綬褒章をあげたい。彼には生涯超モテてほしい。
だからってね、彼が私を好きになるなんてことも、ないのにね。
だけど、嬉しかったのだ。男なら誰もが魅かれる女子に興味がない男子なら、じぶんには関心を向けてくれるかもしれない。なんて、ひとひらでも希望を感じられたのが。勝手にだけどね。
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